『illustration FILE 2021』巻頭企画「イラストレーターに聞く“5つの質問”」。そこには、イラストレーターのみなさんの実感を伴った言葉が多数掲載されています。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、混乱が日常となっていった2021年。イラストレーターの方々は何を考え、感じ、どのように絵と向き合っていたのでしょうか?
本記事では、掲載された方々の中から編集部が12名をピックアップし、当時の回答をそのまま紹介します。第6回目に登場するのは、鮮やかな色使いで風景や人物を描き、書籍や広告などで活躍する田中寛崇さんです。
(連載のまとめはこちらから)
田中寛崇
1986年生まれ。多摩美術大学情報デザイン科卒業後、フリーのイラストレーターとして活動。主な仕事として、書籍装画、CDアートワーク、広告やウェブのキービジュアルなどを手がけている。
ウェブサイト:http://gomnaga.org
Q1
“イラストレーション”という言葉が多様化する昨今、今後のイラストレーターとしての方向性やイラストレーションの可能性をどのように考え、活動していますか?
特に“イラスト”という言葉の意味は確かに多様性を増し、ある意味ではイラストレーションからは分離したような捉えどころのない、定義が難しい言葉になっていますが、イラストレーターという職業を名乗ることについては未だに一定の閾値が存在するように思います。同時に、多様性を増したことで人口の絶対数が増し、非常に多くの新しいイラストレーターが高い実力を持って参入出来ているように感じています。私もイラストレーターになってからすでに10年ですが、今後も自分の表現を大切にしていくと共に、 変化が著しい時代がまだまだ続くはずなので、慢心して取り残されることのないように新しい表現や流行、技術へのアンテナは高く持つようにしています。また、イラストレーションを学べる学校や機関が増えましたが、学問とするならば定義化は必須と考えます。今はそれが難しいと前述しましたが、いずれイラストレーションという言葉の再定義化が起こるのでは、などと想像しています。
Q2
仕事や自主制作の時に使用する画材や紙、デバイス、ソフトウェアはどういったものですか?
Mac min(i Late 2020)OS X(10.11.6)、Wacom Cintiq 27QHD、CLIP STUDIO PRO、Photoshop CC。ラフスケッチにiPad Pro+Procreateを使うこともあり ます。展覧会では印刷後、アクリルフォトパネルに加工して展示しています。
Q3
COVID-19の影響による生活や仕事の変化はどのようなものでしたか?
作品を描く際のインスピレーションやアイデア、作画資料を得るためにはいろいろなところへ赴き写真撮影等での取材が必要不可欠なのですが、コロナ禍以降公共交通機関を使っての取材がしにくくなってしまいました。 そのため、フットワークを失わないように車を購入し、むしろさらに軽くなるように変化させました。お陰で作品制作や仕事においてはコロナ禍以前とほとんど変わらないやり方で出来ています。
Q4
絵を描く時の思考や技術の礎、実作業の時の着想源や資料として利用するものはどんなものですか? また、2020年印象に残ったものは?
色彩、画面構成、構図を判断する際の根本になっているのは、美大の受験対策でやっていた色彩構成です。あれから15年以上が経ちますが、未だにあの基礎訓練が自分の中の大きな柱です。着想源についてはなるべくイラストレーション以外から得るようにしています。もともと趣味が多いのが役に立っています。2020年に触れた中で特に印象深かったのは、書籍『スポメニック 旧ユーゴスラヴィアの巨大建造物 』(グラフィック社)、 ゲームトレイラ ー「 APEX Legends Season 2 – Battle Charge Launch Trailer」、MV「dambena」(どんぐりず)、「Easy Breezy」(chelmico)。
Q5
仕事上で気を付けていること、知っていてよかったこと、今後身に付けたい技術や知識はありますか?
よく知っているモチーフでも、作画のミスをなくすために必ず資料を用意するようにしています。また、独学で3DCGを扱えるようになったことで、作画のベースに用いることが出来、効率が上がりました。今後は表現の角度をもっと上げられるように、さらなる3D技術の習得と、簡単な映像表現も出来るようになりたいと考えています。
※本記事は『illustration FILE 2021 下巻』の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。