イラストレーターに聞く“5つの質問” 第1回 市村譲さん

『illustration FILE 2022』巻頭企画「イラストレーターに聞く“5つの質問”」。そこには、イラストレーターのみなさんの実感を伴った言葉が多数掲載されています。新型コロナウイルスの影響が色濃く残っていた2022年。日常の在り方が刻一刻と変わっていく中で、イラストレーターの方々は何を考え、感じ、どのように絵と向き合っていたのでしょうか?

本記事では、掲載された方々の中から編集部が12名をピックアップし、当時の回答をそのまま紹介します。第1回目に登場するのは、シンプルな線でユーモアたっぷりにモチーフを描き、書籍装画などを中心に活躍されている市村譲さんです。

(連載のまとめはこちらから)

 


市村譲

1986年生まれ。書籍、雑誌を中心に幅広く活動中。ユーモアとアイデアのあるコンセプチュアルなイラストレーションを得意としています。案出しのご相談から承っています。どんなイラストレーションにするかお悩みの際もお気軽にお問い合わせください。

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Q1

「イラストレーション」という言葉の持つ意味合いが多様化する昨今、イラストレーターの仕事をどう捉えていますか? また、イラストレーションに感じる希望や可能性、ご自身が力を入れていることは何ですか?

私がイラストレーションを描く時にカを入れているのは「比喩表現」です。伝えたいメッセージを何か別のモチーフや状況に喩えて表現するのですが、これには自分なりの解釈を持つことと、それを軽やかに見せるユーモアセンスが必要だと考えています。アイデア出しに苦労することが多いですが、突飛なモチーフとテーマがバチっとはまった絵が描けた時はとても気持ちがいいです。最近は、社会問題や新たな価値観を扱う仕事でこうした表現が求められることが多い気がしており、見る人に思考を促したり、関心の間口を広げるイラストレーションは変化の著しい現代において、さらに必要とされてくるのでは、と感じています。

 

Q2

仕事や自主制作の時に使用する画材や紙、デバイス、ソフトウェアはどういったものですか?

線画の場合は主線をアナログで描き、スキャンしてiPadで調整、着彩などをして仕上げます。色面で描く場合はiPadですべて仕上げます。鉛筆とコピー用紙で案出し、ラフはiPadで制作。展覧会では、画材はその時によってまちまちなのですが、すべてアナログで制作します。

 

Q3

新型コロナウイルスによる日常生活や仕事の変化、影響はありましたか?

ほとんどがオンラインでの打ち合わせになったことで、たまの対面の打ち合わせが楽しみになりました。デザイン事務所や大きなビルに伺うのは、家にこもりがちな日常の中ではちょっとしたアドベンチャーですし、仕事以外の雑談が生まれるのも対面ならではの楽しみだと思います……。ただ人恋しいのだけなのかもしれませんが(笑)。

 

Q4

絵を描くときの思考や技術の礎、実作業の時の着想源や資料として利用するものはどんなものですか? また、2021年印象に残ったものは?

昔の(70年代くらいまで?)のアメリカやヨーロッパのイラストレーターから影響を受けています。タッチだけでなく、イラストレーションに対する思考にしびれます。知的で哲学があって、それでいて品よく軽妙に見せる技術は本当にすごい。かっこいい作品に出会ったら、なるべくそのイラストレーターの画集を買うようにしています。ネット上に載っていない作品に触れられますし、一連の作品として見ることで、作り手の考え方まで感じられるので。昨年末、ギンザ・グラフィック・ギャラリーで大好きなソール・スタインバーグの展示が見られたのはうれしかったです。

 

Q5

実際に仕事をする上で気をつけていること、知っていてよかったこと、今後身に付けたい技術や知識は?

絵がいいことが前提ですが、コミュニケーション能力も新たな仕事に繋がる大事な能力だと思います。もともと接客業をしていたので、その経験が打ち合わせや売り込み時に役立っているな、と感じることが多いです。また、クライアントと信頼関係が築けていると、作品も自然とのびのびとしたいいものが出てくる気がします。

 


※本記事は『illustration FILE 2022』上巻の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

『illustration FILE 2022 上巻』(玄光社)


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