イラストレーター雪下まゆがAdobe Frescoに感じた可能性

川谷絵音さんのソロプロジェクト「美的計画」のヴィジュアルや、数多くの書籍装画を手がけるイラストレーター雪下まゆさん。これまで「Procreate」と「Adobe Fresco」を併用してきた彼女だが、最近では後者を使う頻度が高くなっているという。なぜ「Adobe Fresco」を愛用するようになったのか、その使い心地と魅力について話をお聞きする。

 


▼雪下まゆさんの制作動画はこちら

――今回作品を描き下ろして頂くにあたって、どのようなデバイスを使用されたのでしょうか?

ハードはiPadを使って描きました。アプリケーションは、Adobe FrescoとPhotoshopだけで完成させています。

――こちらを見ている女性と背景の木々が印象的です。作品のテーマについて教えて下さい。

最近夜の森に行く機会がありました。暗闇の奥へ奥へと入って溶けてしまいたくなるような魅力と、目を凝らしても何も見えない恐怖(というより畏怖)を覚えました。

森はどこまでも広がる「静寂」と同時に、確実にそこに存在する生命(その空間すべてであり、虫や木や動物など個々の生命の集まりでもある)の「激しさ」を抱えています。このアンビバレンスは「死」と似ていると感じました。

そんな体験から「死」は決して恐ろしいものではない、ただそこに在るだけである、と夜の森に溶けながら理解をした青年を描きました。

――今回の作品の制作の手順について、簡単に教えて頂けますか?

まず始めにざっくりとした線画レイヤーを作ります。その下に大まかな色塗りレイヤーを、その後線画レイヤーの上に厚塗りレイヤーを作ります。

最後に背景レイヤーを作り全体のイメージを固めていきました。

――普段はProcreateも使用しているとのことですが、Adobe FrescoとProcreateの違いをどういった点で感じますか?

Procreateはシンプルで明快ですが、ワープツールなど便利な機能があったりと、iPad初心者にも分かりやすいアプリだと思います。

一方Adobe Frescoはライブブラシ(*)は勿論、ピクセルブラシもかなり繊細な筆致・色の混ざり具合が再現出来る点が魅力だと考えます。そのため、イラストレーションを拡大してじっくり眺める楽しさも増したと思います。

(*)ライブブラシ……本物の画材のようにインクが滲み広がり、隣り合った色が混ざり合う機能を持ったAdobe Frescoの特徴的なブラシ。水彩と油彩の2種類ある。

まずはざっくりと鉛筆ツールを使って線画のレイヤーを制作
次に線画レイヤーの下に大まかに色を置いたレイヤーを作る
厚塗りブラシを使って、レザーの反射や表情などのディテールを描きこんでいく
背景の木々はラフィンブラシを用いて描く

――Adobe Frescoはデジタルツールでありながら、ライブブラシが象徴するようにアナログの描き心地を表現することに特化していると思います。雪下さんの制作技法と相性が良いのではないかと考えたのですが、実際に使ってみてどうでしたか? 魅力を感じた点とやりやすかった点があれば教えて下さい。

私はアナログでもデジタルでもキャンバス上で色を混ぜながら塗っていくのですが、その点Fresco は絵具の混ざり方がとても繊細で、これまでに比べて色作りの幅が増えたと感じました。

――主に使用したブラシについて教えて下さい。またそのブラシを選択した理由も教えて下さい。

鉛筆・厚塗りブラシ・ラフィンブラシを使いました。下描きに鉛筆、あとはほぼ厚塗りブラシです。厚塗りブラシは、強めの力で塗るとベタッとした筆致になりますが、力を抜くとざらっとした筆の筆致になるため、用途によって簡単に使い分け出来るところが使いやすかったです。

ラフィンブラシはザラっとしたテクスチャが強いので、遠くの木々などの対象をざっくりと描きたい時に使用しました。

――途中Photoshopに移行されていますが、なぜでしょう?

制作の途中で色調やコントラストの調整のためにPhotoshopで作業をしています。Frescoでも色調とコントラストの調整が出来るようになるとより使いやすいと感じました。それと欲を言えば、ちょっとした表情の調整に便利なので、ゆがみツールがあるといいなと思いました。

――最近ではイラストレーションの仕事だけなく、ファッションブランドを立ち上げるなど、活躍の場を広げていますが、今後の予定などがあれば教えて下さい。

いまは今年立ち上げた「Esth.」(エスター)の来シーズンのデザインを考えているところです。また、今回の記事をきっかけに制作ツールをFrescoに本格的に移行したことによって、作品の幅も変化していくと思うので、そこを楽しんでいきたいです。

 

<プロフィール>

雪下まゆ/イラストレーター。1995年生まれ、多摩美術大学デザイン卒業。写実的でありながら、イラストレーションならではのデフォルメやラフなタッチを残した個性的な画風で人気を集めるイラストレーター。広告業界、音楽業界、ファッション業界などからの注目度も高く、タイアップ作品も多く手がける。主な活動に、クリープハイプのトレーラー映像や東京モード学園2019年版CMイラストレーション。
6月にはファッションブランド「Esth.」を立ち上げた。

 


雪下まゆさんの絵が表紙を飾る『illustration』No.227。イラストレーターにとって重要な位置を占める「人を描く」仕事にフォーカスし、雪下さんを含めた注目の作家6名を紹介しています。


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