フォロワー181万人超! イリヤ・クブシノブさんに聞いた「女性を描くこと」(後編)

イラストレーションNo.216に掲載された、イリヤ・クブシノブさんのインタビューを一挙公開。

多くの作品をSNSで発表する一方、これまであまり自らの制作に対する考え方や、経歴を語ってこなかったイリヤさん。創作活動歴や来日のきっかけ、そして女性を描くことに対する思いについて聞きました。

前編はこちら)

撮影:坂上俊彦

 

女性を描くこと

――女性をたくさん描かれています。女性を描く際に大切なことは何でしょうか?

バックストーリーまで考えてから描くことが重要です。私はいつもその女性の性格や年齢、名前なども想像しながら描くようにしています。そして、その女性は描かれている時に、どんな感情だったのだろうと考えながら描くことで、女性の表情も自然と決まってきます。

――女性の服装を描く時に参考にするものはありますか?

女性用のファッション誌を買って、参考にしています。男性用の雑誌に載っている女性たちはセクシー過ぎて私の絵には参考になりませんが、女性誌は女性に対するリスペクトがありますし、流行のスタイルなど勉強になります。

――女性の髪型を描く時にも参考にするものはあるのでしょうか?

あまり考えずに描くとショートカットの女性を描いてしまうことが多くて、後で気付いて髪型を描き直すことがあります。ショートカットの女の子が多い理由は、冬目景さんの『イエスタデイをうたって』の登場人物ハルから受けた影響だと思います。一方で長い髪を描くのは少し苦手かもしれません。

――目の描き方も印象的です。

目を描く時は、目の真ん中には穴があるということを必ず意識します。穴がある場合、正面と横、斜めから見た時に、それぞれ見え方が違いますし、光の入り方も違いますから、自然と描き方も変わってきます。

――光の話が少し出ましたが、光の描写で意識することはありますか?

光については、表情と構図を決めつつ、その表情が一番映える光の当たり方を考えています。私はスクエアの画面に作品を描くことが多いため、画一的な構図になりがちなので、変化のある構図になるように常に意識しています。そして、その構図をより印象的に見せるベストな光の当たり方をいつも検討しています。

女性を描く際には、表情に特に注意しているというイリヤさん。表情が一番映える光の向きと場所を常に意識し作品を描いている。

 

色に対するこだわり

――色に対するこだわりはありますか?

自分で少し変わっているなと思うのは、緑色をほとんど使わないことです。絵具で木や緑の物体を描く時は、混色して緑色を作るようにしています。デジタルで作品を描く時も同様に緑は使わないです。私の目に見える対象をそのまま表現していくと、どうしても緑になりません(笑)。昔のフィルムは緑系に色が転がることが多く、緑系を使うとフィクションのような雰囲気になってしまうと無意識に感じているのかもしれません。出来上がった作品は補色の関係から紫っぽい作品になることが多いんです。

――確かに本誌に描き下ろして頂いた表紙も、作品集の表紙も紫ですね。

特に紫が好きというわけでもないのですが、紫を入れると自分でも驚くような不思議な雰囲気の作品になるのが好きです。本当に好きな色は黒と赤ですが、緑を使わない結果として紫っぽい作品が多くなっているのだと思います。

――アナログの場合、単色の緑は使わないのはなぜでしょうか?

学校の授業で風景を描く際に、教師から緑を使わないようにと教わってきたので、それが刷りこまれているのだと思います。22歳までは全然色のことが分からず、ただデッサンでモチーフの色をコピーしていただけでした。でもゲームを作る仕事をやるようになった時に、色について学ぶ必要性を感じて、ヨハネス・イッテンの書いた『The Art of Color』を読んで学びました。

――画材について教えて下さい。

液晶タブレットはワコムのCintiqの27インチを使っていて、ソフトはPhotoshopとCLIP STUDIOを使っています。2つのソフトを使い分けている理由は、それぞれの優れている部分を活かすためです。Photoshopにはさまざまな設定や加工が出来るよさがあるので、色塗りや仕上げに使っています。一方、線をきれいに描けるので線画はCLIP STUDIOを使っています。

最近は鉛筆で描いた線をパソコンに取りこんでから、デジタルで仕上げをする方法を採ることが多いです。線は鉛筆で描くのがもっともいいと思いますし、着彩はデジタルの方がフルコントロール出来るのでデジタルを使っています。

――タブレットはいつ頃から使っていたのでしょうか?

