『illustration FILE 2020』の巻頭企画「イラストレーターに聞く“5つの質問”」。そこには、イラストレーターのみなさんの実感の伴った言葉が多数掲載されています。COVID-19の感染拡大によって、さまざまな変化があった2020年。イラストレーターの方々は何を考え、感じ、どのように絵を描いていたのでしょうか?
本記事では、掲載された方々の中から編集部が12名をピックアップし当時の回答を紹介します。第9回目に登場するのは、広告や数多くの書籍の装画を手がける、げみさんです。
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げみ
1989年生まれ。京都造形芸術大学 美術工芸学科日本画コース卒業。 フリーのイラストレーターとして書籍の装画を中心に幅広く活動。 画集『げみ作品集』(玄光社)、絵本『乙女の絵本4檸檬』(立東舎) 等を出版。
Q1
2020年代のイラストレーションの変容や拡張、 イラストレーターとしての在り方の変化を感じますか? または、現在具体的に自身の活動で力を入れていることは?
現在のイラストレーションは“いかに伝わりやすいか”ということがかなり求められていると思います。というのも、鑑賞者が一目でどれだけ簡単に読み解くことができるのかが勝負になっているような気がするからです。
本来何かを説明するために使われたイラストレーションですが、今は日常のワンシーンのような絵から、物語を鑑賞者に委ねる、余白を強調した曖昧な絵が増えているように感じています。ですが、一人の作家として生き残るには絵でしかできない、絵だからこそできる表現の模索は必須だと思います。
また、これからのイラストレーターはただ絵が描けるだけではなく、デザインを始め、アニメーションや 3DCGなどに落とし込む為の用途に合わせた作品の制作などこれまでとは少し違った別のスキルも求められるように感じています。自分の絵をどういった形で人に見せることができるのか、その発信の幅や可能性を、自ら増やすことが、今後は大切だと感じています。
Q2
仕事や自主制作の時に使用する画材や紙、デバイス、ソフトウェアはどういったものですか?
本画制作:ワコム 液晶ペンタブレット 27型QHD液晶(Cintiq 27QHD)、Photoshop CC。打ち合わせの時のラフ:iPad Pro、Procreate。
Q3
イラストレーションや絵画、デザイン、写真、映像などの視覚表現で、2019年印象に残ったものは?
岩倉しおり『さよならは青色』。岩倉さんの撮る光溢れる美しい影を見ると自分の創作意欲も高まる気がして刺激を受けます。紙の質感と相まって写真なのに絵を見ているような、そんな感覚になります。
Q4
絵を描く時の思考や技術の礎、実作業の時の着想源や資料として利用するものはどんなものですか?
学生時代に学んだ現代日本画の画面作りは、自分の思考の素になっています。基本的には外で取材をして、描きたいモチーフや場所、シチュエーションを探しています。構図は映画のワンシーンをイメージすることが多いので、印象に残ったシーンなどは保存しています。
Q5
仕事をするなかで気をつけていること、知っていてよかったこと、今後身につけたい技術や知識は?
期待値以上の仕事をするために締切を守らないことが、クリエーター界隈では賞賛される風潮をたまに見かけますが、それはごく一部の方の特権のようなものなので、真に受けず締切は守った方がいいということ。 自分の次に仕事をして下さるデザイナーさんのことを考えたスケジュールで進行できるかが、最終的な成果物のクオリティを左右します。
打ち合わせなどでは、何を求められているか、それに対してどのような答えを自分が持っているのかをはっきりさせるために、自分の絵を言葉でしっかり説明できることが大切です。「言葉で説明できない何か」という曖昧な答えではなく、説明可能な状態に自分の絵を分析できているかは、イラストレーションとして人に読み解いてもらうために、とても大事なことだと考えています。今後は 時間があれば3DCGを勉強したいです。簡単な資料を作ることができれば、いろんな面で便利だと思います。
※本記事は『illustration FILE 2020 上巻』の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。