日々刊行されるたくさんの書籍のなかから、イラストレーション編集部がおすすめする7冊を紹介します。
遠出の難しいいま、本をとおしてさまざまな世界を冒険してみるのはいかがでしょうか?絵本や漫画、画集などさまざまなジャンルから、お気に入りの1冊を見つけてみてください。
『戦争が町にやってくる』
ロマナ・ロマニーシン+アンドリー・レシヴ 作 金原瑞人 訳
(ブロンズ新社)1,600円+税 装丁:小熊千佳子
空気は澄みわたり、花もが歌う美しい町ロンドには心優しく素敵な住人たちが平和に暮らしていました。そんな町に突然「戦争」がやってきます。住人の中でも特にこの町を愛する仲よしのダーンカ、ファビヤン、ジールカは懸命に対話を試みたり、相手のやり方に応えたりしますが、一向に戦争は止まりません。そんな破壊と混乱と暗闇の中で訪れた大好きな温室でダーンカはあることに気付き……。ウクライナを拠点に活動するアートユニットAgrafkaの2人は以前本誌インタビューの際に、2015年刊行のこの絵本を「2014年に始まったロシアのクリミア侵攻とウクライナ東部の戦争に対する、素直な感情の反応です。」(聞き手・翻訳:広松由希子)と語ってくれました。そして、今年再びロシアのウクライナ侵攻が始まり、本書が緊急出版されました。私たちは何をすればいいのか、一体何が正しいのか、次々と湧き上がる悩みはもちろん簡単には解決しません。でも、この悲しくも真摯に描かれた美しい絵の希望ある物語を読み、想像し、対話することが無駄ではないと信じることは平和への一歩となるのではないでしょうか。
『おとしより パリジェンヌが旅した懐かしい日本』
イザベル・ボワノ 著 トリコロル・パリ 訳
(パイ インターナショナル)1,600円+税 日本語版装丁+DTP:小松洋子
フランスのイラストレーターイザベル・ボワノさんが自分の足で歩き、さまざまな場所で見詰めた日本のお年寄りたちの姿が鮮やかな絵と短いながらも熱っぽい文章で綴られています。「大好きな日本へ宛てた私からのラブレターです」と率直に語る彼女の溢れる愛は、日本で長く暮らす人にとっては少し気恥ずかく感じるかもしれません。でも、彼女が描き出した人や場所からきっと新たな視点を発見し、もっとその魅力を味わってみたくなるはずです。
『世界のふしぎな色の名前』
城一夫+カラーデザイン研究会 著
(グラフィック社)1,800円+税 D:中村妙
日頃何気なく認識している「色」ですが、本書では「霧につつまれた恋」「犬神人色」「クレオパトラ」など、聞き慣れないふしぎな名前の色が166も紹介されます。耳にしただけでは想像出来ない色もkilldiscoさんの軽やかでかわいい挿絵と、色に対する愛と知識が溢れんばかりに詰まった城さんとカラーデザイン研究会の方々の文章を読めば、その面白さを誰かと分かち合いたくなるでしょう。古来より続く人間の色に対する憧れと希求が感じられる1冊。
『たむらしげる作品集』
たむらしげる 著
(玄光社)4,500円+税 D:尾崎行欧+宗藤朱音(尾崎行欧デザイン事務所)
パッケージデザイナーからキャリアをスタートし、マンガや絵本、イラストレーション、アニメーションなどさまざまな表現方法、媒体で活躍を続けるたむらしげるさんの『ファンタスマゴリア』(架空社)以来、約30年ぶり待望の作品集。B5判にコデックス装、表紙の箔押し、作品によって用紙を使い分けるなど、たむらさんの描く心地いい広々とした空間を味わうのにぴったりな贅沢仕様です。充実の240P、これまで未公開だった貴重な作品群も必見。
『まあるいほしのはなし』
さかたきよこ 著
(888ブックス)3,500円+税〈通常盤〉4,500円+税〈蔵書票付・特装版〉*下写真 装丁:サイトヲヒデユキ
画家のさかたきよこさんが長年温めてきた絵本の主人公は、名もない「まあるいほし」。いくひゃくねん、いくせんねん……ページをめくるごとに、人間の身からは想像も付かないような時間が流れ、まあるいほしは自分の身に起こることをまっさらな心で1つずつ味わい、旅を続けます。丁寧に描かれた繊細な絵とこの物語を十全に掬い取った造本を存分に味わい、ほしと一緒に長い長い時間に思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。
『あげる』
はらぺこめがね 著
(佼成出版社)1,300円+税 装丁:タカハシデザイン室
夫婦イラストユニット・はらぺこめがねが手がけた新作絵本は、『かける』に続く、シリーズ2作目『あげる』。その名のとおり、エビフライにトンカツ、コロッケ、かき揚げなど、こんがり揚がった食べ物がページいっぱいに描かれています。食欲を強く掻き立てる“シズル感”の表現は、描くことと食べることが大好きな2人の得意技。絵本から聞こえる「カラッ」「サクッ」「ジュワー」の響きは、きっと全人類を魅了してやみません。
▶︎『あげる』
『ちゃぷちゃぷ ぷーん』
得田之久 文 及川賢治 絵
(福音館書店)800円+税
1頭のゾウ、2頭のクマ、3匹のブタ……。ページが進むごとに、数が増えていく動物や昆虫たち。彼らはリズミカルで愉快な擬音と共に、相撲や鬼ごっこなど、それぞれに楽しい遊びを繰り広げます。さまざまな生き物をカラフルに描き出したのは、100%ORANGEの及川賢治さん。賑やかさと洒脱さが同居する画面は、どこか古い海外絵本のような趣もあり、小さなお子さんはもちろん、大人たちの心も弾ませます。
本記事は『イラストレーション』No.235の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
「イラストレーションとマンガ」を特集する『illustration』No.235。領域を行き来しながら活動する、カシワイさん、山本美希さん、ながしまひろみさん、中村一般さん、嶽まいこさんを紹介しています。