編集部がおすすめする、いま読みたい7冊

暑い日が続きます。毎年酷暑に苦しんでいるはずなのに、夏が来るたびに「こんなに暑かったっけ?」と思う不思議。よく冷えた果物や帰り道のアイスがいっそうありがたく感じられる季節となりました。

今回は、幻の1冊とも言うべき絵本の復刻版をはじめ、画集やスケッチ集、新訳の名著、そしてクリエイターに降りかかるトラブルを解決へ導く実用書まで、幅広い7冊をご紹介します。

ぜひお気に入りの1冊を探してみてください。

 


『海の小娘〈復刻版〉』

梶祐輔 文 宇野亞喜良+横尾忠則 イラストレーション(888ブックス)

4,500円+税 復刻版デザイン協力:福田真一

1962年、当時20代の宇野亞喜良さんと横尾忠則さんのコラボレーションで生まれた実験的絵本『海の小娘』。長らく絶版となっていたため、美術館や古書店などで目にし、幻の1冊として記憶している読者も多いのではないでしょうか?

本書は、日本デザインセンターで時同じくして仕事をしていた宇野さんと横尾さんが絵本の制作を企画し、同社の先輩にあたるコピーライター梶祐輔さんに文章を依頼して、完成しました。地図にもない外国の港町のお祭りの日、ゼロという船乗りを探す「僕」と美しい白いヨットに乗って現れた少女の出会いを発端に始まる物語は、赤と黒で表現された横尾さんのイラストレーションで始まり、不穏な気配が漂い始める中盤、青と黒で表現された宇野さんのイラストレーションが重なって、やがて青と黒のみの宇野さんの世界となり、静かに幕を下ろします。付属の赤と青のカラーセロファンを絵本の見開きに重ねることで、一方の絵が浮かび上がり、別の視点が現れるという仕かけも、作品世界をより魅力的で強固なものとしている1つの要因でしょう。

復刻版のための解説シート内にある「スタートとゴールの間にまったく距離がなかったのではと感じる宇野亞喜良と、まったく別人になってしまった横尾忠則の、この2人の今昔物語を62年の時間を超えて感じ取ってもらえば、この本が復刻された意味を感じ取っていただけるのではないかと思います。」という横尾さんの文章のとおり、時を経たからこその読み方もあるはずですし、和田誠さんがこの絵本を羨ましく思った、ということもいまとなっては興味深い歴史的事実です。逸話多きこの絵本を、2024年のいま、素晴らしい復刻版で手に取って読むことが出来る幸せを噛み締めようではありませんか。

▶︎『海の小娘〈復刻版〉』

 


『クリエイター六法 受注から制作、納品までに潜むトラブル対策55』

宇根駿人+田島佑規 著(翔泳社)

2,400円+税 BD:沢田幸平(happeace) カバー+本文ill:ササキ

著者である弁護士お2人の元に届いた実際の法律相談から、トラブルの火種になりそうな55例とその対応策を紹介。「納品完了後に修正を求められた」や「自分の作品が転載されているのを発見した」など扱われる事例は具体的で、押さえておきたい基礎知識が解説されているのもうれしいポイントです。仕事を続けていれば、トラブルの発生は避けられないもの。本書は、フリーランスで仕事をする方々が「言われるがまま」にならないための、心強い味方になってくれるに違いありません。

▶︎『クリエイター六法 受注から制作、納品までに潜むトラブル対策55』

 


『Sketch from the zooby takeuma』

タケウマ 著(LLC INSECTS)

3,000円+税 BD:松村貴樹

タケウマさんがライフワークとして長年描き溜めているスケッチの中から、動物園での作品を厳選しまとめた、初の商業画集。伸びやかな線で心の赴くままに描かれる動物たちの姿からは、造形や生態の多様さや不思議さを感じられるだけでなく、観察し、スケッチすることの喜びまで伝わってきます。実際のスケッチブックを覗き見るような、モレスキンのノートと同じサイズの判型、ぱたんと開きのいいコデックス装など、細部までこだわりが詰まった装丁も魅力的です。

▶︎『Sketch from the zoo by takeuma』

 


『ようこそ じごくへ』

広松由希子 作 100%ORANGE 絵(玉川大学出版部)

1,800円+税

悪い人間が死後に堕ちるという「地獄」とは、一体どのような場所なのでしょうか。この絵本は、12世紀の国宝絵巻「地獄草紙」から絵本家・広松由希子さんが想像を膨らませ、100%ORANGEさんと共に生み出した、現代の地獄草紙です。そこに描き出される地獄は実に多種多様であり、恐ろしいはずの鬼たちは、どこか愉快でチャーミングでもあります。古代から人々の好奇心をくすぐってきた死後の世界に思いを馳せながら、21世紀の「地獄めぐり」をお楽しみください。

▶︎『ようこそ じごくへ』

 


『これってホント? 世界の○×図鑑』

ウソホント調査隊 編 タダユキヒロ(文響社)

1,450円+税 D:植草可純+前田歩来(APRON)

おならに火をつけると爆発する? 牛乳を飲んだら背が伸びる? じゃんけんはパーが勝ちやすい? あなたは、これらの問いに自信を持って答えられますか。次々と登場する60の通説や迷信に向き合っていると、知らず知らずのうちに蓄積していた勘違いや思いこみ、ひいては世界の大きさや豊かさに気付かされるはずです。タダユキヒロさんが描くキュートなマル、バツ、サンカクの三兄弟と共に、いまこそ曖昧にしていた世界の謎の真相に迫ってみてはいかがでしょうか。

▶︎『これってホント? 世界の○×図鑑』

 


『紐育百景』

エイドリアン・トミネ 著 長澤あかね 訳(国書刊行会)

装丁+本文組版:山田英春

『長距離漫画家の孤独』などのグラフィック・ノベルで知られるエイドリアン・トミネ。その初画集の日本語版が刊行しました。トミネの名を一躍知らしめたアメリカの老舗文芸雑誌『ニューヨーカー』の装画をはじめ、未発表のスケッチ、描き下ろしのコミックを収録。その静かな観察眼で捉えられた街角のシーンの数々は、ささやかな日常でありながらどれもウィットに富み、世界で一番輝く街・ニューヨークの寂しさと優しさを浮かび上がらせています。

▶︎『紐育百景』

 


『センス・オブ・ワンダー』

レイチェル・カーソン 著 森田真生 著+訳(筑摩書房)

1,800円+税 装丁:鈴木千佳子 装画+挿絵:西村ツチカ

独立研究者・森田真生さんの新訳で、レイチェル・カーソンの未完の名作『センス・オブ・ワンダー』が現代に蘇りました。1匹のハチ、1輪の花、夜空に浮かぶ星々に、日頃私たちはどれだけ思いを馳せているでしょうか。都市生活を営んでいるとつい意識の外に追いやりがちですが、人も自然の一部であり、周りを見渡せばそこかしこに「驚異(ワンダー)」が満ちていることをこの本は教えてくれます。幻想的で時に怖ささえ感じさせる、深遠な自然の美しさを表現した西村ツチカさんの挿絵も見事。

▶︎『センス・オブ・ワンダー』

 


※本記事は『イラストレーション』No.243の内容を本ウェブサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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