イラストレーターに聞く“5つの質問”  第9回 鬼頭祈さん

『illustration FILE 2021』巻頭企画「イラストレーターに聞く“5つの質問”」。そこには、イラストレーターのみなさんの実感を伴った言葉が多数掲載されています。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、混乱が日常となっていった2021年。イラストレーターの方々は何を考え、感じ、どのように絵と向き合ってていたのでしょうか?

本記事では、掲載された方々の中から編集部が12名をピックアップし、当時の回答をそのまま紹介します。第9回目に登場するのは、書籍装画・挿絵や広告イラストレーションから壁画、テキスタイルデザインまで、幅広いジャンルで活躍する鬼頭祈さんです。

(連載のまとめはこちらから)

 


鬼頭祈

オリジナル作品「冬虫夏草」

1991年静岡県生まれ。京都造形芸術大学日本画コース卒業。日本画家として国内外の個展を中心に活動。イラストレーターとして広告、アニメコラボグッズ、アパレルブランド、絵本等に作品を提供。2014年ザ・チョイス入選(江口寿史さんの審査)。

ウェブサイト:www.inorikito.jp

 

 

Q1

イラストレーションという言葉が多様化する昨今、今後のイラストレーターとしての方向性やイラストレーションの可能性をどのように考え、活動していますか?

「イラストレーション」という言葉の意味が多様化していることは、よいことだなと考えています。今までがちょっと狭すぎたのかな? とも感じます。絵は誰でも自由に描いてよいものですし、イラストレーターだってイラストレーション以外にも自由に活動をしてよいのだと思っています。最近、私は「イラストレーター」という肩書にとらわれないことを意識しています。

 

Q2

仕事や自主制作の時に使用する画材や紙、デバイス、ソフトウェアはどういったものですか?

個展の絵画作品は主に顔彩・岩絵具・墨・和紙等、日本画の画材で描いていて、生の絵画と向き合う楽しさを感じて頂きたいなと思っています。絵本・書籍表紙等でも、日本画の絵具を用いることが多いです。雑誌のカットイラスト等は主にiPadProcreateというアプリで描いています。

 

Q3

COVID-19の影響による生活や仕事の変化はどのようなものでしたか?

本当にやりたいこと、本当に好きなものに向き合う機会になりました。2020年の春・夏頃は、新型コロナウイルスの不安で少々モヤモヤとした日々を送っていました。しかし、秋頃に吹っ切れました。人生、いつ何が起こるかは予測出来ないし、いつ死ぬかもわからない。なので、自分の気持ちに正直に、やりたいことをやろうと決心しました。

 

Q4

絵を描く時の思考や技術の礎、実作業の時の着想源や資料として利用するものはどんなものですか? また、2020年印象に残ったものは?

幼少期からずっと好きなもの、気になっていること等を大事にしています。そういったものが自分自身の表現の核となっていると感じています。描く時にヒントを探したい場合は、生き物や植物の図鑑や、著作権切れとなっている日本美術の絵巻の画集等を眺めたりしています。また、コロナ禍以降、近所の公園をほぼ毎日散歩しています。 大きな池があり、水鳥がたくさんいる公園です。鴨の赤ちゃんの成長を見届け、渡り鳥の到来や昆虫・植物の種類の移り変わりで季節を感じました。夏の夜には、セミの脱皮もたくさん観察しました。こんなにも、しっかりと季節の流れを追えた1年間は初めてかもしれません。とても感動する経験でした。収束した後も散歩を続けていきたいです。

 

Q5

仕事上で気を付けていること、知っていてよかったこと、今後身に付けたい技術や知識はありますか?

依頼された仕事が共感出来るものかどうか慎重に検討し、受託するかどうかを決めています。例えば書籍のイラストレーションの依頼の際は、共感する内容の本であれば仕事を受けることにしています。メインビジュアルとして絵が使われるのは、広告塔になることだと私は考えています。作家として、発信するメッセージには正直でいたいです。今後、より自由に楽しく表現をするために、文章や音楽等、イラストレーション以外の表現方法も貪欲に身に付けていきたいです。

 


 本記事はillustration FILE 2021』上巻の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 

illustration FILE 2021 上巻』(玄光社) 


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