『illustration FILE 2020』の巻頭企画「イラストレーターに聞く“5つの質問”」。そこには、イラストレーターのみなさんの実感の伴った言葉が多数掲載されています。COVID-19の感染拡大によって、さまざまな変化があった2020年。イラストレーターの方々は何を考え、感じ、どのように絵を描いていたのでしょうか?
本記事では、掲載された方々の中から編集部が12名をピックアップし、当時の回答をそのまま紹介します。第2回目に登場するのは、幅広いジャンルのイラストレーションを手がけ、グラフィックデザイナー松田洋和さんとのユニット「へきち」としても活動される田渕正敏さんです。
(連載のまとめはこちらから)
田渕正敏
プロフィール:1983年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。書籍、 音楽、ファッション、パッケージ等、幅広いジャンルのイラストレーションに関わっています。
Q1
2020年代のイラストレーションの変容や拡張、 イラストレーターとしての在り方の変化を感じますか? または、現在具体的に自身の活動で力を入れていることは?
2011年にイラストレーターを始めた頃、模範回答(場面・タッチ・配色に至るまで)が用意されている依頼が多く、依頼仕事に限界を感じていました。 デザイナーやADに決定権がなく、イラストレーターはさらに下流に位置する。もっと自発的に制作する環境が必要と感じグラフィックデザイナーとの活動「へきち」でその課題に取り組みました。現在は模範解答の枠外にあるイメージを求められる機会が増え、自己発信し続ける重要性を感じます。
Q2
仕事や自主制作の時に使用する画材や紙、デバイス、ソフトウェアはどういったものですか?
ラフはすべて鉛筆から始めます。まとまりは気にせず、机上にA4のコピー用紙を積み上げて、大量にイメージを描き留めます。線画はPIGMAやPROCKYなどのサインペンで仕上げ、着彩はPhotoshop。ペインティングでは水張りケント紙やセラミックボードにアクリル絵具、ポスターカラーで着彩。グラフィカルな構成要素を即興的に入れるためにカラーのマスキングテープを使用しています。
Q3
イラストレーションや絵画、デザイン、写真、映像などの視覚表現で、2019年印象に残ったものは?
「目[mé] 非常にはっきりとわからない」展。見るという行為にある種の疑いが生じた。視覚表現の領域を拡張する展示で新感覚。マンゴ・トムソン「Rods and Cones」展。印刷物を1,000倍に拡大した視覚的違和感。作品の鑑賞距離によって目はレンズであることを強く意識した。「mimon 1st Solo Exhibition」。3DCGイラストレーションでアイコニックな造形とエモーションが同居する素晴らしい作風。こんな絵が描きたいと思った。
Q4
絵を描く時の思考や技術の礎、実作業の時の着想源や資料として利用するものはどんなものですか?
技術は美大受験予備校の頃に大量の作品を描いたことで培われました。大学時代の佐藤晃一先生のポスターデザインの授業からも多大な影響を受けています。作画技術はトレーニングで身につけられると気づき、多様な描法や画材の研究・摸写を始めました。着想源はさまざまですが、筆跡からドローイングが生まれたり、塗りのストロークからモチーフが浮かんだり、画材から着想を得ることが多いです。
Q5
仕事をするなかで気をつけていること、知っていてよかったこと、今後身につけたい技術や知識は?
最近特に意識するのは打ち合わせでの雑談。それによってやり取りが円滑になったり、出版や映像作家との共作、展示のお誘いなど次々と別の仕事につながり、とても面白い感触を得ています。最近は動画内のイラストレーションを描く機会が増えて、動画担当の方のディレクションに刺激を受けているので、今後はアニメーションを勉強したいです。
※本記事は『illustration FILE 2020 下巻』の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。