編集部がおすすめする、いま読みたい7冊

日々刊行されるたくさんの書籍のなかから、イラストレーション編集部がおすすめする7冊を紹介します。

秋も深まり、読書にぴったりな清々しい陽気の続くこの頃。本を片手に散歩に出かけるのもいいかもしれません。漫画や絵本、画集などさまざまなジャンルから、お気に入りの1冊を見付けてみてください。

 


『ゆうれい犬と街散歩』

中村一般 著

(トゥーヴァージンズ)1,100円+税 D:山田知子+門倉直美(chichols)

「私」とゆうれい犬の「ハナちゃん」が東京の街を気の向くままに散歩する、中村一般さんの初連載がマンガ単行本化。密集した都会の家々や鬱蒼とした植物の様子など、1コマ1コマに緻密な描きこみがなされています。どこにでもある街角、普通の裏路地なのに、「私」の目をとおすとたくさんの発見が溢れている不思議。そして簡単には答えの出ない事柄に対する、主人公の切実で無垢な痛みも描写されています。「今まで話したこと 見てきたこと 全部忘れないでおきたいな」。最後に「私」の口から出る言葉が静かに胸に滲み入るのは、2人(1人と1匹)が過ごした時間と、読者の記憶とが混ざり合い、本をとおして新たな“経験”がもたらされた証左にほかなりません。

▶︎『ゆうれい犬と街散歩』

 


『一本の水平線 安西水丸の絵と言葉』

安西水丸 著

(クレヴィス)2,000円+税 BD:土居裕彰

「私はイラストレーションを描く時にホリゾン(水平線)をよく使います。」という一文から始まる安西さんの文章を軸に、数万枚の中から選び出された70枚の絵。安西さんにとって一本の線は絵に安心感を生み出すものであり、多感な時期を過ごした海辺の町・千葉県千倉町の記憶ともつながっていたようで、飽くことなく描かれました。ところどころに現れる言葉のきらめきも含め、描線とその背景にある作家の足跡を追うようにじっくり読みたい1冊です。

▶︎『一本の水平線 安西水丸の絵と言葉』

 


『戦争とデザイン』

松田行正 著

(左右社)2,500円+税 BD:松田行正 デザイン協力:杉本聖士+金丸未波

ロシアのウクライナ侵攻以降、それぞれの国旗の色はシンボルとなり、「Z」マークは侵攻を肯定するものとなりました。本書では人類の歴史の中で戦争を正当化、または美化し、人々を扇動するデザインの負の側面が綿密に語られます。単にグラフィックデザインだけでなく、「言葉」や「行動」、時に「価値観・倫理観」や「歴史」にまで及ぶ恐ろしいデザインの事例を前に、私たちはこの先にある未来を一体どうデザインするのかと考えさせられます。

▶︎『戦争とデザイン』

 


『あんまりすてきだったから』

くどうれいん 著 みやざきひろかず 絵

(ほるぷ出版)1,400円+税 装幀:漆原悠一(tento)

歌手の歌声があんまり素敵だったから、素直な気持ちを手紙に綴った“こんちゃん”。その心のこもった手紙は、さまざまなものを経由し、やがて明るくやさしい夜を広げていきます。幼い頃のくどうさんが、絵本作家のみやざきさんに手紙を送ったという事実を基に作られたこのお話。時を経て2人が共に作り上げた“小さな奇跡”のような絵本は、純粋な気持ちを届けることのかけがえのなさを、説得力を持って伝えてくれます。

▶︎『あんまりすてきだったから』

 


『キャットウォーク』

佐々木充彦 著

(rn press)1,900円+税 装丁:藤田裕美

イラストレーター、漫画家の佐々木さんの約10年ぶりの新作は漫画版と小説版が同時収録されており、それぞれが共鳴するような独特の読み心地です。舞台は二本足で歩き、人間とよく似た様式で暮らす猫の町。社会に馴染めず、疲弊した主人公のミロは迷いこんだその町で謎の少女と神父に出会い、弱さと暴力を肯定されて––––「社会に馴染む」とはどういうことなのかという切実な問いかけ、胸を衝くような最後をあなたはどう受け止めますか?

▶︎『キャットウォーク』

 


『町田尚子画集 隙あらば猫』

町田尚子 著

(青幻舎)2,500円+税 D:大島依提亜+勝部浩代

尾道市立美術館で開催中の「隙あらば猫 町田尚子絵本原画展」の図録兼書籍で、デビューから現在までの絵本原画や装画、タブロー作品など幅広く収録。冒頭の「絵本を描くコツがあるとしたら、それは、猫の後をついて行くこと。」という言葉を追体験するような町田さんの愛猫「白木」を探す楽しい仕かけや描き下ろし絵本『白木のピョン』、そしてインタビューまで、あらゆる場所に次々と現れる猫の姿とそこに溢れる愛につい目を細めてしまいます。

▶︎『町田尚子画集 隙あらば猫』

 


『ポール・ヴァーゼンの植物標本』

ポール・ヴァーゼン+堀江敏幸 著

(リトルモア)2,000円+税 装幀:黒田益朗

約100年前に、ポール・ヴァーゼンという女性が綴じた私的な植物標本。それは、南フランスの蚤の市で偶然骨董商の手に渡り、遠い日本の地で1冊の本として新たな形を得ました。微かに色を残した草花は、丁寧に、時にリズミカルに配置され、作者が植物を愛でる姿をも映し出しているようです。さらに、品のよい花たちと呼応するような堀江敏幸さんの掌編、トレーシングペーパーを使用した繊細な装丁が、静謐な美しさを増幅させています。

▶︎『ポール・ヴァーゼンの植物標本』

 


本記事は『イラストレーション』No.236の内容を本ウェブサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

 


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