【対談】福田利之さん×滝口聡司さん 生活に寄り添うテキスタイルブランド「十布」の挑戦(後編)

『イラストレーション』No.217での連載スイッチ・インタビューの中から、イラストレーター福田利之さんと、「十布」ディレクター滝口聡司さんの対談を掲載します。

 

イラストレーションの仕事を発注する関係者に、東京イラストレーターズ・ソサエティ会員が自らインタビュー。今回はイラストレーターの福田利之さんが、自身の手がけるテキスタイルブランド「十布」のディレクターである滝口聡司さんを取材します。紙から布へとステージを移し、次々と新しいプロダクトを生み出すチームの貴重な舞台裏をのぞきます。

協力:東京イラストレーターズ・ソサエティ
撮影:佐々木孝憲 撮影(十布商品):鍵岡龍門

(前編はこちら

 

海外での制作

福田:十布は、滝口さんに提案して貰って商品を作っていくのも楽しいです。例えば「tenp05:インドのブロックプリント」のシリーズ。

滝口:これは僕の方で製作出来るルートがありました。スタンプのように木版で押してプリントしていく作り方を僕が説明して、こういうのはどうかと福田さんが絵を描いて、それを現地の工場に送って確認していく流れです。テキスタイルを作る方法が特殊なので、日本にいるうちは勝手が分からず時間がかかりましたが、インドの工場に行ったら劇的に話が進む。その場で決まるっていう、あの現場の力はすごいですよね。

tenp05:インドのブロックプリント・ハンカチ。 風合いのある生地は、職人たちの手で スタンプを押すようにプリントされて生まれる。

 

福田:職人さんと会うと一気に動く。刺子織も福島の職人さんと会話して、話がどんどん膨らんでいきましたね。

滝口:コラボレーションシリーズの「tenp+:フィンランドリネン」は、「フィンランドではガーゼなんか売れないよ」という話をどこかで聞いたのがきっかけでしたっけ?

福田:そうそう、フィンランドで僕の展示会があった時に十布のガーゼシリーズを持って行ったんですけど、フィンランドの人に馴染みがあるのはリネンで、がしっとした硬いタオルをサウナで使っているから、「こんな生っちょろい布なんか使わないよ」って言われました(笑)。ちょうど2015年に『福田利之といくフィンランド』(小社)という本を作るきっかけがあったので、その現地取材と合わせて十布になかったリネンをフィンランドの地で作ることになりました。こうして現地に行って作ることで、ほかの商品にもいい影響を与えましたね。

tenp+:フィンランドリネン「四羽の鳥」。 フィンランドのリネンメーカー「Jokipiin」で 製作した厚手のランチョンマット。

 

商品を作る流れ

滝口:モチーフについては、ほぼ福田さん任せです。こちらから出す条件は、色数やサイズ、線幅の最大値などいろいろありますが。

福田:何種類か作る時は偏りが出ないよう、「ここで猫を描くなら次は植物を描いて下さい」というようなことは言われますね。トータルの商品のバランスを考えて、モチーフは選ぶようにしています。色は十布のスタッフのみなさんとも話し合いますね。

滝口:サンプルは福田さんの作った原画と、十布スタッフで考えた別の色バージョンの両方を作成します。出て来たものを確認して「この色をもう少し薄く」と指示したり、そういうやり方で決めていきます。出す前に自分がこうだと思っている色があったとしても、サンプルで出て来た色がいいなと思うこともある。だから、最初に自分が思った色にこだわる必要もないですね。

福田:商品を作る上で、もっとこうして欲しいとかってあったりするんですか?

滝口:ラフがもっと見たい気はしますが、福田さんは十布ではラフを描かない人だというのが分かってきました。福田さんが実際に原画を描いているところは見たことがありませんが、誰かにサインする時とか、打ち合わせ時のメモをのぞいていると、あまり迷いなく描いているように思うんですよ。頭よりも先に手が動くイメージ。そういう描き方をしている人って1度描き始めると完成形まで行くので、その途中に僕が何かを入れちゃうとゼロに戻るのではないか、と。

福田:なるほど、いいとこつきますね! 普段の仕事はラフというものが存在するんですけど、十布の場合はダメだったらイチからやり直す、というスタンスです。普段の仕事とは違うノリでやりたいところがあって。

滝口:福田さんはそのスタンスでいいと思います。十布のやり方って決まっているわけではなくて、実際にやってみながら作っていくやり方ですから。

福田:仕事のパートナーというのは、言えるところと言えないところが出て来るんですけど、滝口さんは正直に予算のことも含めて話をしてくれる。それが仕事のやりやすさにつながっていますね。

 

十布のこれからについて

福田:次は何を作りましょうか?

滝口:今、福田さんと話しているなかでのキーワードは「ベイビー(赤ちゃん)」。今までの切り口としては、生地や製法で商品のラインナップを作ってきましたが、ターゲットをより意識して作ってみるのもありかなぁ、と。

福田:暮らしや家族というものに十布がどんどん向かっていますね。僕が最初にやりたかったことの1つです。

滝口:ただ布を作るというよりは、生活のなかを見て何を作るか考える。福田さんのイラストレーションは、たぶん生活に寄り添える絵です。クールでカッコいいというものではなく、そっと身近に置きたくなるような絵。だから、自然と人の暮らしに向かうのだと思います。

福田:将来的にはどこに目標を置いているんですか?

滝口:1つは、生活に溶けこむ十布のプロダクトを手にして、そこから福田利之というイラストレーターの仕事を知る、という流れを生み出したいです。

福田:僕は描くだけじゃなくて、みんなでディスカッションして作っていくのが楽しい。僕らの周りの人たちが幸せに暮らせるぐらいの範囲でものを作って、気が付くとたくさんの人にも喜んで貰えている。そんな小さな循環がいいのかな、と思います。

滝口:そもそも十布というブランド名は「たくさんの布」という意味をこめています。今冬に新作の「tenp06:タブロー」を発表したばかりですが、「十」のシリーズを作って届けることがひとまずの目標です。そこから先は規模を大きくするよりも、長く愛されるものを丁寧に作っていきたいな、と。極端に言えば、十布を一生続けられるものにしたいですね。

tenp06:タブロー・ハンカチ。 福田さんのマチエールのあるイラストレーションを 忠実に再現した新作のシリーズ。 (撮影:十布)

 

<プロフィール>

ふくだとしゆき/イラストレーター。1967年大阪府生まれ。CDジャケットや装画、エディトリアル、絵本、雑貨制作、オリジナルテキスタイルブランド「十布」も手がける。主な著書に『福田利之作品集』、『福田利之といくフィンランド─仕事すること 遊ぶこと─』(小社)、『ふたり』(甲斐みのり作/ミルブックス)、『ぼくはうさぎ』(山下哲作/あかね書房)など。

たきぐちさとし/建築家。1973年東京都生まれ。設計事務所「有限会社アパートメント」代表取締役。「十布」ディレクター。

 


本記事は『イラストレーション』No.217の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。

今回の対談も掲載している『イラストレーション』No.217。巻頭特集では、数多くの装画を手がける丹地陽子さんを紹介しています。

『イラストレーション』No.225は、福田利之さんを70ページにわたって特集しています。KIRINJI・堀込高樹さん、グラフィックデザイナー・大島依提亜さんとの鼎談も。

『福田利之作品集』は、福田さんにとって初めての本格的な作品集です。

『福田利之作品集2』は、函入りの贅沢な仕上がり。


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