読書だより:第6号『室外機室 ちょめ短編集』

週の始まりに、絵本や漫画、創作に関する書籍などを中心に、楽しく読める1冊をご紹介する本連載。お昼休憩や帰宅後の時間のお供に、はたまたお子さまへの読み聞かせに……。気になる本に出会ったら、ぜひ手に取ってみてください。

「旅と冒険」がテーマの7月。今回は、『室外機室 ちょめ短編集』(双葉社)をご紹介します。

 


『室外機室 ちょめ短編集』

ちょめ 著(双葉社)

730円+税 装丁:BREW

©ちょめ/双葉社

存在しないはずの本を買う「継ぎ穂」、魂になって世界を漂う「21gの冒険」、異世界のラジオ番組を受信する「混信」、図書館の地下に広がるもう1つの世界に迷いこむ「地下図書館探検譚」――。

コミティアで発表された4編と、描き下ろしの「序」「〆」を収録した、読む人を幻想の世界へ軽やかに誘う珠玉のファンタジー短編集です。

 


※試し読みはこちらから

ローファンタジーの傑作4編を収録した同書は、緻密な線で描かれた街並みにタイトルの鈍い銀色が光る、美しい装丁が目印。作品の“リアル”を支える作画の素晴らしさは言わずもがな、全編とおしてさまざまなシチュエーション、違ったカラーの物語が楽しめます。

中でも、読み進めて特に引きこまれるのが「21gの冒険」から「混信」へ続く動と静のコントラスト。「21gの冒険」では都会のビル群から広大な山野まで、霊体となった主人公の空中散歩が躍動感たっぷりに描かれますが、一転、「混信」では主人公が真夜中に遭遇する“あるはずのない「どこか」のニュース”を流すラジオ番組を軸に物語が進行します。

キャラクターの動きや構図を視覚で楽しむ前者と、音声(=文字)のみで“不思議”を描く後者。その表現の幅からは、ストーリー展開の巧みさがうかがえるだけでなく、現実と空想のあわいへの作者の眼差しも垣間見えます。

雑踏の中で、いつもの自室で、何気ない日常の中に音もなく開かれる異世界への扉。その存在に気づいた時、私たちはすでに不思議の国に足を踏み入れているのかもしれません。そしてこの本こそが、その扉であるように思えてならないのです。

▶︎『室外機室 ちょめ短編集』(双葉社)


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