イラストレーターに聞く“5つの質問”  第5回 河井いづみさん

illustration FILE 2021』巻頭企画「イラストレーターに聞く5つの質問」。そこには、イラストレーターのみなさんの実感を伴った言葉が多数掲載されています。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、混乱が日常となっていった2021年。イラストレーターの方々は何を考え、感じ、どのように絵と向き合っていたのでしょうか?

本記事では、掲載された方々の中から編集部が12名をピックアップし、当時の回答をそのまま紹介します。第5回目に登場するのは、アナログ画材を使用した精密な描写が美しく、書籍挿画を中心に活躍されている河井いづみさんです。

(連載のまとめはこちらから)

 


河井いづみ

「メトロポリタン美術館」

長崎県出身。フランス・パリのアーティストレジデンス等で3年間活動。鉛筆画やリトグラフによる独自のテクスチュアを生かした、躍動と静けさが同居する世界観が魅力。装画や広告、ファッションブランドとのコラボ商品等、幅広く制作する他、国内外での展示も多数。

ウェブサイト:https://kawaiizumi.com

 

Q1

イラストレーションという言葉が多様化する昨今、今後のイラストレーターとしての方向性やイラストレーションの可能性をどのように考え、活動していますか?

イラストレーションは、広告や出版等はもちろん、プロダクトやアート作品としても、人々の暮らしに彩りをもたらす存在であって欲しいので、自分の作品をどんな形で届けたいかをいつも考えています。数年前、お菓子のパッケージデザインをしたところ、お客様に「贈り物にしたい」「飾っておきたい」等と言って頂き、絵を身近な「もの」 にすると喜んでもらえることがわかりました。その後もスカーフやタイツ、バッグ等、いろいろなお話を頂いて商品になり、自分の作品はプロダクトに合うのだろうと確信し、現在も次の商品について考えているところです。そのために、いろんな角度から人や時代を見るように心がけています。 また、私自身も他のアーティストの絵を度々買いますが、作品が放つ輝きは素晴らしく、私の暮らしを華やかにしてくれます。絵に力がないとタブローとしてもグッズとしても魅力を放てないので、外を見つめる一方で、自分に深く潜って描き続ける、淡々とした時間が一番大切だと思っています。

 

Q2

仕事や自主制作の時に使用する画材や紙、デバイス、ソフトウェアはどういったものですか?

鉛筆で描いて、それをスキャンしたものをPhotoshopで色付けや構成等の加工や調整をして、データ納品しています。またリトグラフ工房へ通い、版画制作も行っているので、展覧会には鉛筆画とリトグラフ作品が並びます。 版画を始めたきっかけは、それまで描いていた鉛筆によるモノクロ表現に行き詰まりを感じていて、もっと色を使いたくなったのと、展覧会でお客様が手に取りやすい価格で販売出来る作品を作りたかったからです。リトグラフは鉛筆画とは違い、思ったように完璧に出来ない部分があり、それが魅力と感じています。今まで慣れ親しんだ技法とは異なるものにチャレンジしたことで、表現の幅も広がりました。

 

Q3

COVID-19の影響による生活や仕事の変化はどのようなものでしたか?

もともとほぼ部屋で絵を描いている生活なので、影響はさほどなかったですが、外出が少なくなった分出来た時間で、家の片付けや作品の整理をしたり、少し立ち止まったことで自分を確認出来、仕事にも没頭出来て、穏やかに世界が広がっていった感覚です。

 

Q4

絵を描く時の思考や技術の礎、実作業の時の着想源や資料として利用するものはどんなものですか? また、2020年印象に残ったものは?

まず言葉、キーワードを書き出し、そこからイメージを膨らませます。視覚的には、建築をはじめそこにある空間の全体と細部を見るのが好きです。

 

Q5

仕事上で気を付けていること、知っていてよかったこと、今後身に付けたい技術や知識はありますか?

契約に関して、これまでは個々の案件によってまちまちでしたが、曖昧な点を回避し、クライアントとの齟齬を防ぐためにも、自身が最低限の法的知識を持ち、例えば契約においては書面対応にシフトしています。

 


本記事は『illustration FILE 2021 上巻』の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

illustration FILE 2021 上巻』(玄光社) 


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