イラストレーションNo.223のなかから、loundrawさんのインタビューを前後編で掲載します。
イラストレーターになってからの環境の劇的な変化にプレッシャーを感じつつも、進化を続けるloundrawさん。
レンズフレアや被写界深度を用いた表現など、イラストレーションの制作にまつわる話から、立ち上げたばかりの「FLAT STUDIO」に関する話まで、彼が現在考えていること、そしてこれから目指すことについて、お聞きする。
(前編はこちら)
制作環境の話
—— 現在の制作環境とよく使用するソフトなど、教えて下さい。
作業机の中央に液晶タブレットの「Wocom Cintiq Pro 32」、左に4Kのディスプレイがあり、この2つのディスプレイは両方ともキャリブレーションされています。それともう1つ右側にもモニターを置いています。なのでディスプレイは全部で3つ使用しています。
用途としては、真ん中のタブレットはフルスクリーンで絵を描くために使っていて、左のディスプレイはナビゲーター、右は資料を見たりメッセンジャーを見るのに使用しています。スタイラスペンについては、純正のものを使っていて、特にカスタムはしていません。それと左側に先ほど話したゲーミングデバイスがあります。
たまに左の画面でゲームをしながら絵を描くこともあります。ぼくの場合、音楽を聴いたり、映像を流し見しながらじゃないと作業がはかどらないですね。
ソフトに関しては「SAI」「Photoshop」「Clip Studio」「After Effects」「Blender」を使用しています。
「FLAT STUDIO」、「CHRONICLE」のこと
—— 最近ではイラストレーターも積極的に動画を作っています。その際にハードルとなるのが、アニメーションを作るソフトをどのように学習するかだと思うのですが、loundrawさんはどのように動画制作を学んだのでしょう?
最初に卒業制作でアニメーションを作ろうと考えた時に、使用ソフトとして思い付いたのが
「Clip Studio」だけでしたので、卒業制作の「劇場版アニメ『夢が覚めるまで』予告編」の制作ではほぼ「Clip Studio」だけを使いました。
操作の基本を学ぶところからスタートして、4カ月で完成に漕ぎ着けるのは正直とても苦労しました……。完成させられなければ卒業出来ない切羽詰まった状況で、必死にインターネットで検索したハウツーを見て勉強しつつ、試行錯誤の連続でしたね。今の世のなかにインターネットがあって本当によかったと思いますよ(笑)。
—— 漫画にアニメーションにイラストレーションと、まさに多忙を極めていますが、寝ていますか?
寝てないと思われることが多いのですが、きちんと寝てますよ。ぼくは基本的に寝ないとダメな人なので、12時間くらい寝ることもあります。寝ていない時間はほぼ仕事していますけど……。
—— 仕事としてイラストレーションを楽しんで描いている印象があります。
実は、楽しいという気持ちはもはや遠くに存在していると言いますか、どちらかというと責任感の方が大きいです。ただ、絵を描いていて、もう少し頑張れば新しい表現だったり、これまでに見たことのない絵になるなという予感が生まれる瞬間があるので、それを確かめたくて毎日描き続けています。小説や漫画を書いている時も同じで、自分にとっての新しい表現を発見したいという気持ちがモチベーションを支えています。
—— アニメーションスタジオ「FLAT STUDIO」を立ち上げました。どういった目的のチームで、これからどのような活動をされていく予定か、教えて下さい。
loundrawのアニメーションをより大きなプロジェクトとして作っていくため、というのが大きな柱の1つとして存在します。ただ単純に手を動かす人が集まるだけの場にしたくないという意識がありますね。
もう1つの大切な柱は、創作に対して近い価値観を持つ創作者たちの集う場所を作る、というものです。たとえば、メンバーの佐野徹夜さんがぼくに小説の書き方を教えてくれるかもしれないですし、逆にぼくが佐野さんにイラストレーターとしてビジュアル的アドバイスが出来るかもしれない。そういった相乗効果であったり、異なる領域のプロフェッショナルだからこその視点が集まることがいい作品には必要だと感じています。普段は各々の仕事をしてはいるのだけど、大きなプロジェクトが始動した時にはみんなが集まり、意見を出し合える。そんな場所にしたくて立ち上げることにしました。今も仲間を募集中です。
—— 音楽ユニット「CHRONICLE」としても活動しています。「CHRONICLE」でのloundrawさんの役割について教えて下さい。
「CHRONICLE」は音楽と物語、そしてアートという3つの軸を持っているアーティストで、ぼくはその世界観作りを担っています。具体的には、〝CHRONICLE〟という世界を作る上でのストーリー原案やキャラクターデザイン、世界観設計。音楽面では作詞やジャケットイラストを描いたり、「予告編アニメ映像」の制作もしました。
—— 先日、その「CHRONICLE」の予告編アニメーションを見せて頂き、クオリティに驚きました。これまでの映像作品に比べて、新しい取り組みがあれば教えて下さい。
「CHRONICLE」はとてもスケールの大きな物語なので、今回の予告編はその初めの一幕というイメージです。実はあの映像のなかにたくさんの伏線を描いているので、今後の展開に期待して頂ければと思います。
技術的な面で言えば、全カットで色を管理しました。キャラクターの色をロケーション毎にすべて個別で設定し、さらにそれをシーン毎に整え、最後に実写映画と同じフローでカラーコレクションして色味を調整しているので、キャラクターの色が全カットで違うんです。アニメーション業界ではあまりそういったことをしていないと興味を持って頂いたりして、それが技術的に新しい挑戦でしたね。
「CHRONICLE」はこれからもさまざまな作品やコンテンツをどんどん発表していく予定なので、楽しみにしていて下さい。
〈プロフィール〉
loundraw/1994年生まれ。福井県出身。イラストレーターとして10代で商業デビュー。透明感、空気感のある色彩と、被写界深度を用いた緻密な空間設計を魅力とし、さまざまな作品の装画を担当する。2017年9月には自身初の個展「夜明けより前の君へ」を開催。2018年7月、監督・脚本・演出・レイアウト・原画・動画・背景を手がけた卒業制作オリジナルアニメーション「夢が覚めるまで」を発表。小説『イミテーションと極彩色のグレー』、漫画『あおぞらとくもりぞら』(共にKADOKAWA)の執筆、アーティスト集団・CHRONICLEでの音楽活動なども行なう。2019年1月にアニメーションスタジオ「FLAT STUDIO」を設立。
本記事は『イラストレーション』No.223の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。
イラストレーションNo.223は、ベストセラーとなった『君の膵臓をたべたい』(住野よる著)や『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜著)の装画などで知られる、注目のイラストレーターloundrawさんを40ページにわたって特集しています。