イラストレーションNo.220に掲載された、たむらしげるさんと絵本編集者・土井章史さんによる対談を、4回に分けてお届けします。
一緒に巡った古書店の話に始まり、作家と編集者の立場からの絵本への言及、そしてお宝自慢など、この2人だからこそのエピソードが飛び出します。
(連載のまとめはこちらから)
撮影:根本絵梨子
パートナーとしてのロボット
土:たむらさんの作品といえば、ロボットの印象があります。いつもパートナーでいますよね。
た:常に側にいる親友のようなものを欲していたんだろうね、きっと。
土:親友が人間じゃなくて、ロボットなんですよね。
た:不思議だね(笑)。ロボットとかクマとかね。
土:たむらさんの作品では、人と人の関係というのはあまり登場しないですよね。
た:そういうほうがクールなんだよね。関係がごちゃごちゃしてないで、少し乾いてる感じが自分としては付き合うのに居心地がいいのかな。
土:『ダーナ』もそうだけど、相当孤独ですよね。機械仕かけのロボットが星に1人でいたり。
た:担当編集者としてあの原稿を受け取った時どう思った? 売れるかなって思った?
土:売れるかなんて、僕にはそこまで余裕なかったですよ。でもすごい作品を受け取ったなって。
た:あれはやっぱり子どもに向けちゃうとNGだよね(笑)。あの絵本は〝イメージの森〟というシリーズの1冊なんだけど、そのシリーズについての解説が帯に書いてあったでしょ?「絵本は子どもだけのものじゃない」って。僕はあれを真に受けちゃって。絵本は半分以上は子どもが読むべきものなんだけど、僕は『ダーナ』については、もろ大人向けに描いちゃってる。
土:その流れでもっともっと出来れば面白かったですけどね。ビジネスとしてはなかなか難しかったですね(笑)。
た:少なくとも6割は子どもに分からないと、絵本としてはまだ難しいよね。例外もあるかもしれないけど。
土:たむらさんの中ではロボットはそんなに整理出来ていないっていうか、なんとなく自然に出てきちゃった感じなのかな。まぁ人だと面倒くさいよね。ロボットのほうが我を出せるっていうか。人だとやっぱり人という存在について考えなくちゃいけない。
作品テーマの1つの「時間」
土:あと『よるのおと』もそうだけど、時間の流れですよね。
た:時間については、ゆっくり動いたりあるいは静止したり、ある意味で憧れみたいなものが自分の中にあって、漫画とか映画とかで時間をテーマにしたものがあったりすると興味持って観るけど、なぜ惹かれるのかはよく分からないね。
土:たむらさんの作品では、時間の流れも大きなテーマですよね。
た:絵本でも時間が静止しちゃったようなものも、機会があったら描いてみたいなとは思っているんだけど、それが子どもに理解出来るかどうか、1つの壁になってるよね。理解出来るように描くのがプロの技ではあるんだけれども、どう面白く見せるかというのが今後の課題かな。
土:鉱物とかが好きっていうのは時間と関係あるんですか? 太古の昔からあるものだという。
た:いや、関係あるのかどうか分からないんだけど、好きなことは事実なんだよね。それがなんでなのかって分からないけど。
土:分からないままやっちゃってるんですね(笑)。
編:石は実際に購入されたりするんですか?
た:そう。アトリエにもありますよ、隠れているけど(笑)。埃だらけだけど、これはフローライト。
土:たむらさんは鉱物が大好きなんですよ。多分こうやって見ながら、その世界に入ってる。
た:この辺に人が立ってて、とか想像するとそれだけで絵になるでしょ。この石は『水晶山脈』の中で使われていますよ。
編:鉱物にもお詳しいんですか?
た:詳しいってほどじゃないんだけど。単純に結晶としてきれいなものを手元に置いておきたい、ただそれだけのことなんだけどね。絵本の収集とそんなに大して変わらないと思うけど(笑)。
土:変わらないですよね。まぁ僕はこっちのほうにはいかないですけど。僕の中では勝手に鉱物の話から時間に繋げようとしてたんだけど、好きってところで終わっちゃった(笑)。
た:土井くんは、今の絵本の業界の中でたむらしげるってどういう位置にあると思う?
土:たむらさんという絵本作家は、作家性というところが一番大きいと思います。最初の版画集を作るところから始まって、作家性を貫いてきた人だと思うんですよね。そういう作家性の人ってそれなりにファンがいて、ある程度作品も売れる。作家性を貫く作家って日本の中で何人も出てきてて、それで生きていける作家が何人もいればすごく面白くて豊かな世界だと思います。
でも一方で、それとは別に子どものエンターテインメントとしてやってる作家もいる。僕はどちらかというと普段仕事では子どものエンターテインメントをずっと作ってて、フリーの編集者だから「売れるぞ」って方向で作んなくちゃいけないんですけど、そういった作家性を持った人が、イラストレーターでも絵本作家でももっともっと増えてくれば、面白い世界になるなぁって思うんですよ。そして、それはそんなに売れなくてもいいと思ってる(笑)。
た:その中でバランス的に、子ども受けする媚びた絵本が多くなりすぎちゃったんじゃないかってことを僕は「産経児童出版文化賞」の授賞式のスピーチで言ったつもりなんだけど。その辺のバランスが崩壊してしまった。売れる絵本だけが圧倒的に売れてて、その中間にあるはずの多様な作品が表に出にくくなってしまった。それに対して「これでいいのですか?」と言ったつもり。
土:そうそれ、辛い状況かもしれません。
た:絵本作家、出版社、編集者にとっては売れる本を出さなければ食ってけないわけだけど。それにしても、一時期売れてすぐに忘れられちゃう消耗品が多すぎないかな。
(最終回に続きます)
〈プロフィール〉
たむらしげる/1949年、東京生まれ。絵本に『ありとすいか』(ポプラ社)『かたつむりタクシー』(福音館書店)、画集に『ファンタスマゴリア』(架空社)『水晶山脈』(アノニマ・スタジオ)、漫画集に『結晶星』(青林工藝舎)などがある。『よるのおと』(偕成社)で産経児童出版文化賞大賞、映像作品「銀河の魚」で毎日映画コンクール大藤信郎賞、「クジラの跳躍」で文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞を受賞。
どいあきふみ/1957年、広島生まれ。フリーの絵本編集者として300冊以上の絵本を企画編集。若手作家の育成にも力を注いでいる。著書に『絵本をつくりたい人へ』(玄光社)がある。東京・吉祥寺にあるブック&ギャラリー「トムズボックス」を主宰していたが、同店は2017年に惜しまれつつ閉店した。
本記事は『イラストレーション』No.220の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。
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第2特集は、たむらさんの憧れの存在だという佐々木マキさん。こちらも必見です。