『イラストレーション』No.216での連載スイッチ・インタビューの中から、イラストレーター本秀康さんと、音楽レーベル「カクバリズム」代表角張渉さんの対談を全3回にわたって掲載します。
イラストレーションの仕事を発注する関係者に、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員が自らインタビュー。連載初回はイラストレーターの本秀康さんが、今年レーベル設立15周年となる「カクバリズム」の角張渉さんを取材します。
音楽をこよなく愛し、大きな節目で仕事を共にしてきた2人だからこそ語れる貴重な舞台裏をお届けします。
協力:東京イラストレーターズ・ソサエティ
撮影:大瀧央子
(連載のまとめはこちらから)
イラストレーターの見つけ方と選ぶ基準
本:イラストレーターはどういった場所で見つけるの?
角張:すごく恥ずかしいですけど、最近Instagramで海外の人も含めて結構面白い人が出てくるなって思いながら見ています。
本:じゃあ、友だちの友だちでいいイラストレーターがいるとかっていう世界ではなくなってきた?
角張:そういう見つけ方もありますけど、全然知らないでInstagramとかZINEで見ていいなって思う人も多いです。探すというか意識的に見るようになりましたね。この人の絵はああいった作品に合うだろうから覚えておこう、という感じです。
本:じゃあ、この前お願いしたRUMINZさんはSNSで知ったの?
角張:RUMINZさんはSNSじゃなくて、現場ですね。広島に仕事で行った時、お店で見かけたフリーペーパーの挿絵をRUMINZさんが描いていて、この絵いいなって思ってメールしてみたらガレージパンクとか好きな人で、話も合いました。
本:イラストレーターを選ぶ際の基準はある?
角張:相談のしやすさも含めて、その人と合うか合わないか、というのは1つの基準かと思います。本さんみたいに長い付き合いになると、何がやりたくて、何が得意か知っていて、さらに新しい本さんが見たいと思うと、「こういうのどうですか」って提案したくなります。でも、この人いいかもって思ったイラストレーターは、自分が見た絵の世界観しかその時点では分からない。初めてお願いするのに、発注しながら別の世界観を探るのって難しいことです。伝え方によっては、気を悪くするかもしれない。その人がもしかしたらこういうタッチで描いたらかっこいいかもと思いながらも、そこまで最初からディレクションするのはおこがましいじゃないですか。まだ一緒にやるか、やらないのか分からないのに。そういう提案が伝えられる関係性が出来てからの話ですね。
本:要はさ、ある程度は仲よくならないとってことだよね。
角張:共通言語が多かったり、遊びに行った場所で会うとか、それだけでも違いますよね。
本:俺なんかは音楽が好きだっていうスタンスでやってるけど、角張くんが発注する人っていうのは大体家にCDなりレコードが山ほどある人なのかな?
角張:家にCDが3枚くらいしかない人が描くものと、本さんみたいにコレクションを持つ方が描くものとでは全然わけが違いますからね。どうしても共通言語が多い人になっちゃいますね。
本:基本的には聴く音楽も違ってるのに、俺と角張くんも出会った頃はそれぞれ無理しててさ。
角張:分かります、「グラム・パーソンズ」(*7)の話とかしてましたよね。お互い探りさぐりでした(笑)。最近になるとそういう話もなくなりましたね。
(*7)グラム・パーソンズ…アメリカのミュージシャン。「カントリー・ロック」というジャンルを作り上げたといわれる功績者。
本:そうだね、気遣いとして共通の音楽の話を探るっていうのはカクバリズムのメンバーともあるね。グラム・パーソンズの話をしなくなったことで、10年経ったってことなのかなって。
角張:なんだかさびしいっすね(笑)。いや、さびしくないか。お互い聴いてるけど、そんな話しなくてもいい関係ってことですね。
10年来の仲だからこそ生まれる発想
本:10年間でやってきた仕事を並べてみたけど、これとかすごいもんね。タワーレコードで展開したカクバリズムのキャンペーンビジュアル。「ceroの荒内佑くんを中心にしたビジュアルを作ろう」と俺が提案した。それをOKする角張くんもすごいし、いいですよっていう荒内くんもすごい……(笑)。今でこそceroは大人気だけど、その頃はブレイク直前だったんだよね。ceroで一番もの静かな人を大々的なキャンペーンでバカな格好させてみよう、というアイデア。
角張:かっこいい男なんで、なかなか荒内くんいじりというのが今までなかったんです。本さんは荒内くんをこういう顔で描くんですよね(笑)。
本:こんな仕事って、長年付き合ってないと出来ないよね。そういう意味ではカクバリズムに動きやすく育ててもらったなっていう感じかな。
角張:「憧れだったんです、本さんにお願いするのが!」って言って、1回だけで夢を終わらせる人もいると思うんですよ。でも僕はいつでも半端なくうれしいですからね。
本:今年の15周年記念ビジュアルを発注した時のディレクションについては、どうかな?
