読書だより:第9号『きみのまち 歩く、旅する、書く、えがく』

週の始まりに、絵本や漫画、創作に関する書籍などを中心に、楽しく読める1冊をご紹介する本連載。お昼休憩や帰宅後の時間のお供に、はたまたお子さまへの読み聞かせに……。気になる本に出会ったら、ぜひ手に取ってみてください。

「旅と冒険」をテーマに進めてきた7月、最後にご紹介するのは『きみのまち 歩く、旅する、書く、えがく』(rn press)です。

 


『きみのまち 歩く、旅する、書く、えがく』

今日マチ子 著(rn press)

2,000円+税 装丁:川名潤

——2023年の5月、「GWはどこへ行きましたか?」と聞かれた。挨拶のことばが「コロナ」から「旅」になった。自分の人生に現れた、一瞬の晴れ間のようなこの機会を忘れないようにしようと思う。また困難のなかにあるとき、支えてくれるかもしれないから。(本文より)

『センネン画報』『cocoon』などの作品で知られる今日マチ子さんによる、エッセイと絵日記をまとめた1冊。コロナ禍の街の移ろいを描いた「#stayhome日記」シリーズの完結からおよそ1年の時を経て、次に著者が描いたのは旅の記録です。台北ー台中ー台南ー高雄という台湾旅、伊勢、京都、仙台、つくば、金沢……。さまざまな街を訪れ、「旅が出来る日々」を取り戻した喜びを、エッセイとイラストレーションで綴ります。

漫画家・今日マチ子さんによる初のエッセイ集。読み始めると、洗練された作風からは意外に思えるほど軽やかな文章の引力に驚かされます。前半で語られるのは、国内外でのハプニング満載の旅路、そして著者の目に映る、その土地に暮らす人々の生活が内包する美しさ。見たもの、感じたことをストレートに伝えてくれる語り口には、肌を焼く日差しや車窓越しに流れる風景を想像させ、見も知らぬ土地にも親しみを抱かせる力があります。

そして、東京での出来事を描いた後半は学生時代の思い出なども交え、著者の人柄や普段の過ごし方を知ることが出来る内容。画業に対する姿勢が語られたかと思えば、夢中で化石を掘ったり大量の野菜を手に途方に暮れたり……。今日さんが生きる「日常」に、人生は多面的で、そして1つとして同じものはないのだと再認識する人も多いのではないでしょうか。

個人的な話になりますが、自身が年始に「鴨川河川敷で本を読む」ためだけに京都へ出向いた時のことを思い出しました。読むと決めていた本を出発前になくし、着くやいなや高熱を出し、あらゆるお店の正月休みに翻弄され、結局本も読まず街と川辺を徘徊し続けた、有意義とは程遠い3日間。土手に座ってサギの水浴びを眺めながら「私は一体何をしているのか」と自問したものですが、振り返ればあれも旅と呼べなくはないのかもと、わずかながら思ったのでした。

▶︎『きみのまち 歩く、旅する、書く、えがく』


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