フォロワー181万人超! イリヤ・クブシノブさんに聞いた「女性を描くこと」(前編)

イラストレーションNo.216に掲載された、イリヤ・クブシノブさんのインタビューを一挙公開。

(後編はこちら

多くの作品をSNSで発表する一方、これまであまり自らの制作に対する考え方や、経歴を語ってこなかったイリヤさん。創作活動歴や来日のきっかけ、そして女性を描くことに対する思いについて聞きました。

撮影:坂上俊彦

 

若い頃から学んだ建築

――絵はどのような形で学び始めたのでしょうか?

11歳から学校で絵を学び始めました。授業は専門的な内容と一般的なものが半々くらいでした。私の専門は建築だったので、授業でデッサンを学ぶ時もみなさんが考えるようなデッサンとは少し異なり、モチーフのバランスを重視したものでした。絵を描くだけでなく、建築模型を作ったりもしました。

私が建築を学ぶことに決めたのは、実は母です。私が子どもの頃によくレゴで建物を作っていたのを見て、将来は建築家になるのがいいと思ったそうです(笑)。

――授業はどういった内容なのでしょうか?

いわゆるデッサンの授業です。対象を見て、それを描く。水彩で描く課題などもありました。そういった教育を17歳まで6年間受けました。その後は、1年間アニメーションの専門学校に通ってから、大学の建築学科に進学しました。それから4年後、在学中にゲーム会社で働きはじめたのがきっかけで、ゲームやアニメーションの仕事に興味を持ちました。将来をどうするか悩みましたが、建築ではなくもっとクリエイティブな世界で自分を試したいと思い、本格的に(フルタイムで)ゲーム会社で働くことにしました。

――建築をずっと学んできて、それを途中でやめるというのは大変な決断ですよね。

建築家になることは自分が決めたことではなかったので、しっくりこなかったのだと思います。奨学金試験に落ちたことがきっかけで、改めて「なぜ自分は建築を学んでいるのだろうか?」と自問自答するようになりました。親が決めたレールに乗ってずっと建築を学びましたが、「人生の意味」を考えた時に、ロシアの画一的でクリエイティブな要素が少ない建築の世界で生きるよりも、もっとクリエイティブな世界で、より人の生活に影響出来る仕事に生きることに惹かれたのだと思います。

大学を中退した後は、ゲーム会社で1年間働き、それからモーションコミックを制作している会社に転職しました。

 

日本、そして冬目景さんの影響

――そういった経歴の中で、なぜ日本に来ることを選んだのでしょうか?

2、3年モーションコミックの会社で働いて、最初はコンセプトアーティストをしていたのですが、そのうち監督になり、絵コンテを描いたり全体のディレクションをしたりしてとても充実していました。この時は寝る間も惜しんでプロジェクトに打ちこみました。

その後、ゲーム会社に再度転職して、デザインなどを担当したのですが、その会社が作っているゲームが、私の目には他のゲームの真似にしか見えず、それまでの経験からも、ロシアでクリエイティブな仕事をすることは難しいと考え、憧れていた日本に行きたいという気持ちがどんどん高まっていきました。それでいろいろ日本について学ぼうと考え、インターネットで日本に住んでいるロシア人と友だちになったり、その友人にどうやって日本に行ったのかを聞いたりしていました。

ロシアの会社では、みんなお金を稼ぐことが目的になっていて、クリエイティブにはあまり感心がありませんでした。でも、私が好きな漫画、アニメ、ゲームを生み出している日本なら、漫画やアニメを勉強出来る環境が得られると思い、日本に来ることにしました。

――多大な影響を受けたという漫画家冬目景さんの作品にはいつ頃出会ったのでしょう。

初めて冬目さんの作品に出会ったのは18歳の時で、『羊のうた』という漫画でした。この頃は、大学の建築学科に進んだことに悩んだりもしていて、私の人生でも一番どん底の時代でした。私にとってそんな辛い現実から逃避する方法が、漫画やアニメを見ることでした。そんななかで、冬目さんの『イエスタデイをうたって』を読んで、現実に向き合えるようになりました。

同作品で冬目さんが描く登場人物たちは、私にとって本当の友だちのような存在であり、その作品に自分を重ね合わせることによって、現実世界の悩みと向き合うことが出来ました。現実の友人や親にも話せないようなことも、彼らになら話せる気がしました。ですから、この素晴らしい作品を生み出してくれた冬目さんには、とても感謝していますし、尊敬しています。

――ロシアのイラストレーション業界の現状はどういったものなのでしょうか?

ロシアにおいてイラストレーションは、お金をたくさん支払うものとは認識されていませんでした。インターネット上にある画像などを勝手に使用したりする人も多いというのが現状です。私が仕事を依頼された時に提示されたイラストレーションのギャラが、円換算で1点2千円程度ということもありました。この金額ではとても生活は出来ません。つまり仕事として成立しないレベルです。

――SNSを非常にうまく活用していますよね。工夫していることはありますか?

一番重要なことは毎日最低1回は投稿することです。粘り強く続けていくことが大切です。毎日ではなくてもいいですが、定期的に発信することが多くの人に関心を持って貰うために重要だと考えています。

――そういった方法でSNSを活用している人もいますが、イリヤさんの場合はフォロワー数が桁違いですよね? それはなぜなのでしょうか?

うーん。それは自分でも分からないんです。実は私自身はあまり自分の作品が好きじゃありません。でも、みんなが「いいね」を押してくれたり、コメントで応援をしてくれるので、「今日も描こう」と頑張ることが出来ます。見てくれた方の反応が、絵を描くモチベーションの1つになっています。

『羊のうた』1巻 冬目景著(幻冬舎コミックス)装画

 

イリヤさんがショートカットの女性を描くことが多いのは、冬目景さんが『イエスタデイをうたって』で描いたハルからの影響だという。

後編に続きます)

 

〈プロフィール〉

イリヤ・クブシノブ

ロシア出身のイラストレーター。現在は日本で活動中。TwitterやInstagramなどでオリジナル作品やファンアートを発表し、注目を集める。2016年には初の画集『MOMENTARY』(パイ インターナショナル)を出版。


本記事は『イラストレーション』No.211の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。

 

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