みなはむさん初の絵本『よるにおばけと』発売! 刊行記念インタビュー

イラストレーターのみなはむさんの初となる絵本『よるにおばけと』(ミシマ社)が、10月15日に店頭先行発売された。ネット書店等一般発売日は10月21日。少女が「おばけ」と出かける夜の不思議な冒険を、リアルと幻想の狭間で鮮やかに描き出している。

発売に合わせて全国で原画展も予定されているほか、パネル展を開催している書店で絵本を購入すると、うれしいおまけも付いてくる(数量限定)。絵本は銀座蔦屋書店で10月31日まで開催の企画展「夏の出口、冬の入り口」においても購入可能。

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今回、絵本の発売を記念し、みなはむさんにインタビューを行った。近年、書籍装画や作品集の刊行など、国内外問わず活躍の幅を広げるみなはむさん。初めての絵本作りへの挑戦を経て、普段の制作との違いや、本作の見どころなどを振り返り語っていただいた。

 


──絵本の依頼のきっかけについて、教えてください。

本作の編集者の筒井さんが、絵本を一緒に作りませんかというメールをくださいました。

2020年に大阪・北浜にあるFOLK old book storeで行った個展で原画を購入していただいたりと、私の作品を気にかけてくださっていたようで、私はちょうど筒井さんの担当した絵本をたまたま当時読んでいたこともあり、なんて素敵な機会なんだろうと思いお受けしました。

 

──初めての絵本制作で苦労したことはなんでしょうか。また、普段イラストレーションを描かれる時と考え方や進め方の違いはありましたか?

私は漫画や小説やアニメや絵本もそうですが物語のある作品を普段は作りません。読む(見る)のは大好きですが作ることはとても苦手で、どちらかというと物語の中の場面をいいとこ取りしたような1枚絵を描いています。そのため、物語をつくる、ということが目の前に現れ、それを乗り越えられるかが不安でした。少女とおばけの話を考える前に別の話を考えていましたが、それは物語を作るという意識が強すぎたのかうまくいきませんでした。作るという思いこみを捨てて、じゃあどうすればと思った時に心の中に残っていたのがこのおばけと少女のイメージです。描きたいなと思い付いたおばけと少女のいる場面を連作のような感じで並べて、そこから筒井さんに助けてもらいながらお話になるようつなげていきました。

絵本のために描いた絵自体は、普段の制作とは変わりなかったですが、それは自分の中に最後に取り残された描きたいものを今回描かせてもらえたからだと思います。

 

 

──「おばけ」はこれまでのみなはむさんの創作物の中にもたびたび登場しますが、どのような経緯で出来たキャラクターなのでしょうか?

「おばけ」は、辛い時に寄り添ってくれる他者のイメージです。私自身が苦境にあった時に描くことを思い付きました。1人で不安や孤独を感じる時に誰かにいて欲しいけど、その相手の属性があると表現に余計な情報が加わるので明らかにしたくない、そういう絵を描く時に用いるようになりました。ほかに女の子と男の子、男の子2人の絵をよく描きますが、それらの組み合わせでは表せない関係性がおばけと少女にはあります。

私の絵に「おばけ」が出てくる時は、どこかに連れてかれてしまうというネガティブなイメージではなく、むしろ何も言わずにそこにいてくれて、進む決心をした時に本当に行きたい場所へ導いてくれるような存在として描いています。

 

 

──みなはむさんの描かれる絵は、大胆な筆致・ファンタジックな構図でありながら、見ていると自分がそこにいるかのようなリアルな空気感を感じるのが魅力であると考えますが、どのようにしていまの作風を確立されたのでしょうか? また、影響を受けたものがあればぜひ教えてください。

好きなものを表現したいという思いでずっと一心不乱に描き続けてきていまのところこうなった…という感じです。子どもの頃から絵を描くのが好きで、中高生の頃までは好きな作品のファンアートを描いて友だちと楽しんでいました。美大に進学し、自分の絵を描くということになった時に、ファンアートを描いていた作品たちのどこに惹かれていたのかは自分にとって重要なヒントでした。

中学生の時に出会ったゲームの『ゆめにっき』、『サイレントヒル』シリーズの自己内省的な表現であったり、『ポケットモンスター』シリーズからは、絵柄から世界観に渡って大きな影響を受けました。また、子どもの頃はりぼんっ子だったので、人間の絵の描き方の出発点は少女漫画で、なかでも種村有菜先生の絵をよく模写していました。

記号的に省略されたアニメ・マンガ風の絵はずっと描きたいと思いつつも絵画を制作しなければならないという環境の中で、自分が何が好きでどう表現したいのかをその中から見付け出し、見たいイメージが現実の形になるようとにかく手を動かしてきた結果、いまの表現に続くかたちに落ち着いていったのだと思います。でもまた今後もその時々描きたいもののために変化していけたら理想的です。

 

 

──本作の見どころ、制作にあたってのこだわりを教えてください。

おばけと女の子が、不安な道のりを乗り越えて辿り着いた先にある「きらきら」はきっと読む人によっていろんな解釈ができるような内容になってると思います。また「おばけ」はイマジナリーフレンドのようにも見えますが、「おばけ」と女の子は一緒に住んでるそういう世界なのかもしれません。自分が普段描いてる絵と同じように、読み手にこれは何なのか自由に想像したり、別のことに重ねたりして欲しいと思っています。

 

──今後挑戦していきたいことはありますか?

今回は絵本という形で人の手を借りて物語に到達出来ましたが、何か別の方法でも物語を楽しめるようなものがいつか作れたら……とずっと考えています。ほかには、粘土や陶芸で立体物をたくさん作りたいです。

 

 

<プロフィール>

みなはむ/1995年生まれ。東京都在住。武蔵野美術大学日本画学科卒業。在学中から絵画を展示するなどの活動を続けるほか、装画を中心にイラスト・絵画の制作依頼を受ける。装画の仕事に『美しいからだよ』(思潮社)、『不可逆少年』(講談社)、『ここではない、どこか遠くへ』(小峰書店)など。

 


『よるにおばけと』(ミシマ社)

 

 


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