『illustration FILE 2022』巻頭企画「イラストレーターに聞く“5つの質問”」。そこには、イラストレーターのみなさんの実感を伴った言葉が多数掲載されています。
新型コロナウイルスの影響が色濃く残っていた2022年。日常の在り方が刻一刻と変わっていく中で、イラストレーターの方々は何を考え、感じ、どのように絵と向き合っていたのでしょうか?
本記事では、掲載された方々の中から編集部が12名をピックアップし、当時の回答をそのまま紹介します。第10回目に登場するのは、昭和ムードのイラストレーションを描き、イベントのビジュアルや、雑誌の挿絵などを手がける吉岡里奈さんです。
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吉岡里奈
多摩美術大学芸術学科映像コース卒業。イラストレーション青山塾修了。2014年TIS公募金賞。昭和ムードのイラストレーションを好んで描いている。
Instagram @yoshioka_rina33
X(旧Twitter) @yoshiokarinana
Q1
「イラストレーション」という言葉の持つ意味合いが多様化する昨今、イラストレーターの仕事をどう捉えていますか? また、イラストレーションに感じる希望や可能性、ご自身が力を入れていることは何ですか?
既にそうなりつつありますが、近い将来AIが人間の能力を超えて素晴らしいイラストレーションを提供できる世の中になっても、私の描くものが必要とされるかについて考えます。好き勝手な創作とは違い仕事は相手あってのものなので、依頼してよかったと思って頂けるイラストレーションを描くのを目標にしています。私の絵柄は広く浅くというより好きな人は好き……という間口の狭い作風だと思うので、依頼してくれたクライアントの方が何を求めているのか、にちゃんと答えられるようにしたい。この先AIやデジタルを駆使した先鋭的なイラストレーションが主流になっていくであろう世の中で私は原始人のような時代遅れな作風、作画法でやってますが逆にそれを強みにしていきたいです。
Q2
仕事や自主制作の時に使用する画材や紙、デバイス、ソフトウェアはどういったものですか?
アイデアスケッチはマルマンのクロッキー帳とシャーペン。ラフはミリペンとA4のコピー用紙。本画の支持体は、仕事はイラストレーションボード、展示はキャンバスと木製パネル。仕事、展示ともにアクリル絵具で描いてます。
Q3
新型コロナウイルスによる日常生活や仕事の変化、影響はありましたか?
以前よりほぼ引きこもりの生活でしたので生活自体にあまり変化はないのですが、毎日流れるコロナ禍での関連ニュースで気持ちが重くなることが多く、せめて私が描く絵は(以前からそうでしたが) もっとバカバカしさや明るくてくだらない方に振り切ろうと妙な決心が湧きました。
Q4
絵を描くときの思考や技術の礎、実作業の時の着想源や資料として利用するものはどんなものですか? また、2021年印象に残ったものは?
1960~1970年代の邦画のポスターを見て内容を想像するだけでもワクワクします。その時代の埃っぽさ、熱を表現したいと着想のアイデアにすることが多いです。最近は1980~1990年代の自分が子供の頃に接していた昭和ファンシー文化も気になっています。当時の色使いやフォントも作風に加えてみたいですし、過ぎ去ってしまった時代への憧れや郷愁と自分が生きてる時代の生々しさを融合して自分にしか出せないムードを描きたいです。
Q5
実際に仕事をする上で気をつけていること、知っていてよかったこと、今後身に付けたい技術や知識は?
依頼を正式に受ける前に、画料の確認をするようにしています。提示してくれるクライアントの方がほとんどですが、たまになかなか教えてくれない方もいらっしゃるので……。以前はモヤモヤしつつも聞けなかったのですが、お金のことを聞くのは悪いことじゃない! と思うようになりました。A1で今後は時代遅れを強みにしたいと言いましたが、仕事相手に迷惑がかからないように最低限デジタルの知識を身につけたいとも思っています。特にラフはデジタルでの修正の方が効率がよいことを痛感しました。
※本記事は『illustration FILE 2022』下巻の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。