40年以上にわたり、イラストレーターの登竜門として『イラストレーション』で開催されているコンペティション「ザ・チョイス」。毎号異なる1人の審査員が、応募作品の中から優秀作品をチョイスすることが特徴です。年4回の全入選作品は年度賞のノミネート作品となり、年度賞の審査は4人の審査員が一堂に会して、投票制で行われます。これまでに数多くのイラストレーターがザ・チョイスから巣立っています。
本記事では、ザ・チョイスに入選された方々に、応募してみて感じたことや、入選後について、インタビューを行いました。第5回に登場するのは、これまでの審査で4度入選し、第40回年度賞審査(2022年度)で優秀賞を獲得した田渕正敏さんです。
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田渕正敏
イラストレーター。書籍、音楽、ファッション、パッケージ等幅広いジャンルのイラストレーションに携わる。
グラフィックデザイナー松田洋和と共に活動体“へきち”を立ち上げ、ディレクションを担うプロジェクトにも積極的に参加している。
Instagram @blue_drybrush
X(Twitter)@hirafude
Q1
ザ・チョイスに応募したきっかけを教えてください。
2020年に個展の準備をする中で、これまでに描いてきたモチーフや描法を見直してみたいという考えが浮かび、同じ画材で異なる作品を生み出せる可能性について考えました。当時はまだ実験的な段階だったので、個展には出品せず、それらの作品は第216回(佐々木俊さんの審査)に応募しました。結果は最終選考でした。
その頃はちょうどコロナ禍の最中で、自身の自宅作業が増え子供も自宅待機している中で、絵を描いたりして生活と仕事と絵が混ざり合っていく感覚がありました。それに伴って描くモチーフや設定に自宅の様子を選ぶようになり、今のようなシリーズが始まりました。
イラストレーターとして10年以上のキャリアがある中で、この変化がどのように受け取られるのかということを試したいと思い、2022年度のザ・チョイスに再び応募しようと決めました。
Q2
ほかのコンペと感じる違いはありますか?
多くのコンペでは審査員の総意という力が強く働くけれども、ザ・チョイスでは審査員と応募者が個で対峙できるという拮抗状態がスリリングだと感じます。個人が審査することで傾向は掴み難い一方で、雑誌の長い歴史の中に「チョイスっぽさ」という潮流が確かに存在していて、その先端部分でイラストレーションについて考えている意識があります。
ザ・チョイスは年間で取り組めるので、読者・審査員に問いかけるような意識で青一色のイラストの作例をゆっくりと重ねていくことが出来ました。仕事では使い難いかなという発想を、イラストレーションとして使用されているイメージが抱きやすくなるところまでコンスタントに制作・応募し続けられるというのも、ほかのコンペにない特徴です。
Q3
ザ・チョイスに入選して変わったことはありますか?
自分の絵に適切なサイズ感を発見出来たことがとても重要でした。
僕の絵は、刷毛やペイントローラーなど画材自体の幅が広いものとポールペンや面相筆などの筆跡が細いものを併用しています。応募規定にある最大サイズ(B2)で描くことで、大胆に塗るところと時間をかけて描きこむところのコントラストを強めることが出来るようになりました。
描けるモチーフや設定も格段に増えて、絶えず描きたいシーンのラフが溜まっている状態です。ザ・チョイスがきっかけで小説・エッセイ等の装画依頼が増えたので、四六判の書籍の場合もB2の原画を用意して印象をキープ出来るようにしています。
Q4
ザ・チョイスからつながったお仕事、もしくは最近の印象に残っているお仕事を教えてください。
『サッカー監督の決断と采配』(ひぐらしひなつ 著/エクスナレッジ)は、第223回の審査員・漆原悠一さんがブックデザインを担当しています。審査で原画を見てくださっていたのでイメージの共有が十分に出来ており、スポーツ分野のブックデザインにおいて大胆なアイデアを実現させることが出来ました。
『ゴリラ裁判の日』(須藤古都離 著/講談社)の装画依頼は鈴木成一さんからでした。HBファイルコンペでさまざまなパターンの作例を見てくださっていたので、フルスイングで取り組めた仕事です。
『アイデアNo402』(誠文堂新光社)の装画は、ウェブサイトに載せていたザ・チョイスの入選作がきっかけとなったお仕事です。書籍という具体的なモチーフとイメージの人物像を組み合わせる描き方も、ザ・チョイスの作品の延長線上にあります。
Q5
これからザ・チョイスに応募したい人へのアドバイスをお願いします。
ザ・チョイスは3カ月ごとのコンペです。3カ月で5枚の作品を仕上げていくペースであれば、働きながらでも継続することが出来るはずです。じっくり取り組めるのであれば20枚ぐらいはラフを描いて、いったん自分で一次選考をするとよいです。
本番では年齢制限がなく、プロもアマもベテランも新人も横並びで審査されるので、その前に自分が描くべきものを探究する時間が必要です。イラストレーションの仕事も見えないところで日々コンペが行われているようなものなので、比べられる恐怖に怯えるよりも、自分の基準を見極めて取り組むことが大事です。
そうすれば、競争の意識を自分の居場所を探すような感覚に変えられるような気がしています。
ザ・チョイス
次回の審査員:鈴木成一さん(グラフィックデザイナー)
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