『illustration FILE 2020』の巻頭企画「イラストレーターに聞く“5つの質問”」。そこには、イラストレーターのみなさんの実感の伴った言葉が多数掲載されています。COVID-19の感染拡大によって、さまざまな変化があった2020年。イラストレーターの方々は何を考え、感じ、どのように絵を描いていたのでしょうか?
本記事では、掲載された方々の中から編集部が12名をピックアップし、当時の回答をそのまま紹介します。第11回に登場するのは、書籍や音楽関連のイラストレーションも多く手がける柳智之さんです。
(連載のまとめはこちらから)
柳智之
1984年生まれ。08年桑沢デザイン研究所卒業。卒業と同時にフリーとして活動を始める。08年桑沢最優秀新人賞。10年HBファイルコンペ鈴木成一賞。13年東京装画賞金賞。
Web:http://www.yanagitomoyuki.com
Q1
2020年代のイラストレーションの変容や拡張、 イラストレーターとしての在り方の変化を感じますか? または、現在具体的に自身の活動で力を入れていることは?
絵を描く行為自体に大きな変化はないかもしれませんが、メディアは大きく変化すると思います。たとえば紙媒体は減り、Webなどがより増えるでしょうし、その次のステップももちろんあるはずです(何かはわかりません)。興味の扉は全方位的に広げた方がいいと思いますが、時代を先読みして打算的に絵を描くよりかは個々人の理想に近づく努力の方が大事だと考えています。
Q2
仕事や自主制作の時に使用する画材や紙、デバイス、ソフトウェアはどういったものですか?
基本的にアクリル絵具、水彩、墨、Illustrator、Photoshopを中心に使っています。勢いと即興性を必要とする絵の場合(たとえば線画など)、ラフを抜かしてもらうことが多く、これはラフのイメージに縛られてしまうこともあるからです。その場合は締切を早めに設定します。
Q3
イラストレーションや絵画、デザイン、写真、映像などの視覚表現で、2019年印象に残ったものは?
ビリー・アイリッシュのMVやライブのビジュアルです。音楽や映像が飛び抜けて刺さったわけではありません。ややグロテスクな表現がポップに移行したことに注目したいと思いました。それが目新しいわけではなく、たとえばArcaというミュージシャンはより過激な表現をしています(MVはジェシー・カンダが担当)。ただ彼の場合、好事家の熱烈な支持を受けている印象です。一方、ビリーの大衆からの支持はただごとでなく今年のグラミーでは女性初の主要4部門を受賞。こういった現象に時代の空気の移り変わりを感じて驚きました(マイケル・ジャクソンのスリラーはほかの要素があまりに多く例外)。
*編集部注:2019年デビュー当時の印象について書かれた文です。
Q4
絵を描く時の思考や技術の礎、実作業の時の着想源や資料として利用するものはどんなものですか?
映画、本、美術館の絵からトイレの落書きまで影響は受けていますが、一番は音楽です。音楽は抽象的なものなので絵を描く行為にちょうどよい塩梅の影響を与えてくれます。他人の絵画に安易に影響を受けると模倣になりますが、音楽は自分のなかに新しいイメージを自然に作ってくれます。実際の資料としては、インターネットをよく使います。たとえば画像検索でたくさんのフクロウをじっくり見て、その後見ないで描いたりします。
Q5
仕事をするなかで気をつけていること、知っていてよかったこと、今後身につけたい技術や知識は?
上手く描こうとするよりは衝動を優先するよう心がけています。衝動も技術になれば次第に退屈に変わってしまうので気をつけどころです。今後身につけたい、というより遊びでやってみたいのは、VRなどを使って立体の絵を描くこと。10年以内にはこういう技術で革新的で面白いことをやる人が出てくる気がしています(実際はVRを使ったことすらないのですが……)。
※本記事は『illustration FILE 2020 下巻』の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。