編集部がおすすめする、いま読みたい8冊

短い秋が過ぎるとあっという間に空気は冷えこみ、「師走」の名のとおりに慌ただしい年の瀬がやってきました。イルミネーションで彩られ年末の空気が満ちる街中に、少し寂しいような、ワクワクするような、なんだか落ち着かない気分になる方も少なくないはず。初詣や初売り、ウィンタースポーツもよいけれど、暖かい部屋の中でゆっくりと本を読んで過ごす年末年始はいかがでしょうか。

今回は、私たちの生活に欠かせない「印刷」の始まりや身近な道具について語る本、さまざまな生き物が登場する絵本に、安西水丸さんによる漫画など、全部で8冊をご紹介します。

新しい1年の始まりに向けて、気になる1冊をぜひ手に取ってみてください。

 


『デザインのアトリエ  活版印刷』

『デザインのアトリエ  石版印刷』

ギャビー・バザン 作 みつじまきこ 訳

(グラフィック社)2,200円+税 D:原条令子デザイン室

パリ郊外にアトリエを構え、「ことば」と「イメージ」の関係性をテーマに、印刷技術とその豊かさ、歴史を探求する創作活動を続けているギャビー・バザンさん。そんな彼女の、見ているだけで心踊る、色鮮やかで美しい2冊の絵本が邦訳出版されました。『デザインのアトリエ 活版印刷』ではフランスの印刷工房を舞台に、世界各地で印刷技術がどのような発展を遂げてきたのか、「活版印刷の父」ヨハネス・グーテンベルクが生み出した技術、500年以上続く伝統的な職人の工房でのストイックな仕事ぶりをワクワクと共に知ることが出来ます。

『デザインのアトリエ 石版印刷』では、現代の暮らしに欠かせない「オフセット印刷」の起源となった石版印刷(リトグラフ)に注目。世界初の平版による印刷技術を生み出した演劇青年アロイス・ゼネフェルダーの開発経緯、思わぬ技術の発展と広がりにはきっと誰もが驚くはず。現代では「紙の本」といえば、「アナログ」なものというイメージがありますが、時代を遡ってみると決してそうではないことが分かってきます。読書の秋に、印刷技術とそこに欠かせない人々の歴史や物語を紐解いてみるのはいかがでしょうか?

▶︎『デザインのアトリエ 活版印刷』

▶︎『デザインのアトリエ 石版印刷』

 


『ミーのどうぶつBOOK』

ハリエット・ヴァン・レーク 作 野坂悦子 訳

(朔北社)1,500円+税 装丁+本文D:中嶋香織

2019年に約30年ぶりの復刊を遂げた人気絵本『レナレナ』の作者の愉快な最新作。主人公ミーは、時にポニーのやることを一緒にしたり、森でネコのスティッフさんと寝そべって黒いグミと四角いチーズを食べたり、用の日にネコとイヌとブタをなでながら寝転んでいたり! 1見開きに1つ現れるミーと親友の優しくて少し風変わりな日常を見ていると、ふっと肩の力が抜けていきます。デジタル環境で描かれた自由でのびやかな絵と、ハリエットさんと仲よしの野坂さんが手がける翻訳も絶妙。

▶︎『ミーのどうぶつBOOK』

 


『道具のブツリ』

田中幸+結城千代子 文 大塚文香 絵

(雷鳥社)2,200円+税 装丁:宮古美智代

物理講師である著者2人が、身近な生活の道具に隠された物理法則を軽快な語り口で紐解かれる本書は、世界を新鮮な目で捉え直すきっかけをくれる、おおらかな物理の入門書。ホチキスにはてこの原理が、ざるには慣性の法則が活かされていることをあなたは知っていましたか? 「理にかなったものは美しい」。<物理>の視点から導き出された結論は、そのままデザインの本質にも通じています。ぱたんと気持ちよく開くコデックス装の製本や、大塚文香さんが描いた鷹揚で味わい深い道具たちにも注目。

▶︎『道具のブツリ』

 


『よるよ』

コジヤジコ 作 中山信一 絵

(偕成社)1,500円+税 D:漆原悠一(tento)

「よる いるよ」「よる いぬ いるよ」から始まる本作は、すべて「回文」によって物語られる、美しくて不思議な夜の絵本です。ちょっぴり無愛想にも見える、いぬ、くま、ねこの3匹は、心地よくリズミカルな言葉に導かれて虹の上で出会います。一夜をとおしてさまざまな遊びを楽しんだ3匹が、夜が去った後、視線の先に見つめるものとは? クレヨンを何層も塗り重ねたという中山信一さんの絵は、夜空に浮かぶ虹のまばゆさと、無口な3匹の静かな興奮や感動を鮮やかに伝えています。

▶︎『よるよ』

 


『今日は自習にします』

工藤あゆみ 著

(青幻舎)1,800円+税 BD:小熊千佳子

題名から思い浮かぶのはもしかすると少し浮き足だった教室の空気かもしれませんが、この本では45の教科と学校の時間をテーマに描かれた絵と短い言葉が、心豊かで楽しい1人の自習時間の素敵さを優しく教えてくれます。そして、授業の後に待っているのは「今日のおさらい」。読者も一緒に手と頭と心を動かして、考える時間です。「経験と想像力も伴って、ひとりぼっちではない「自習」はいつまでも続きます」と語る工藤さんが考えてきた問いに、あなたはどんな答えを出すでしょうか?

▶︎『今日は自習にします』

 


『みえないりゅう』

ミロコマチコ 作

(ミシマ社)2,500円+税 D:漆原悠一(tento)

ミロコさん4年ぶりの新作の主人公は「りゅう」。りゅうは小さな海に波を作り、眠る間にその波によって大きな海へ、さらに遠くへと、人知れず運ばれていきます。そして、たどり着いた雪降る大地から「形」を、光をとおして「色」を得て、他者と呼応し、世界を知って、味わって……。 2019年に奄美大島に移住してから、なかなか掴み取ることの出来なかった「大切にしていること」が少しずつ自然と掴めるようになったという作者の新境地。画面に迸る熱量と世界への視点をじっくりと味わいたい。

▶︎『みえないりゅう』

 


『安西水丸が遺した最後の抒情漫画集  陽だまり』

安西水丸 著

(講談社ビーシー)1,800円+税 BD:浅妻健司

安西水丸さんが『小説現代』に連載していた読み切り漫画4作と、村上春樹さんはじめ、生前関係が深かった作家、漫画家、イラストレーター総勢6名のエッセイを収録する本書。静けさと言いようのないもの寂しさに満ちた漫画作品と、親しい間柄だからこそ知るチャーミングで毒っ気のある安西水丸像を交互に読み進めれば、その人間としての豊かな“幅”にあっという間に心を掴まれます。一言では形容しえない安西さんの奥深い魅力を、さまざまな角度から眺め、知ることの出来る1冊。

▶︎『安西水丸が遺した最後の抒情漫画集  陽だまり』

 


※本記事は『イラストレーション』No.240の内容を本ウェブサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。


関連記事