日本を代表するイラストレーター、グラフィックデザイナー・宇野亞喜良さんの個展「宇野亞喜良展 AQUIRAX UNO」が、初台の東京オペラシティ アートギャラリーで2024年4月11日(木)からスタートした。会期は6月16日(日)まで。
1960年代の日本において「イラストレーション」「イラストレーター」という言葉を広め、時代を牽引してきた宇野さん。本展は900点を超える作品群によって、膨大な宇野さんの仕事の全貌を紹介する、過去最大規模の展覧会だ。会場では、ジャンルごとに分かれた12のトピックで、宇野さんがこれまで手がけた仕事を紹介している。
1 プロローグ 名古屋時代
会場に入るとすぐに、作品が所狭しと並ぶ光景が目に入る。ここでは、宇野さんの学生時代の自画像やスケッチ、クロッキーなど、創作初期の貴重な作品が紹介されている。すでにデザイナー・イラストレーターとしての才を感じさせる、若き日の宇野さんの表現力に驚かされる。
2 グラフィクデザイナー 宇野亞喜良
宇野さんは1955年に上京し、カルピス食品工業に入社。配属された広告課にて、新聞広告やパッケージなどを制作した。イラストレーション、デザイン、そしてコピーまで宇野さんが手がけたという、当時の貴重な仕事の数々が並ぶ。
3 企業広告
デザイナーという言葉が一般に認知されるようになった1960年代、宇野さんは数々の広告制作の現場に身を置くことになる。カルピス食品工業を退社後は日本デザインセンターに入社し、国策パルプ工業のカレンダーや小川香料のPR誌など、幅広い企業広告を手がけた。その中でも注目したいのが、化粧品会社「マックスファクター」の写真広告シリーズ。1965年に立ち上げた「スタジオRe」で、写真家・藤井秀さんやコピーライター・石崎淳子さんと共に制作した、写真とイラストレーションを融合させた優雅な広告が会場を彩る。
4 新聞・雑誌
多彩なジャンルで活躍する宇野さんが、これまで最も長期にわたって携わったのが新聞・雑誌の仕事だ。『新婦人』(文化実業社)では、写真家・鈴木恒夫さんとタッグを組んで、6年にわたってその表紙を担当した。そこには、実写とイラストレーションがシンクロする、斬新で洗練された世界が展開されている。
5 書籍
グラフィックデザイナー出身の宇野さんにとって、書籍の仕事は、デザインとイラストレーション双方の独創性を発揮出来る場と言える。宇野さんは日本デザインセンターを退社した後、横尾忠則さん、原田維夫さんと「スタジオイルフイル」設立。自らアートディレクションを務めた『フォア・レディース』(新書館)や多くの小説挿絵、カバー画原画などが紹介されている。
6 絵本・児童書
宇野さんはこれまでに70冊もの絵本を手がけ、数多くの児童書にも携わっている。児童文学作家・今江祥智さんとタッグを組んだ官能的な絵本『あのこ』(BL出版)などで「大人の絵本」の可能性を広げる一方、温和な仕上がりの『てんぐちゃん』(今江祥智 作/偕成社)や、初の時代物絵本『ぼくはへいたろう』(小沢正 作/福音館書店)なども制作した。題材によって自由自在に操られる画風は、宇野さんの圧倒的な画力と表現力があってこそなせる技だ。
7 アニメーション映画
宇野さんが手がけるメディアはさらに多岐にわたる。会場では、久里洋二さん、真鍋博さん、柳原良平さんがメンバーの「アニメーション三人の会」から依頼を受け制作した、「白い祭」「お前とわたし」「午砲(ドン)」の3本のアニメーション映画が上映されている。
8 版画集・作品集
1970年代から80年代にかけて、過去の様式を求めるクライアントの仕事に辟易し、制作活動をセーブしていた宇野さんは、自分の表現スタイルを改めて見直すための版画集や作品集を出版した。ここではデザイナーの宮永磐夫さん、写真家の細江英公さん、コピーライターの宗内順子さん、女優の江波杏子さんという当時の新進クリエーターと共同制作した『ONDINE』(玄光社)や、作品集『宇野亞喜良 マスカレード』(美術出版社)の表紙、巻頭、裏表紙の連作などを見ることが出来る。
9 ポスター
本展の中でも特に圧巻なのが、空間を贅沢に使い、1960年代の初期から現在に至るまで宇野さんが手がけた華やかなポスターが一堂に展示されているコーナーだ。一部のポスター原画も展示されているほか、蛍光塗料が施されたポスターをブラックライトの光で鑑賞出来る一角もある。宇野さんの豊富な印刷知識と描写力よって生み出された、耽美な世界観のポスター1枚1枚には、見惚れてつい時間を忘れてしまうような魅力がある。
10 舞台美術
また今回の展示の見どころの1つでもあるのが、「舞台美術」を紹介する空間だ。これまではなかなか見ることが出来なかった、宇野さんが描いた舞台や衣装デザインの原画、大道具や小道具、衣装などがまとまった形で展示されている。これまで平面的に見ていた宇野さんの世界に入りこんだような、なんとも魅力的な空間だ。
11 絵画・立体作品
1987年の個展を機に展示空間を作る面白さを実感した宇野さんは、現在に至るまで毎回展示のテーマを決めて個展を開催している。クライアントワークとは違い、制約のないオリジナル絵画作品や立体作品では、より自由な宇野ワールドを楽しめる。
12 近作・新作
近作・新作コーナーでは、近年描き続けている俳句シリーズのほか、SHAKALABBITS、BUCK-TICK、椎名林檎ら音楽アーティストのポスターやグッズ、資生堂「マジョリカ マジョルカ」の似顔絵ジェネレーター「マジョリ画」(2016年)など、世代やジャンルを問わず、さまざまなクリエイターや企業と活発にコラボレーションした仕事が原画と共に紹介されている。
半世紀以上にわたって第一線で活躍してきた、生きるレジェンド・宇野亞喜良さん。その創作の勢いは止まるところを知らず、90歳を迎えたいまも宇野さんは進化を続けている。青年期から現在まで、宇野さんの活動の全貌を知ることが出来る貴重な機会に、ぜひ足を運んでみてほしい。
「宇野亞喜良展 AQUIRAX UNO」
会期:2024年4月11日(木)〜6月16日(日) *月休(祝休日の場合翌火休)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
住所:東京都新宿区西新宿3-20-2
時間:11:00〜19:00 *入場は18:30まで
入場料:一般 1,400(1,200)円 /大・高生800(600)円/中学生以下無料
*()内は各種割引料金。障害者手帳をお持ちの方および付添1名は無料。割引の併用および入場料
の払い戻しは出来ません。
Webサイト:https://www.operacity.jp/ag/exh273
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