荒井良二さんが長新太さんに捧げた新作『こどもたちは まっている』。作品にこめられた想いとは?

2020年6月、荒井良二さんによる新作『こどもたちは まっている』が刊行された。この作品は、荒井さんにとって“特別な一冊”である長新太さん作『ちへいせんのみえるところ』へのオマージュだ。荒井さんはどんな想いでこの作品を描いたのだろうか。

荒井さんが長さんの作品と出合ったのは、まだ大学生の頃。当時学生で絵本を買う余裕はあまりなかった荒井さんだが、よく通っていた店で見つけた『ちへいせんのみえるところ』はすぐに購入を決めたという。「手に取ることがなかったら、絵本を作っていなかったと思う」(あとがきより)。出合いの衝撃をそう振り返るほど、この絵本はその後の創作に大きな影響を与えた。

『ちへいせんのみえるところ』は、「でました。」の一言と共に、地平線からいろいろな“何か”が顔を出す絵本。
そして突然現れる、言葉のない”小休止”のページ。(『ちへいせんのみえるところ』より)

今回荒井さんが描き下ろした『こどもたちはまっている』はシンプルな言葉の繰り返しと共に、それぞれ子どもたちが待ち望んでいるシーンが描かれている。窓から見える景色、勢いよく降る雨、テーブルの上のひまわり……。切り取られる情景は、どれも特別なものではない。

ただ、言葉のリズムを感じながら荒井さんの力強く温かい絵に浸れば、当たり前の日常に存在している確かな輝きに気付かされる。そしてページを進めるたび、“毎日の尊さ”を慈しむ気持ちが、見ている者の胸にゆっくりと広がっていく。

雨上がりを待つ子どもたちのシーン。黄色、緑、紫など何色もの色が重なり、雨のしぶきまで感じられる。(『こどもたちは まっている』より)

「いつか、ぼくの『ちへいせんのみえるところ』を描いてみたいと思っていたが、もしかしたら、この「こどもたちはまっている」が、そうなのかもしれない。そして、この本を長さんに捧げたいと思う。」(あとがきより)

いまや国内外で活躍する荒井さんが、敬愛する作家・長さんへの想いをこめた絵本。出来れば2冊を読みくらべてみると、その面白みをより深く味わうことが出来るだろう。

『ちへいせんのみえるところ』と同様、『こどもたちはまっている』にも言葉のない”小休止”のページが。(『こどもたちは まっている』より)

荒井さんの優しく懐の深い作品に、直に触れられる貴重な機会もある。絵本の刊行を記念した原画展が京都で7月4日(土)から開催中、東京では8月24日(月)から開催予定だ。どちらも観覧は事前予約制となるため、来訪の前に必ずギャラリーのWebサイトをチェックしたい。

 

『こどもたちは まっている』(亜紀書房)

『ちへいせんのみえるところ』(ビリケン出版)


荒井良二 絵本原画展「こどもたちはまっている」   <どちらも事前予約制>

【京都】

会場:nowaki

会期:2020年7月4日(土)~7月20日(月) *8・9・15・16は休み

時間:11:00~19:00

Webサイト:https://nowaki3jyo.exblog.jp/240420554

【東京】

会場:MAYA2

会期:2020年8月24日(月)~9月5日(土) *日曜休廊

時間:11:30~19:00(土曜は17:00まで)

Webサイト:https://www.gallery-h-maya.com/schedule/26487


『illustaration』No.224は、50ページにわたる荒井良二さんの特集。過去に描いたスケッチやラフ、未公開の名画の模写など、貴重な資料を数多く掲載している。

 

 


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