取材10年 舘野鴻さんが描き上げた絵本『がろあむし』が刊行。暗黒世界に棲む虫の美しい一生とは?

『illustration』No.222の特集「生き物を描く人」で紹介した、生物画家の舘野鴻さん。2019年6月の取材時には制作中だと話していた絵本『がろあむし』(偕成社)が、2020年9月、満を持して刊行された。舘野さん自らが約10年の歳月をかけて取材・調査を行った本作は、ガロアムシの生きる地下の暗黒世界と、同じ地平で暮らす人間の姿を描き上げた意欲作だ。

舘野さんは、埋葬虫とも呼ばれるシデムシの一生を描いた絵本『しでむし』でデビュー。あまり知られていない“アンダーグラウンド”な虫の美しさにスポットを当て、徹底した取材を元に絵本を制作している。

舘野さんがこれまでに手がけた絵本3部作『しでむし』『ぎふちょう』『つちはんみょう』(共に偕成社)。
『つちはんみょう』の1ページ。徹底した観察を元にした緻密な描写と、ページいっぱいに描かれた迫力のある虫の世界は圧巻だ。

新作絵本の題材となった“ガロアムシ”は、高湿度の地中に棲み、ふ化した幼虫が成虫になるまで5~8年を要するという希少な昆虫。本作では、小さな虫が真っ暗な世界を駆け回り、生き物を食べ成長する様子や、卵を産みその一生を終えるまでの姿が、緻密なタッチで描かれている。

『がろあむし』に登場する崖の奥底の1場面。ガロアムシの一生と共に、同じ世界で暮らす小さな生き物たちの生の循環も描かれている。

また、この物語に描かれるのは小さな虫の一生だけではない。ガロアムシが生まれ死ぬまでの時間に、地上の畑や森は大きな変貌を遂げる。その姿は、利便性や快適さを追求し続ける人の営みを映し出し、読者に「人間にとって“自然”とは何か」を静かに問いかけている。

『がろあむし』に登場する架空の町。かつて広がっていた畑や森は、物語の最後に大きく姿を変えた。

舘野さんが長年のフィールドワークを経て、完成させた渾身の作品。丁寧に、緻密に描き出されたガロアムシの一生は、人の暮らしを取り巻く美しい自然、積み重ねられた大地の歴史、脈々と続く命の循環に、改めて目を向けるきっかけを与えてくれる。

 


『がろあむし』紹介動画

 

<プロフィール>

たてのひろし/1968年神奈川県生まれ。幼少時より熊田千佳慕氏に師事。生物調査の傍ら本格的に生物画の仕事を始め、図鑑や児童書の生物画、解剖図プレートなどを手がける。絵本に『しでむし』『ぎふちょう』、『こまゆばち』(澤口たまみ・文)『なつのはやしのいいにおい』、生物画の仕事に『ニューワイド学研の図鑑生き物のくらし』『ジュニア学研の図鑑魚』、『世界の美しき鳥の羽根鳥たちが成し遂げてきた進化が見える』などがある。


 

『がろあむし』(偕成社)
今作の発売に合わせ、偕成社の公式サイトでは舘野さんの最新インタビューも公開されている。

『illustration』No.222は「生き物を描く人」を特集。舘野鴻さんを含む6名の生き物を描き続ける作家を70ページにわたって紹介しています。

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