日々刊行されるたくさんの書籍のなかから、イラストレーション編集部がおすすめする7冊を紹介します。
この間までの暑さが嘘のように涼しくなったこの頃。秋の心地よい空気に誘われてお出かけがしたくなりますね。今回は、お気に入りの景色や場所、ものを見つけに行きたくなるような本を紹介します。漫画や絵本、画集などさまざまなジャンルから、お気に入りの1冊を見付けてみてください。
『MIZUMARU’s』
安西水丸事務所 監修
(淡交社)2,700円+税 D:宮添浩司
青い皿(ブルーウィロー)、スノードーム、民芸品、郷土玩具、アメリカのフォークアート……。いまなお多くの人に愛されるイラストレーター・安西水丸さんは、国内のみならず世界各地で見つけた蒐集品を、そのイラストレーションのモチーフとしてたびたび登場させました。同書は、安西さんの膨大なコレクションから作品に描かれたものを中心に選び取り、写真で紹介した1冊です。
白地のシンプルな背景の前にそれぞれ置かれ、撮影された、約140点の蒐集品。それらを眺めていると、安西さんが手に取った時の視線や感情に思いを馳せてしまうだけでなく、「もの」それ自体が持つしみじみとした魅力を味わう喜びを感じます。また冒頭の「創作の着想源」の項では、蒐集品とそれを描いたイラストレーションを一対にして紹介。現実と作品世界を行き来することが出来る構成は、安西さんの創作の現場に立ち会っているかのような、新鮮で幸福な時間を読者にもたらします。作家が残した「もの」に触れることは、作品を生み出した世界の源に触れること。数々の素晴らしい作品をこの世に送り出した、安西さんの豊かなまなざしを、同書をとおして体験してみてはいかがでしょうか。
『森の歌がきこえる』
田島征三 作絵 ルートマニー・インシシェンマイ オブジェ
(偕成社)1,600円+税 D:タカハシデザイン室
84歳のいまもなお旺盛に創作を続ける絵本作家・田島征三さん。乱開発されたラオスの森の現状を知ったことをきっかけに、15年もの月日の中で4度の現地取材を重ね、絵本の制作に取り組みます。創作のパートナーは、現地で出会った摩訶不思議なオブジェを作るアーティスト、ルートマニーさん。2人のコラボレーションは新鮮な魅力を放つ1冊の絵本として結実し、ラオスの森の尊さと豊かさ、そして目を背けてはいけない現実を力強くも優しく伝えています。
『塩谷歩波作品集 Enya Honami Artworks』
塩谷歩波 著
(玄光社)2,500円+税 D:望月昭秀+吉田美咲(NILSON)
『銭湯図解』で知られる画家・塩谷歩波さんの初めての作品集が刊行されました。今回は銭湯のみならず、喫茶店などの飲食店、オフィス、茶室、有名建築シリーズなど幅広い作品を掲載。紙とペン、定規を手に丁寧に取材をして「アイソメトリック」という建築図法で絵を仕上げている塩谷さん。その独自の手法やメイキング、現在の作風に至るまでの背景などもたっぷりと紹介されています。緻密でありながら温かい、塩谷さんの作品の魅力が存分に感じられる1冊です。
▶︎『塩谷歩波作品集 Enya Honami Artworks』
『山烋のえほん HIDE & SEEK まぼろしの雲豹をさがして』
鄒駿昇 作 東山彰良 訳
(工学図書:山烋のえほん)2,000円+税 D:森枝雄司
台湾の森深くに棲むまぼろしの生物「雲豹」に魅せられた人々の150年を描いた1冊。2022年のボローニャ国際絵本原画展入選作品でもある本作は、2年の歳月をかけた綿密な調査と国立台湾博物館の監修の下、制作されました。日本版の翻訳を担当したのは小説家の東山彰良さんです。著者の鄒駿昇さんは、中国の水墨画と日本のコミックアートに影響を受けたそう。「雲豹さがし」の過程で発見される台湾固有の多様な生物たちが、ノスタルジックかつ新鮮なタッチで描かれています。
▶︎『山烋のえほん HIDE & SEEK まぼろしの雲豹をさがして』
『うつくしいってなに?』
最果タヒ 作 荒井良二 絵
(小学館)1,700円+税 D :名久井直子
詩人・最果タヒさんと絵本作家・荒井良二さんが初めてタッグを組んだ絵本が誕生しました。女の子が暮らす部屋の窓にはさまざまな風景が広がります。夕焼けに染まる空、闇に包まれていく街並み、無数の星が瞬く夜空、リズミカルに波打つ海……。やがてそれらは彼女を夢の世界へと連れていきます。お互いがファンだったことから実現したという瑞々しく温かな物語。子どもの頃のまどろみの時間を思い出させてくれるような1冊です。ぜひ手に取ってご覧ください。
『棕櫚の木の下で 1. 』
メグマイルランド 著
(マガジンハウス)1,200円+税 D:川名潤
佐賀の小学生・南里ソテツは同じクラスの鍋島かりんに出会い、身近な世界のさまざまなことを知り、体験していきます。自分の名前の由来である「蘇鉄」という植物のこと、モールス信号で気持ちを伝えられること。ソテツの無邪気な感動を目の当たりにすると、幼い頃の日々は、瑞々しく鮮やかな感情に満ちていたことに気づかされます。夏のまぶしい日差し、傘を強く打ちつける雨の音、湿った夜の匂い。佐賀ののどかな時間を背景に、生き生きとした筆致で描かれた、少年と少女の成長譚です。
『一年前の猫』
近藤聡乃 著
(ナナロク社)2,000円+税 D:名久井直子
愛猫である「クレオ」「ポンズ」との日々、ニューヨークでの生活を綴った、漫画家・近藤聡乃さんによるエッセイ&イラスト集。日常の記録でありながら、フィクションがうっすらと全体を覆う不思議な読み心地の文章は、繊細でどこか非現実なイラストレーションと呼応しながら、地面から数センチ浮かんだような気持ちのよい読後感を与えてくれます。手触りのよい表紙に金色の箔押し、工夫を凝らした別丁扉など、名久井直子さんが手がけた上品で贅沢な装丁もまた魅力的です。
▶︎『一年前の猫』
本記事は『イラストレーション』No.244の内容を本ウェブサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。