編集部がおすすめする、いま読みたい7冊

春一番が吹き抜け、本格的に新しい季節の到来を感じる今日この頃。春の訪れに、街行く人の足取りも心なしか軽やかに感じられます。

今回ご紹介するのは、本が出来上がるまでの過程や、季節の行事を彩る食べ物を紹介する絵本、人々の生活に根ざす宗教とデザインのつながりを紐解く本、食べ物の写真をとおして新たな視点を提起する食育本など、高揚感を後押しするようなワクワクする7冊のラインナップ。

ぜひお気に入りの1冊を探してみてください。

 


『このほん』

かげやまとおる 作

(偕成社)1,600円+税 装丁:藤田知子

イラストレーターとしてこれまで700冊以上の装画を手がけてきた、かげやまとおる(影山徹)さんによる新作絵本は、これまでとは一線を画す画風で描き上げられた、「このほん」が出来るまでをめぐる冒険物語。本屋さんで、ある絵本にふと目を止めた男の子。気になって手に取ってみると、次の時間、その中に吸いこまれてしまって……。男の子の目の前で賑やかに繰り広げられるのは、印刷や製本、断裁など、「本作り」に関わる工程です。ご自身も印刷会社に勤めていた経験があるかげやまさんは、実際に印刷会社や製本会社を取材し、それらをファンタジーに落としこみながらも、細部までぬかりなく、丹念に描き上げました。制作は、文字の吹き出しにいたるまで、全編をとおしてアナログ、お手本のように美しい色彩構成、整合性の取れた構図、そして1枚1枚にこめられた熱量に思わず目を見開き、その揺るがない画力にただただ圧倒されます。

▶︎『このほん』

 


『ごちそうごよみ』

谷山彩子 作

(小学館)1,600円+税 BD:椎名麻美

1年の中にはたくさんの節目があり、行事があります。そして、そんな行事に欠かせないのが「ごちそう」。おせちやお雑煮など、にぎやかなお正月に始まり、いまでは日本でもすっかりお馴染みになったクリスマスまで、各月の行事ごとに食べるものの種類やその謂れが谷山彩子さんの心躍るイラストレーションと共に丁寧に紹介されています。生まれ育った場所や文化圏によって、思い描くごちそうはそれぞれですが、その違いを楽しみながら誰かと一緒に読むのもオススメしたい絵本。

▶︎『ごちそうごよみ』

 


『宗教とデザイン』

松田行正 著

(左右社)3,500円+税 BD:松田行正

『戦争とデザイン』に続き、「宗教」が古代より作り出してきた表現をデザインの観点から紐解き、検証する松田行正さんの意欲作。世界・宇宙が未知の存在であった時代から人間の信仰心によって生み出された数々の「世界」のデザイン、伝達技術の発展による変化を経て、聖書などに見られる「布教」のデザイン、偶像崇拝禁止の末に生まれたカリグラフィーなどの「祈り」のデザインを主軸として、世界に存在する表現の原点を垣間見れば、宗教やデザインに対する印象が一変するかもしれません。

▶︎『宗教とデザイン』

 


『すきなもの たのしいことAtoZ ’80s~’90s 少女カルチャーブック』

杉浦さやか 著

(祥伝社)1,500円+税 装丁:畠山香織

イラストレーター歴30周年を迎えた杉浦さやかさんを培った、1980~1990年代の「すきなもの」「たのしいこと」を詰めこんだイラストエッセイ本。「陸奥A子」、「わたしの部屋」、「ラジカセと私」、「憧れのイラストレーター」など、杉浦さんが夢中になっていた頃の気持ちや視点で描かれたそれらはどれも新鮮な魅力を放ち、つい読み耽ってしまいます。巻末には、恩師・安西水丸の追悼展示に寄せたもう1つのA to Zである「2015年のA to Z わたしのおきにいり」を特別収録。

▶︎『すきなもの たのしいことAtoZ ’80s~’90s 少女カルチャーブック』

 


『ちいさなゾウ』

庄野ナホコ 作

(講談社)1,500円+税 装丁:鈴木千佳子

「ちいさなゾウの ちいさな ねどこは マッチのはこです。」という一文と、ちいさなゾウがお屋敷の温室のテーブルの上でティーカップとソーサーで水浴びをしている絵から始まる、素敵な予感に満ちたクリスマスの物語。その後、クローバーの食べすぎで体が大きくなってしまったちいさなゾウは、友だちに教えられた綺麗な箱がたくさんある部屋を目指し、新たな寝床を探す旅に……。ページをめくる度、庄野さんが描き出すちいさなゾウの愛らしい一挙一動に頬が緩んでしまうはず。

▶︎『ちいさなゾウ』

 


『かえましてん』

べかたろう 作

(KADOKAWA)1,200円+税 BD:albireo

ムービーディレクター、フォトグラファー、フードコーディネーター、フォトレタッチャーのプロ4人がタッグを組んで、「『食』への関心、新しい視点の発見」をテーマに食べ物を用いてイメージを見立て、表現する「べかたろう」。ハッとするような瑞々しいイメージと新鮮な視点を伴って、子どもたちが身近な食べ物から新たな一面を発見することは、食べる喜びや知る楽しさをより一層増幅するに違いありません。あなたは表紙の桃に見慣れないヘタがあるのがなぜだか分かりますか?

▶︎『かえましてん』

 


『ゆうぐれ』

平岡瞳 作

(小学館)1,600円+税 装幀:サイトヲヒデユキ

木版画で美しい情景を描き続ける平岡瞳さん初の創作絵本。日暮れから日没までの短い時間を描いた物語ですが、夕陽に照らされ家路につく女の子の目にはたくさんのものが映し出されます。カラスの親子や花をゆらすそよ風、町に向かって走る電車、すやすや眠る赤ちゃん、おみやげのさくさくコロッケ……そして最後に残った、空からみんなを眺めるおひさま。変化する空の表現はもちろんのこと、人の暮らしの中にある明かりも思わずため息が漏れるほどで、何度も噛み締めたくなる1冊です。

▶︎『ゆうぐれ』

 


※本記事は『イラストレーション』No.241の内容を本ウェブサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。


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