loundrawさんがいま考えていること、これから目指すこと(前編)

イラストレーションNo.223のなかから、loundrawさんのインタビューを前後編で掲載します。

(後編はこちら

 

イラストレーターになってからの環境の劇的な変化にプレッシャーを感じつつも、進化を続けるloundrawさん。

レンズフレアや被写界深度を用いた表現など、イラストレーションの制作にまつわる話から、立ち上げたばかりの「FLAT STUDIO」に関する話まで、彼が現在考えていること、そしてこれから目指すことについて、お聞きする。

 

この数年の環境の変化

—— loundrawさんが絵を描くようになったきっかけを教えて下さい。

 きっかけは、小学校2年生の時に『名探偵コナン』(青山剛昌著)の模写を友だちに褒められたことです。それが子ども心にうれしくて、絵を描くようになりました。

—— イラストレーターになることを意識したのはいつ頃ですか?

 イラストレーターになろうと決意したのは、大学3年生の終わり頃で、実は就職活動もしたんです。当時のぼくにはイラストレーションだけで生活していくのは現実的ではないと思えたので、サラリーマンをしながら、副業でイラストレーションを描ければと考えていました。

 ただ、ちょうどそのタイミングで、現在マネジメントをして貰っているTHINKRや周囲の方が「東京に来るなら応援するよ」と言って下さって。こんなチャンスは滅多にないからそれに賭けてみようと、イラストレーターになる決意をしました。ですから、本当にここ数年で自分の周囲の環境が大きく変化したんです。

—— 就職せずに、イラストレーターになる選択をするのは勇気の要ることだと思います。今イラストレーターになってよかったと思いますか?

 今はたくさんのオファーを頂いて、自分のやりたいことが出来ているので、よかったと思います。ただ、プロジェクトによってはたくさんの方が携わりますし、大きな責任を感じることもあります。このプレッシャーは普通に就職していた場合には感じなかったでしょうし、そういった面の大変さがあることも事実ですね。

光、レンズ、そして色の話

—— 2019年2月に発売された画集『夜明けより前の君へ featuring 君は月夜に光り輝く』を見ると、2014年から2015年にかけて作品の印象が変化したと感じるのですが、意識的ですか?

 絵の印象が変わったのは、大学生の頃に観察対象に変化があったことが理由だと思います。それまではアニメーションや漫画が好きでしたので、そういった作品を描きたいという動機から作品を描いていました。ですが、大学生になって社会と向き合う機会が増え、自分から見た外の世界に意識が向くようになりました。その意識の変化から、人物もキャラクターというよりも生な人間として描くようになったりして、それが作品の印象の変化につながっているのだと思います。

 自分の画集を見ながらこれまでに描いた作品を振り返ると、毎年毎年変化があるなと改めて実感しますね。

—— loundrawさんの表現はカメラの被写界深度(*1)の使い方が印象的です。どれくらいカメラのレンズの効果を意識しているのでしょうか?

 今の時代は、多くの人が自分の目というより、カメラのレンズを通して物事を見ていると思うんです。ぼくがよく使う被写界深度だったり、レンズフレア(*2)の表現は肉眼では感じ取れない現象ですよね。でも、作品を見た人が違和感を感じずにかっこいいと思ってくれるのは、ビジュアルに対する人の価値観がカメラ的になりつつあるからだと感じるんです。だからこそレンズの効果の使い方は、〝何をリアルと定義するか〟という点で、かなり意識しています。

 カメラのレンズ的表現は、作品のなかに前後感を出す上で重要な役割を果たしているので、原理を正しく理解して使いたいと考えています。ただし、単純に原理通りに処理するだけではなくて、あえて嘘を入れることもあります。たとえば、実際のレンズではもっと背景がボケるはずだったとしても、背景にも注目して欲しい時は、あえてボケの範囲を小さくして背景のディテールを残すこともあります。

(*1)被写界深度:写真において、焦点が合っているように見える被写体側の距離範囲のこと。被写界深度が浅い、深いなどと表現する。
(*2)レンズフレア強い光源にレンズを向けた際に、レンズ面やレンズの鏡胴内で光が反射して、光源の周辺や画面全体を白っぽくしてしまう現象。

—— 光の表現にも注目されていますよね。

 ぼくのなかで光の表現は、あくまで演出手段の1つという前提があります。どこに光を当てるかで見る人の視線を誘導出来るので、光を落とす場所や色については常に意図を持って描いています。美しく描くために光を利用するのではなく、演出として光の表現を用いた結果として作品が美しく見えると考えています。

—— 今号の本誌の表紙もそうですが、loundrawさんの作品は“青”が印象的です。そう思われることについてどのように考えていますか?

 キーカラーがあると認識して貰えることは、とてもありがたいことだと思っています。しかし逆を言えば、その色以外のクオリティはまだ低いという捉え方も出来るので、どの色を使ってもそのような評価をして頂けるように努力しなければと率直に思います。たとえば個人的に好きな色である赤を基調とした作品でも“loundrawっぽいね”と言って頂けるような作品を描きたいです。

—— 着彩する時のルールがあれば教えて下さい。

 最初に作品の世界観のベースとなる2色、光と影の色の組み合わせを決めるようにしています。光も影も青にすると朝ですし、両方とも赤にすれば夕方になる。このように組み合わせによって作品に変化が生まれますよね。あとはこの基本の色を、絵のモチーフ毎にどうずらしていくか、という軸で考えるようにしています。この方法だと絵に統一感も出ますし、色を外しても軌道修正がしやすいと思います。

—— loundrawさんの作品に登場する人物たちのファッションにも今っぽさを感じます。どういったものを参考にしていますか?

