イラストレーションNo.211に掲載された企画、“ADに聞く「雑誌イラストレーションの現在」”のなかからインタビューを抜粋して紹介します。
今回掲載するのは、アウトドア雑誌『ワンダーフォーゲル』とNHKテキスト『Enjoy Simple English』のADを務める尾崎行欧さん。空前の登山ブームで市場が拡大したアウトドア雑誌で、求められるイラストレーションについて聞きました。(*役職などは2016年当時のものです。)
—— 現在はどのようなお仕事をされていますか。
雑誌は『ワンダーフォーゲル』、あとは『Enjoy Simple English』などNHKのテキスト関連の仕事をメインにやっています。
—— イラストレーションを積極的に使われていますね。
自分から提案するというよりは、編集部から「ここはイラストで行きたい」と話をいただくことが多いですね。
独立する前は、岡本一宣事務所に14年勤務して、そこでイラストレーションについてもいろいろ勉強させてもらいました。岡本さんはイラストや写真などのビジュアル要素を大切に尊重して使用されるので、僕自身もその手法は勉強になりましたし、とても好きでした。岡本事務所でNHKの語学テキストシリーズ全体をチーフとして担当していた時期があり、同時に15人くらいのイラストレーターとやりとりさせていただいたことがあります。
—— 『ワンダーフォーゲル』をはじめ、山と溪谷社のお仕事を多く担当されていますね。
それも岡本事務所時代に、ヤマケイ文庫のデザインを担当したのが最初の縁です。そのときは文庫のアイコンも作りました。それがきっかけで自分も山登りをするようになり、独立してから編集部に売り込みに行きました。
—— アウトドア系の雑誌をいろいろ見たのですが、全体的にイラストレーションがよく使われていて、中でも積極的に使っていたのが『ワンダーフォーゲル』でした。
ビジュアル重視で行きたいという編集方針があるんです。同じ会社に『山と溪谷』もありますが、そちらはどちらかといえば情緒的でストイックな誌面づくり、『ワンゲル』はビジュアルでページに変化をつけて差別化できるように意識しています。
—— アウトドア雑誌ならではのイラストの使い方、考え方はありますか。
山の雑誌では地図が非常に重要になりますが、地形やコースを把握するための詳細な地図と、場所のイメージを楽しく伝えるような概念図に大別できると思います。あと、山の写真は基本的に引きが多いので、例えば、コースガイドを写真だけで構成するとメリハリのない単調なページになってしまいます。そういう場合は、撮影が困難なシーンをイラストで描いてもらうことがよくあります。
また、近年はウルトラライトやファストパッキングなど登山のスタイルも多様化して間口が広がっているし、素材の進化によって道具も新しいものがどんどん出ています。新しい思想には新しいイラストレーターを、と思って積極的に若い方々にお願いしています。
—— 山ガールブームもあったし、女性読者も増えていますか。
女性読者は意識していますね。女性に限らず、登山ブームで初心者層向けの記事が多くなっていて、そうしたページではカジュアルで面白おかしく描いてくれる方にお願いしています。
—— イラストレーターへの依頼は直接されているのですか。
発注は基本的に編集部からです。記事内容が固まってから編集部の意向を聞き、僕の方で補足的にやりとりをすることはあります。イラストの良さを最大限生かしたいので、なるべくイメージを先に固めないで、絵が上がってから絵についていくようにデザインを考えることが多いです。
—— 『ワンダーフォーゲル』のような季節物の企画もある雑誌は、取材や進行のスパンが長かったりするのですか。
編集部はそれこそ1年前から翌年の記事の取材で動いていて、写真を押さえたりしていますが、実際その記事の方向性が固まるのはけっこうギリギリなので、スケジュールは他の雑誌とあまり変わらないと思います。イラストレーターは内容がある程度わからないと描き始められないと思いますし。
—— NHKのテキストについても伺いたいのですが。
こちらも面識のない方の発注はまず編集部から行いました。『Enjoy~』は半年続くので、編集者とデザイナー、イラストレーターの3者で打ち合わせして、大まかなイメージと点数を決めていきます。曜日ごとに担当するイラストレーターが変わるのですが、曜日によって日常のシーンから歴史ものまでテーマはさまざまです。テキストを読んで、なるべく型にはまらず自由に描いてもらいたいので、レイアウトはラフをいただいてから進行しています。
—— 作品の持ち込みは来ますか。
けっこういらっしゃいますよ。できるだけ拝見するようにしていますが、忙しいこともあるので、HPを先に見て何かお願いできる可能性がありそうな方にはお会いするようにしています。
—— イラストレーターはどのようにして探していますか。
『イラストレーションファイル』を見たり、いろんな雑誌で見つけたり、ギャラリーからの案内で知って、展示を見に行くこともあります。個展を見て気合が伝わってくるとお願いしたくなりますよね。好きなイラストレーターは、こちらもお仕事を依頼できる機会を伺っている感じです。
—— 最近の雑誌のイラストレーションの動向について、いかがでしょう。
最近は新鮮な世界観を持った、技術力もハンパなく高いイラストレーターがたくさんいらっしゃるので、そうした方に助けていただくことが増えています。絵に力がある人がいっぱい出てきている状況は、こちらとしてもうれしいですね。
この人は全てにおいてベスト、というイラストレーターはいないと思います。やはり目的ごとに、この人がいい、こういう絵が欲しいというので探していますね。お願いするときは忙しいかなー、受けてもらえるかなーといつも不安です(笑)。
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注目するイラストレーター3名
中上あゆみ
北村美紀
久野遥子
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〈プロフィール〉
おざきいくお/1974年東京都生まれ。99年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業、同年より13年まで岡本一宣デザイン事務所に在籍。13年尾崎行欧デザイン事務所(oigds)設立、16年株式会社化。http://oigds.jp
本記事は『イラストレーション』No.211の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。
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