クイックオバケさんの「GIF漫画」が生まれるまで

イラストレーションNo.223の特集「イラストレーションとアニメーション」のなかから、クイックオバケさんのインタビューを掲載します。

2019年にリニューアルし大きな注目を集めた雑誌『文藝』の表紙ほか、さまざまな仕事を手がけるクイックオバケさん。Twitter上で発信されるおばけがコマを自在に移動するGIF漫画は、多くの支持を得て、広くファンを獲得しています。

“新感覚”とも言える「GIF漫画」はどのように生まれたのか。また、クイックオバケさんが作品をとおして描きたいと思っているものは何なのでしょうか。

 

GIF漫画が生まれるまで

—— 絵に対する興味は、いつからあったのでしょうか。

覚えていないくらい小さな頃からです。子どもはみんな絵を描くと思いますが、幼稚園のなかでも特に絵が好きな子どもでした。当時は図鑑の絵を真似して描いたり、虫が好きだったので、自分でセミを捕まえてきて模写していた記憶があります。

—— 高校生の時は、漫画を描いていたそうですね。

描いてはいましたが、そこまで真剣にやっていたわけではないんです。絵は好きで続けてきましたが、1つのスタイルを突きつめるというよりは、いろいろなことを試してきました。

—— アニメーションにはいつから取り組んでいるのですか?

大学に入ってからです。アニメーションにはもともと興味がありましたが、高校の頃は作り方が分からなくて。僕は、多摩美術大学で主にデジタル領域のことを学んでいたので、学科にアニメーションを教えて下さる先生もいて、Photoshopなどのソフトを覚えていきながら少しずつ作れるようになりました。あと大学入学前に、自主制作のようなアニメーションだったり、久野遥子さんの「Airly Me」を観て、すごいなと感動したのもアニメーションにより興味を持った理由の1つです。

—— 大学3年生の時には、ザ・チョイスで入選を果たしています。当時は、イラストレーターを目指していたのでしょうか。

絵を描くことは好きなので、それ以外の仕事をしようと考えたことはありませんでした。かといって、絶対イラストレーターになれるとも思ってはいなくて。作品の評価をして貰い、イラストレーションを上達させたいと思って応募をしました。

ザ・チョイスの入選2作品。この審査時には、おばけのイラストレーションも一緒に応募したそう。

 

—— 動かない絵よりも動く絵に興味があった?

そうですね。大学に入ったら、自分より絵がうまい人はたくさんいました。僕は落描きみたいなものは好きだけど、長い時間をかけて1枚の絵を描くタイプではないんです。それに、そもそも自分が描く絵は、1枚だとそんなに力がないんじゃないかと思っていたので。動く絵の方が人の目を引くし、アニメーションをやれば今後の汎用性もあるかなと思って、自分の絵を活かすために、動かした方がいいのではと考えました。

—— クイックオバケさんといえば、やはりおばけのキャラクターが有名です。描き始めたきっかけはあるのでしょうか。

よく聞かれるんですが、そんなに深い意味はないんですよね。きっかけは、おばけに足が生えたらかわいいかな? と思って描いた落描きを友だちがいいねと言ってくれた、といった些細なことだったと記憶しています。その後、おばけが登場するアニメーション(「おばけはなかなか眠れない」)を作ったのですが、それが賞にノミネートされたり、教授に褒めて貰ったりと評判がよくて。自分としては、キャラクターにこだわるつもりはなかったんですが、そこから作品にたびたび登場させるようになりました。

学生時代に制作したアニメーション「おばけはなかなか眠れない」。

—— 広く認知されたのは、Twitterの投稿がきっかけでした。今の作風であるGIF漫画に至った経緯を教えて下さい。

一番最初にコマを割ったのは、2018年2月に投稿した「Room」です。Twitterには以前から、おばけのイラストレーションや短いアニメーションを投稿していたんですが、この作品で初めて“いいね”やリツイートといった反応を数万単位で頂きました。当時はコマ割りという意識はあまりなくて、部屋を2つ描いたつもりだったんです。ただ、この投稿に「漫画が動いているみたい!」というコメントがあって。思いも寄らない意見だったのですが、それいいかもしれないと思って、この作品以降意識をするようになりました。人の言葉に導いて貰ったんです。

—— 作品の制作方法や制作時間についても、教えて頂けますか。

下描きを基に枠線を描き、次に背景、キャラクターの主要な動きを描きます。その後キャラクターの動きを中割りし、最後にセリフを付けていきます。以前はアナログで下描きをしていましたが、最近はすべての工程をPC上で行なっています。使用しているソフトは、PhotoshopとTVPaint Animationです。あと作品がタイムライン上で目に留まるには、内容や絵柄以上に色で決まる部分も多いなと思っていて。なかなか理屈で説明をするのは難しいのですが、これだ! と思う色になるまで何回も調整しています。ただ青が好きなので、青っぽい作品は多いかもしれないです。

1度思い付いて描くテーマが決まれば、ずっと集中出来る方なので、Twitterにアップしているような作品だと、1〜2日くらいで完成します。

 

