イラストレーション編集部が、近年力を入れて取り組んでいる、イラストレーターや絵本作家の方々の複製原画。編集部ではこれまでに、たむらしげるさん、イケガミヨリユキさん、石黒亜矢子さんなど、多くの作家の方々と共に、作品を制作・販売してきた。ひと口に「複製原画」と言ってもさまざまなクオリティのものがあるが、編集部が制作する複製原画は、印刷業界大手・TOPPANの協力を得て実現した高精細なアートプリント「プリマグラフィ」(*)だ。
(*)「プリマグラフィ」はTOPPAN株式会社の登録商標
そもそも「プリマグラフィ」とは何なのか。一般的な「ジークレー」とは何が違うのか。複製原画制作のパートナーでもあり、2000年から「プリマグラフィ」に携わる、TOPPANのプリンティングディレクター小島勉(こじま・つとむ)さんにその魅力について話を聞いた。
まずは「ジークレー」とは何か、からおさらいしておきたい。「ジークレー」とは、インクジェットプリントの技術を使って作られたアートプリントの呼称。「吹き付ける」という意味のフランス語で、インクジェット印刷がインクを吹き付ける技術であることからそう名付けられた。インクジェットによるアートプリントの始まりは1980年代のアメリカと言われ、ミュージシャンでフォトグラファーのグラハム・ナッシュが上梓した『Nash Editions』でその技術が紹介されているという。
TOPPANが手がける「プリマグラフィ」も、インクジェットプリンタを用いたアートプリントのことを意味する。では、TOPPANの登録商標でもある「プリマグラフィ」と、「ジークレー」では、一体何が違うのだろう。
「実は、インクジェットプリンタを使って制作された作品という意味では、違いはないと思います。使用している機器は、どれも大きくは変わらない。ただ『プリマグラフィ』は、ジークレーの技術に、TOPPANの製版と印刷のテクニカルなノウハウを合わせたもの。機器を使いこなす能力や絵を読み取る力、作家さんと対話しそのニーズをどう紙に落としこんでいくかという洞察力は、長年の経験で培われたものがあると思っています」(小島さん)
小島さんは、入社後から高品質な印刷物の画像処理に携わり、「プリマグラフィ」のプロジェクトがスタートした2000年から現在に至るまで、この道を極めてきたプロフェッショナルだ。これまで多くの作家と作品制作に取り組み、さまざまな経験をしてきた小島さんの精細なディレクションこそが「プリマグラフィ」の最大の魅力と言える。
プロジェクトがスタートしてから25年。「プリマグラフィ」を取り巻く状況は、少しずつ変わってきていると小島さんは話す。
「プリマグラフィがスタートした当初、オフセット印刷(*)全盛の中でインクジェットはなかなか理解されにくい状況でした。私自身、プリマグラフィに携わるまではそのような認識でしたので仕方ないですね。ただ、一緒に取り組んできた作家の方々は、そんな認識などはまったく関係なく、完成した作品を純粋にクオリティだけで判断し、その出来を喜んでくれたんです。いまはデジタルで制作される作家さんも多く、そういう方たちのオリジナルはデータですが、プリマグラフィでの複製は“もう1つのオリジナル”という新たな価値になるかもしれないと期待しています」(小島さん)
(*)オフセット印刷……シアン・マゼンタ・イエロー・ブラック各色の版を出力し印刷を行う方式。新聞や出版物などの印刷物に用いられる。
実は「複製原画」という言葉を使ったのもTOPPANが最初だそうで、その魅力はゆっくりと時間をかけて世間に浸透し、着実に裾野を広げている。
信頼出来るパートナーとの協業の下に実現される、イラストレーション編集部の複製原画。今後も、魅力的な作品の制作、販売がいくつも予定されている。絵そのものの素晴らしさはもちろんのこと、そのよさを最大限に引き出すプロフェッショナルの真摯な仕事にもぜひ注目して欲しい。
〈プロフィール〉
小島勉(こじま・つとむ)/TOPPAN株式会社クリエイティブ本部ビジュアルクリエイティブ部に出向中。商業印刷物の画像修正(レスポンス)を経て、2000年よりプリマグラフィを担当し現在に至る。イラストレーション、写真、文化財などさまざまな作品を手がける。
イラストレーション公式オンラインストア:https://illustmag.base.shop