編集部がおすすめする、いま読みたい7冊

 

信じられないほどの暑さに、出かける予定もついつい先延ばしになりがちな今日この頃。うだるような暑さの中では、涼しい部屋の中でゆっくりと過ごす時間のありがたみが一層しみじみと感じられます。夏休みに入った方もそうでない方も、暑い日のちょっとした空き時間に、アイスや冷たい飲み物をお供に本を開いてみてはいかがでしょうか。

今回はインパクトのある漫画や絵本など、個性豊かな7冊をご紹介します。新たな1冊との出会いをぜひ探してみてください。

 


『ネオ万葉』

横山裕一 著

(パイ インターナショナル) 2,700円+税 装丁:原条令子(原条令子デザイン室)

まずホログラムの瞳のきらめきに目を奪われてしまう本書は、「万葉集」「古今和歌集」などから選出した173首を題材とした描き下ろし漫画全22作を収録する250ページ超えの超大作。題材が古典でも、ミステリアスなキャラクターたちと怒涛の擬音が空間を飛び交う横山裕一さんワールドは健在でした。恋人や親族に向けたもの、死や寂寥感を前面に感じるものは避け、歌の背景にある感情などはあえて無視(!)して、字面の意味のみを抽出して描いたという作品群は、次々とこれまでに見たことのない圧倒的な情景を読者の眼前に突き付けます。遥か昔に授業で触れて以来という方も、ぜひ横山さんの新解釈で古典和歌に出会い直してみませんか? きっと、予想外の面白さの連続に夢中になってしまうはずです。

▶︎『ネオ万葉』

 


『VIKTOR(ヴィクトール)』

ジャック&リース 作 野坂悦子 訳

(求龍堂) 3,000円+税 D:近藤正之(求龍堂)

ベルギーに暮らすクリエイティブデュオ「ジャック&リース」の初邦訳絵本は、世界7カ国で出版された話題作。狩り好きの主人公・ヴィクトールは長年狙っていた獲物をしとめるものの、仲間の不在に悲しむチーターたちの夢を見て改心するのですが、予想外でいて、身につまされるラストが待ち受けており、身近な誰かと密かに分かち合いたくなります。スタイリッシュでクールな印象もありつつ、温度が伝わるような色気のあるフォルムと色使いの絵に目を奪われ、耽溺してしまう1冊。

▶︎『VIKTOR(ヴィクトール)』

 


『おじいちゃんのくしゃみ』

阿部結 作

(福音館書店) 1,400円+税 装丁:名久井直子

 

作者の祖父との思い出を基に作られた、笑いなしには読めないパワー溢れる絵本です。大きなくしゃみで絵を台なしにされて、大激怒の孫娘。困ったおじいちゃんはりんごに手が届かない時も、猛獣に襲われた時も、雲の上まで行きたい時にも役立つすごいくしゃみだと証明しようとしますが、予想外の事態を引き起こしてしまい……。ユーモアに富んだ場面の魅力はもちろん、「もう おじいちゃんなんてだいきらいよ!」と女の子が怒っている場面でも無性に愛を感じる絵の力たるや、必見です。

▶︎『おじいちゃんのくしゃみ』

 


『水と手と目 豊井祐太(1041uuu)ピクセルアート作品集』

豊井祐太 著

(グラフィック社) 2,300円+税 D:山田和寛+佐々木英子(nipponia)

GIFアニメによるピクセルアート(ドット絵)作品をSNSで発表してきたアーティスト豊井祐太さんの初作品集。ピクセルアートというとレトロゲームなどの印象が強いかもしれませんが、豊井さんは鑑賞者の心を震わせる風景や人、ものの佇まいを繊細に表現し、この領域に大きな影響を与えました。本書は、過去10年の作品を紹介すると共に、制作時期の態度が「状況」「制作」「思考」の側面から作家自身の言葉で語られ、その心の内を流れる創作の水路を垣間見られる貴重な資料となっています。

▶︎『水と手と目 豊井祐太(1041uuu)ピクセルアート作品集』

 


『旅するわたしたち On the Move』

ロマナ・ロマニーシン+アンドリー・レシヴ 作 広松由希子 訳

(ブロンズ新社) 2,200円+税 装丁:永松大剛

 

新型コロナウイルスで移動が制限された2020年に刊行され、翌年韓国・ナミ島主催「ナミコンクール」グリーンアイランド賞などを受賞したアートユニットAgrafka(アグラフカ)の注目作。人類の特徴ともいわれる「旅(移動)」が歴史、生物の進化、科学や文化の発展などの幅広い観点から、壮大なスケールで描き出されます。彼らの万物に注がれる温かな好奇心や想像力も、きっと絶えず旅をしているのでしょう。絵としての魅力とデザインの伝達力が両立しており、子どもも大人も好奇心を掻き立てられる工夫も鮮やかです。

▶︎『旅するわたしたち On the Move』

 


『ノクツドウライオウ——靴ノ往来堂』

佐藤まどか 著

(あすなろ書房) 1,500円+税 装画:中村一般 装丁:中嶋香織

 

100年続く老舗靴店に育った夏希は「シューズデザイナー」を夢見る15歳。5代目候補の兄が突然店を去り、自身が祖父の後を継ぐべきかと悩む真っ只中、クラスの嫌味な男子が職人見習いに立候補してきて……。未知数の可能性を抱え、進路に悩むYA世代へのヒントが散りばめられつつ、端々から作者の職人への尊敬の念と靴への愛も感じられる物語。靴に関する専門用語も登場しますが、物語の空気感まで丹念に描かれた中村一般さんの挿画が、より一層想像を膨らませる手助けになってくれるでしょう。

▶︎『ノクツオウライドウ』

 


『ぷっくり ぽっこり』

中村至男 作

(偕成社) 800円+税

アートディレクター、グラフィックデザイナー中村至男さんの新作は手のひらサイズの赤ちゃん絵本。表紙のまんまる顔の中央には覗くと向こうが見える、これまたまあるい小さな穴が……。ページをめくると、車やくだもの、たこといった子どもたちが大好きないろんな顔が登場します。そして、その穴から指をはみ出させてみると、タイトルどおり「ぷっくり、ぼっこり!」と口に出して、味わってみたくなること間違いなし。五感を通じて、子どもも大人も楽しいコミュニケーションの時間をぜひ。

▶︎『ぷっくり ぽっこり』

 


本記事は『イラストレーション』No.239の内容を本ウェブサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。


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