描きたいのは日常の延長線

—— 作品に添えられている言葉も、すごく印象的です

高校時代に、星新一さんなどが好きでよく読んでいた時期があるので、影響をされているかもしれないですね。小説を読むほかに、日記も昔から書いていて、気付いたことを言葉にするのは好きです。あくまでTwitterの話にはなりますが、テーマを決めて言葉を作りこむよりも、普通に日常生活を送るなかで、パッと思い付いたことを作品にする方が反応は大きいような気がしています。

—— そのほかに影響を受けた、作家や作品はありますか。

つげ義春さんが好きで、あのシュールさに魅力を感じます。つげ作品に描かれる断片的な現実は夢のようで、なんだか力が抜けていくような感覚があるんですよね。代表作の『ねじ式』はもちろん好きですが、『山椒魚』という短いお話も印象に残っています。

あとは井上雄彦さんの『バカボンド』も好きな作品です。宮本武蔵が強さとは何かを考える漫画なんですが、その考える姿に愛着を感じます。彼は強くなるにつれ、決闘の場で身体から力が抜けていき、ぼーっとした状態で相手に飛びかかります。この〝無〟に近い境地はつげさんにも通じるところがあるのではと勝手ながら思っています。

—— 描かれる場面も、部屋やその周りが多いですね。

それは意識しています。自分の周りの半径数メートルに描きたいものがあるんです。少し大げさかもしれないんですが、今の時代は部屋の中にいてもインターネットでつながって、光や影、いろんな世界のことが見えると思います。そして、それを簡単に受け売りすることも出来てしまう。でも、どんなに分かったつもりになっても、それは部屋の中で知り得た情報でしかない。そんな状況にいる周囲や自分自身に、違和感を感じているせいかもしれません。

単純に、インドアであんまり部屋から出ないということもありますが(笑)。

—— クイックオバケさんの作品は、哀愁と希望が同居しているように感じます。

インターネットでは、極端に暗かったり明るかったり、美しかったり醜かったり、そういう過剰なものが刺激的でウケる場合が多いと思うんです。でも僕は、あまり過激にならずなるべく平凡な日常の延長線上にある話で、作品を観る人が自由に受け取ることの出来るものが好きです。だから、明暗や美醜が入り混じったらいいなとは思っています。それが普遍性というかは分かりませんが、多くの人にまあ悪くはないなと思って貰えるものになっていればうれしいです。

—— Twitterのフォロワーは現在11万人超(編集部注:2020年5月現在で約19万人)。影響力のある数字ですよね。

影響力を強めたいと思う人もいるかもしれないんですが、数字はそこまで意識しないようにしています。初めてアップしたGIF漫画を思い出すと、僕は人にウケたいとあまり思わずに描く方が、回り回っていいと言って貰えることが多いんです。だから、なるべく肩の力を抜いて考えていたいです。

正直に言うと、Twitterの作品はまだ完成形ではなく、たまたま支持して貰っているという感じなんです。将来についてはいまだに迷っているし、やりたいことが具体的にかっちりと決められたわけではありません。だからこそ尚更、今は頂いた目の前の仕事に、全力で取り組みたいと思っています。新しい経験をさせて頂くことで、その先に見えてくることがきっとあると思うので。

—— 今のお仕事の状況と、今後やってみたいことを教えて下さい。

僕はアニメーションを描いているので、広告の仕事だと映像を作ることがほとんどです。「アンノウンワールド」のジャケットはイラストレーションのみの仕事でしたが、雑誌『文藝』や『美術手帖』も、表紙のイラストレーションや誌面に掲載した漫画と一緒にGIFアニメも制作して欲しいという依頼でした。なので、紙に向かって作業するよりもほとんどPCに向かって仕事をしています。

でも、日頃デジタルでお仕事をさせて貰っているからこそ、紙に絵を描くこともやりたいんです。昔から、絵本が好きだったので絵本を作ろうと思っていて、実は以前、コンペに応募したこともあります。話の筋を考えるのが好きなので、絵本以外にもドラマのような長めのストーリーを作ってみたいです。

「アンノウンワールド」Schrödinger’s Cat adding コトリンゴ(avex)CDジャケット/2019年/AD:Y’s/歌い手の1人であるコトリンゴさんにちなんで、猫がリンゴのペンダントをしているなど細部にもこだわりがある。

 

コンペに応募したオリジナル絵本。「蚊の一生」をテーマにした。

 

〈プロフィール〉

1995年生まれ。多摩美術大学卒業後、おばけのキャラクターを軸としながら、アニメーション、イラストレーション、漫画などさまざまな仕事を幅広く手がける。コマからコマへキャラクターが移動する「GIF漫画」という新ジャンルを開拓し、日常で感じたささやかな気付きをTwitterで発信している。

Twitter @QuickObake


本記事は『イラストレーション』No.223の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。

 

イラストレーションNo.223は、ベストセラーとなった『君の膵臓をたべたい』(住野よる著)や『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜著)の装画などで知られる、注目のイラストレーターloundrawさんを40ページにわたって特集。

また、特集「イラストレーションとアニメーション」では、気鋭のアニメーターでありイラストレーションの仕事も手がける、クイックオバケさん、北村みなみさん、久野遥子さんの3名を紹介しています。

 

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