 ぼく自身について言えば、普段からモノトーンの服ばかり着ているような感じで、あまりファッションにも関心はありませんでした。でも、大学時代に友人から「さすがにそれじゃやばいぞ」と言われることがあって、Webなどを見ながら頑張って勉強しています(笑)。

 映画やほかの方が描いたイラストレーションを見て学ぶこともありますし、東京に来てからは周囲に服に関心のある人が多いので、その方々を参考にすることも多いです。服を描く場合は、ディテールよりもシルエットを重視しています。ぼくはデザインに対して苦手意識があるので、服のデザインも自分なりに頑張って描いています。

オリジナル「last18」/2013年 レンズフレアの表現を用いたオリジナル作品。

 

デジタルにおけるアナログ的表現の追求

—— 本誌で行なったイリヤさんとの対談では“描く速さ”を重視しているとおっしゃっていました。速く描くためにしていることはありますか?

 すべての作業手順をルール化しています。どういう手順で描くのが一番ミスがないか、分かりやすいかということを自分のなかで突き詰めることが速く描くことにつながっていると思います。

—— ゲーミングデバイスも使用していると聞きました。

 左手でゲーミングデバイスを扱えるようにしています。20個ほどのボタンにショートカットコマンドを設定していて、ボタンを1つ押すだけで、複雑な作業も1度に行えるようになっています。

 ですからぼくの場合、絵を描くというよりも、自分の構想を画面上で具現化するという感覚の方が近いかもしれません。もしこのデバイスがなかったら倍くらい制作時間がかかると思います。

 それと、描く前に作品の目標地点を完璧に決めるので、後から加工してボカす部分など、描きこみが必要ないところは最初からあまり描かないようにして、作業を省略化しています。

 このような制作方法を採っているので、ライブドローイングで「何時間で描いて下さい」と言われても、わりと正確にその時間内で描き切ることが出来ます。

—— 今回の特集にあたって、loundrawさんの作品をたくさん見ましたが、横長の構図が多かったです。これは意図的なのでしょうか?

 書籍のカバーの場合は、「表1から表4まで絵がつながるように描いて欲しい」というオーダーが多いからですね。それと縦長と横長で比べた場合、後者の方が描ける構図のバリエーションが多いということもあります。距離感についての情報も横長の方がたくさん入れられますし、自分にとって描きやすいので、オリジナル作品でも横の作品が多めになっています。

—— デジタル制作におけるアナログ感を出したいとおっしゃっていました。具体的にはどのようなことでしょうか?

 どれくらい手描きのニュアンスを出しつつ、作品のクオリティを上げられるかというのが、最近挑戦しているテーマの1つです。例えば、昔のアニメの背景はアナログで大きなブラシしか使えないなかで、それでも説得力や迫力のあるものが描けていたと思うんです。それは、厳密な意味で同じ色が画面のなかに存在しないとか、ノイズがあるというような部分から来る一発勝負の緊張感によるものだと考えていて。デジタルはある種、どこまでもきれいに修正したり、完璧に描けるツールですが、それによって失われているものもあると思うんです。

 なので、原点回帰するわけではないですが、アナログのいい部分をデジタル表現に取り入れていきたいと考えていて、最近はあえてアナログ的なノイズのある大きなブラシで描くようにしています。その一環として今回の表紙では“アンドゥ”(*3)を極力使わないで描くことに挑戦しました。

(*3)アンドゥ:パソコンの操作で直前の作業を取り消すこと。

—— 描線に対するこだわりも感じるのですが、どういった点を特に気を付けていますか?

 引く線の数を最小限にしたいと考えています。たくさん線を引いて、服の構造などを説明したりすることは出来るだけしたくないんです。それよりも、なるべく少ない線で描いて、あとは見た人に想像して貰いたいと考えています。

 実際に描いている線について言えば、鉛筆っぽい線になるように意識していて、比較的太めの線で不透明度も抑えています。というのも、ぼくは描く対象の厳密なシルエットを出したくないんです。ちゃんと描きつつも、ベストの輪郭は見た人に決めて貰いたいと思っています。

 目の描き方についても同じで、太めの線で描いているため、人物の視線がわずかにぼやけるんです。示すけど示し切らない解像度の線というのは常に模索しています。

 線の色については、不透明度を変えたりはしますけど、基本的には黒で描いています。作品によっては、線にも色があるように見えますが、これは最後の加工の際にスクリーンやオーバレイをかけているのが理由です。

後編に続きます)

 

〈プロフィール〉

loundraw/1994年生まれ。福井県出身。イラストレーターとして10代で商業デビュー。透明感、空気感のある色彩と、被写界深度を用いた緻密な空間設計を魅力とし、さまざまな作品の装画を担当する。2017年9月には自身初の個展「夜明けより前の君へ」を開催。2018年7月、監督・脚本・演出・レイアウト・原画・動画・背景を手がけた卒業制作オリジナルアニメーション「夢が覚めるまで」を発表。小説『イミテーションと極彩色のグレー』、漫画『あおぞらとくもりぞら』(共にKADOKAWA)の執筆、アーティスト集団・CHRONICLEでの音楽活動なども行なう。2019年1月にアニメーションスタジオ「FLAT STUDIO」を設立。

 


本記事は『イラストレーション』No.223の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。

 

イラストレーションNo.223は、ベストセラーとなった『君の膵臓をたべたい』(住野よる著)や『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜著)の装画などで知られる、注目のイラストレーターloundrawさんを40ページにわたって特集しています。

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