19歳の頃に個人的に買ったのが一番最初です。すごく使いづらかったですけど。ロシアのゲーム会社で働いていた時は板タブを使っていました。液晶タブレットを使うようになったのは日本に来てからです。

 

スクエアの構図へのこだわり

――普段の生活で、イラストレーションを描くために意識的にしていることはありますか?

本を読んで勉強をしたり、インターネットで他のイラストレーターのチュートリアルを見て学んでいます。他にもゲームをプレイする時にもデザインなどを意識的に見ていますし、あらゆる物事から絵を描くことのヒントを吸収したいと考えています。

――ファンアートもたくさん描かれていますが、練習の一環なのでしょうか?

そういう意味もありますが、基本的には対象となる作品の素晴らしさを、多くの人に知って貰いたいというのが、一番の動機です。自分の好きな作品を他の人にも好きになって欲しい想いがあります。

――スクエアの構図にこだわりがあると画集でも書いていますが、それはなぜでしょう?

よく描かれる構図は4:3だと思います。この構図がメジャーなのは、書籍の判型にこの比率が多いからではないでしょうか。ただ、私の場合はSNSを中心に作品を発表しているので、SNS上で作品がもっともよく見える構図を考えていて、それがスクエアだと思っています。

もちろん私も仕事では4:3のフォーマットで描くことが多かったので、この比率で描くことに慣れていますし、作品に躍動感を出すことにも向いています。ただ、それでは面白くないので、スクエアの構図にディテールを描きこみつつ、バランスを取るという難しさに挑戦しながら描くのが楽しいんです。

――「ファイナルファンタジー」のキャラクターも描いていますよね? どういった経緯で依頼が来たんですか?

私がpixivで描いていたファイナルファンタジーのファンアートを見た方が、依頼してくれました。ファンアートを発表していると、公式に仕事の依頼が来ることもあって、そういった時は本当にうれしいです。『サイレントヒル』のコミックのカバーも同じような流れで依頼を受けました。

――『パドルの子』(虻川枕著・ポプラ社)の装丁を描かれていますが、あれが日本では初めての装丁の仕事ですか?

初めてです。あの仕事は、画集を見てくれた編集者さんからの依頼でした。デザイナーさんからラフを貰って、横長の表1から表4につながる作品を描きました。私としては、もっと人物を大きく描きたかったのですが、装丁には作品の雰囲気や世界観を見た人に伝えるというもっとも大事な役割があるので、結果的にこのデザインでよかったと思います。水の中を描くのもとても楽しかったです。

――これからチャレンジしたい仕事はありますか?

CDジャケットは形がスクエアですから、私にぴったりな仕事だと思うので、ぜひ描いてみたいです。もちろん装丁の仕事もこれからどんどんしていきたいです。ほかにも広告やミュージックビデオに挑戦したいと考えています。ロシアではアニメーションの監督もしていたので、もっと勉強して、将来的にはアニメーション制作にも挑戦していきたいです。

イリヤさんの作業スペース。現在は液晶タブレットで制作を行なっている。
アトリエの本棚にギッシリつまった資料。作品集やハウツー関係の書籍も多い。

 

 

〈プロフィール〉

イリヤ・クブシノブ

ロシア出身のイラストレーター。現在は日本で活動中。TwitterやInstagramなどでオリジナル作品やファンアートを発表し、注目を集める。2016年には初の画集『MOMENTARY』(パイ インターナショナル)を出版。


本記事は『イラストレーション』No.216の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。

 

イリヤ・クブシノブさんを30ページ以上にわたり特集した、イラストレーションNo.216はこちらからご購入いただけます。

 

 


関連記事