週の始まりに、絵本や漫画、創作に関する書籍などを中心に、楽しく読める1冊をご紹介する本連載。お昼休憩や帰宅後の時間のお供に、はたまたお子さまへの読み聞かせに……。気になる本に出会ったら、ぜひ手に取ってみてください。
8月、お家でゆっくり過ごす夏休みに時間をかけて読みたいラインナップを掲載していきます。今週ご紹介するのは『えをかくふたり(1)』(小学館)です。
『えをかくふたり(1)』
中村一般 著(小学館)650円+税
『ゆうれい犬と街散歩』や『僕のちっぽけな人生を誰にも渡さないんだ』など、日常の中のささやかな輝きに焦点を当てた作品を描いてきた中村一般さんによる連載作品。
桜が少し散り始めた春の日、小さな港町に住むイラストレーターの花海修(はなみ・おさむ)の元にAIロボット・ハルがやってきました。ふたりは一緒に街を散歩したり、絵を描いたり、少し遠出をしてみたり。少しずつ対話を深めながら過ぎていく静かな生活が、丁寧な筆致で描かれます。
家々の合間から覗く夕日に心が騒ぐこと、海辺の貝殻に「きれい」の形を探すこと、記録すること、描くこと。しがらみやままならなさに満ちた日々の中で、一体何が自分の存在を確信させてくれるでしょうか。
手触りをそのまま描き出したような繊細な絵と、淡々として飾らない言葉で交わされる会話を通じて伝わってくる、「我々は社会の一部であると同時に、それぞれが一個の生き物である」という確固たるメッセージ。信じるものがあることは眩しく、時にその痛切さは寂しさも内包しています。
作中で主人公・修は、絵を、自然や祈りから放たれる「ひかり」を描いているときは「ひとりじゃないと思える」と力強く言い切り、絵こそ自らの「言語」であると表現しました。修がそうしたように、自分自身がいま持っているものを見詰め、きちんと大切にしようと思わせてくれる実直な物語です。
同作の連載は1巻収録分で終了していますが、今後も続いていくふたりの暮らしを想像しながら、それが春の海のようにあたたかく穏やかであることを願うばかりです。
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