角張:ディレクションというか……。
本:顔写真をわたして「よろしく」だよね(笑)。もう、10年間付き合ってきたことがすべて。
角張:すごくないですか? 今の言葉。
本:それは俺だけじゃなくてさ、他の関わっているイラストレーター全員だよね。一番関わっているイラストレーターは俺なのかな?
角張:そうだと思いますよ、イラストレーターでこんなに関わっている人はいないですからね。
(モコゾウが本さんと角張さんの間にやってくる)
本:よしよし。モコゾウも俺も、カクバリズムメンバーみたいなもんだもんな。
孤独をいとわない絵
角張:ここ最近、本さんのイラストレーションのどこが好きなのか考えていたんですけど、“1人をいとわない”ということかなって。漫画にも言えることですけど、本さんの絵は孤独を否定していない。
本:ああ、テーマは「孤独」だと思うよ。
角張:そうですよね、どの漫画を読んでも、イラストレーションを見ても、1人が描かれているシーンがしっくりくるんです。カクバリズムの記念のイラストレーションを描いて貰っていますが、1人でいい、いや、1人でもいい、かな。そういう感覚があるんですよね。そこに憧れます。
本:そう、角張くんてすごくパーティー的な人間なのかなと思いきや、実は割と大人しい、やさしい人間でございまして(笑)。ちょっと無理してるところもあるもんね。
角張:その話をしたこと、すっごく覚えています。高円寺の「Yonchome Cafe」でお茶していた時、「あれ、君ってこっち側の人?」って言われたんですよ。「え、どういうことですか?」って聞き返したら、女性にモテて、人生を謳歌していて、漫画を読んでいるイメージがなかったみたいで、あの時はめちゃくちゃ笑いました。
本:逆に俺がショックだったのは、ceroのライブに行った時にイルリメくん(*8)がいて、彼が「本さんはじめまして、イエーイ!」みたいな感じで来て俺が戸惑っていたら角張くんが「いやいや、本さんそういう人じゃないんで」って言ったんだよ。角張くんの前ではなるべく明るくて社交的な感じを装ってたんだけど、ああバレてんだなって(笑)。
(*8)イルリメ…カクバリズム所属のヒップホップアーティスト。ポップスバンド「(((さらうんど)))」としても活動。
角張:僕の会社に所属する奴はみんな〝こっち側の人〟かもしれませんね。だから本さんの漫画にシンパシーを感じる。
本:カクバリズムのアーティストってにぎやかで楽しいライブが特徴だけど、割とみんな1人が好きな人、文化的な人が多いよね。お客さんもそうで、いい子がたくさんいる。ライブに行くと、カクバリズムの一員のように見てくれて、話しかけてくれるファンがいるんだよね。昔は俺の漫画のことを話してくれてたんだけど、最近はモコゾウのことばっかり(笑)。
角張:それはいいことじゃないですか(笑)。本さんはいろんなところでメンバーですよ。それはすごいこと。1発で本さんが描いたって分かるイラストレーションだけど、いろんな場所に合わせた絵を描いてるじゃないですか。
(最終回に続きます)
<プロフィール>
もとひでやす/1969年京都生まれ。イラストレーター、漫画家。1990年よりフリーイラストレーターとして活動。その後漫画家としてもデビュー。一見牧歌的な画風でありながら鋭い毒を持つストーリーと世界観によって、熱狂的なファンを獲得した。音楽への造詣が深く、音楽誌への寄稿、執筆も多い。
かくばりわたる/1978年宮城県生まれ。2002年3月に、レーベル・マネージメント会社・カクバリズムを設立。第1弾作品としてYOUR SONG IS GOODの7インチアナログシングル『Big Stomach, Big Mouth』をリリースする。以降、SAKEROCKやキセル、二階堂和美、MU-STARS、cero、VIDEOTAPEMUSIC、片想い、スカート、思い出野郎Aチーム、在日ファンク、mei eharaなど、エッジの利いたアーティストを続々と輩出。
本記事は『イラストレーション』No.216の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。
今回の対談も掲載している『イラストレーション』No.216。巻頭特集では、国内外で注目を集めるイラストレーターのイリヤ・クブシノブさんを紹介しています。