【対談】本秀康さん×角張渉さん 音楽をこよなく愛する2人が手がけた仕事の舞台裏(最終回)

『イラストレーション』No.216での連載スイッチ・インタビューの中から、イラストレーター本秀康さんと、音楽レーベル「カクバリズム」代表角張渉さんの対談を全3回にわたって掲載します。

 

イラストレーションの仕事を発注する関係者に、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員が自らインタビュー。連載初回はイラストレーターの本秀康さんが、今年レーベル設立15周年となる「カクバリズム」の角張渉さんを取材します。

音楽をこよなく愛し、大きな節目で仕事を共にしてきた2人だからこそ語れる貴重な舞台裏をお届けします。

協力:東京イラストレーターズ・ソサエティ
撮影:大瀧央子

(連載のまとめはこちらから)

 

描き手が燃える仕事を発注する

本:俺からの質問は以上だけど、何か話したいことはあるかな?

角張:いやー、本さんの漫画がもっともっと読みたいっていうことですかね。

本:『ワイルドマウンテン』が終わって7年経ってるらしいけど、ちょこちょこ描いてる漫画ってカクバリズム絡みばっかりで、ありがたいよ(笑)。

角張:漫画もですけど、本さんの気合いが入るようなでっかい仕事を僕から発注したい気もしますね。今はカクバリズムの仕事単位でお願いしていますけど、たとえばCMとか映画の仕事もさせて貰っているので、そのイラストレーションを本さんにやって貰いましょうよ、みたいな提案だとか、僕ら以外がいるような仕事もやってみたいですね。昔、コカ・コーラの仕事をしたじゃないですか。あの時、本さんがすごくよろこんでいたのを覚えています。「渋谷の看板見た?」って電話で言われてちょうど見ていたんですよ。「あのでっかいやつですよね!」って。あの時、本さんは41歳くらいで今の僕と同じくらいの年齢。当時の自分からしたら本さんは若い頃からすごい人なので、変な感覚でした。でもやっぱり、本さんを興奮させるそういう仕事を発注したいですよね。

本:それ面白い話だね。ぜひお願いしたい!

角張:本さんの漫画『レコスケくん』(*9)はくさるほど読み返したので、あれに出ているレコードとか買っちゃうんですよね。少しでも、若いミュージシャンからイラストレーターに対するイメージを断絶させたくないなっていう気持ちはありますね。

(*9)レコスケくん音楽雑誌『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』で連載された本秀康さんの漫画作品。

本:今年15周年を迎えて、20周年に向けて何か考えていることはあるのかな?

角張:今はストリーミングで聴くと、レーベル名って載っていないんですよ。Apple Musicにしても、Spotifyにしても、リリース元のカクバリズムという名前がないんです。iTunesで配信すると載っているんですけどね。あと5年もすれば、誰が作っていつ配信したかぐらいのレベルになってくると思います。カクバリズムはインディペンデントでは知名度が上がってきましたけど、今後はよりレーベルというものが知られなくなってくる。でも高校生の時にスピッツはどこから出ていた、とか覚えていないし、レーベル自体がまず分からないですよね。今後はレーベルを意識するってこと自体が減ってくるかなって。だから、レーベルとしては立ち位置がボヤッとしてくると思うんですよね。

本:でも、スピッツのリリース元がポリドールとかって意識しないのはメジャーだからじゃないかな。カクバリズムもインディーズだけど、もはやインディーズとは言えない規模になってきていて、カクバリズムと意識しないでceroを聴く、という世の中になっていくんじゃないかな。

角張:はい、僕もその方がいいと思うんですけどね、別に盲目的にならなくていい。ただ、レーベルとしては今が15周年と旗振ってますけど20周年までいけるか分からないから、悲観的ではなく、1年1年気合い入れていくしかないな、という感じです。

本:じゃあ、レーベルのカラーは残していきたいのかな?

角張:カラーは残していきたいし、否応がなしにも残していかないといけないですけど、感覚がおっさんになってきていますね。たとえば本さんの「雷音レコード」(*10)からアナログを出した「台風クラブ」(*11)が先日CDとアナログを出して、評判もよくて売れていますが、配信はやっていませんよね。たぶん彼らなりの今のやり方だなって思うんです。前は僕もそれが普通でしたが、今は配信もやって1人でも多くの人が買いやすい状況を作っています。どっちかというと「少しでも多くの人に聴いてもらいたい」っていう大義名分が前に来ていて、自分のかっこよさというものが薄まってきて、何をするにしてもそれが出てくる。歳というよりかは「こだわりよりも便利な方がいいのではないか」という気持ちの方が上に来る瞬間があるから、それに対してどこまで反抗していこうかな、という感じですね。

(*10)雷音レコード本秀康さん主宰のレコードレーベル。7inchのアナログ・シングル盤専門で、すべてのジャケットを本さんが描き下ろす。
(*11)台風クラブ京都で結成された3人組ガレージバンド。2016年に雷音レコードより7inchレコードをリリース。

本:俺も台風クラブのレコードが届いた時に同じことを思ったよ。手作りのよさ、情熱の塊のようなLP。この感覚って最高なんだけど、もはや俺にはないなって。

角張:そうなんですよね。だからその時しか出来ないことをさせてあげられる環境があるのはいいなって思うんですけど、それを自分以外で発想する人がいないといけないじゃないですか。自分にはもうその感覚が少なくなっていると思っている人間なわけですから、「やりたいんですよ!」という人がいなきゃいけない。これも歳だと思いますけど、これからは育てないといけないのかなって。

本:今の感覚を角張くんが保っていればいいとも思うけどね。

角張:そうなんですけどね、僕もおっさんですからね……

本:それに「カクバリズム」という自分の名字のレーベル名で他の人に託すことは無理だよね。

角張:たしかにそうですね、子どもとかに託して2代目が出て来てもちょっと……(笑)。「どうも2代目カクバリズムです。親父が世話になっています」って一流企業の跡継ぎみたく言いながら、インディーズレーベルっていう(笑)。

本:そこまで続くと思ってなかったからこういう名前を付けたんだよね。

角張:僕の子どもが「本先生、イラストレーションお願いしていいですか?」って相談する日が来るかもしれません。

本:角張くんの子どもならしょうがないかーってね(笑)。

角張:面白いですけどね。「グラム・パーソンズ聴いてます!」っていう話からまた始まる。その日が来るにしろ、来ないにしろ、本さんとはずっと仕事していきたいです。

 

<プロフィール>

もとひでやす/1969年京都生まれ。イラストレーター、漫画家。1990年よりフリーイラストレーターとして活動。その後漫画家としてもデビュー。一見牧歌的な画風でありながら鋭い毒を持つストーリーと世界観によって、熱狂的なファンを獲得した。音楽への造詣が深く、音楽誌への寄稿、執筆も多い。

かくばりわたる/1978年宮城県生まれ。2002年3月に、レーベル・マネージメント会社・カクバリズムを設立。第1弾作品としてYOUR SONG IS GOODの7インチアナログシングル『Big Stomach, Big Mouth』をリリースする。以降、SAKEROCKやキセル、二階堂和美、MU-STARS、cero、VIDEOTAPEMUSIC、片想い、スカート、思い出野郎Aチーム、在日ファンク、mei eharaなど、エッジの利いたアーティストを続々と輩出。


本記事は『イラストレーション』No.216の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。

 

今回の対談も掲載している『イラストレーション』No.216。巻頭特集では、国内外で注目を集めるイラストレーターのイリヤ・クブシノブさんを紹介しています。

キーワード


関連記事