ミロコマチコさんら現代作家5名を紹介 企画展「大地に耳をすます 気配と手ざわり」が開催

自然に深く関わり制作を続ける現代作家5人を紹介する、企画展「大地に耳をすます 気配と手ざわり」が東京都美術館で開催される。会期は、7月20日(土)から10月9日(水)まで。出品作家は、榎本裕一さん、川村喜一さん、倉科光子さん、ふるさかはるかさん、ミロコマチコさん(五十音順)。

生命の輝きに満ち、同時に暴力性を内包する自然。現代の都市生活を送る私たちが意識の外へ追いやりがちな、自然への畏怖や敬意、そして自然と人との関係性を、本展は5人の作家の作品をとおして問い直す。

川村喜一さんが撮影するのは、移住者として新鮮な眼差しで捉えた知床。2017年から知床に移住した川村さんは、現在も知床に暮らし、その土地に住む生活者として作品発表を続けている。また榎本裕一さんは、極寒の地・根室の景色をモティーフとした作品を制作する。都市を出て、豊かな自然と風土に身を置いた作り手たちの作品は、東京の会場に厳寒な北海道の自然の息吹を伝えてくれることだろう。

川村喜一《2018.1121.1043》2018年 写真 作家蔵
榎本裕一 新作の完成イメージ 2024年 作家蔵

空間にあわせた新作も本展の見どころ。奄美大島に移住したミロコマチコさんは、東京都美術館の個性的な広い空間に合わせて、生命のうごめく奄美をイメージしたインスタレーションを制作。木版画家のふるさかはるかさんは、取材地の漆を使った15枚組みの大きな木版画に取り組み、青森の木立のような展示空間を立ち上げる。

ミロコマチコ《2匹の声》2022年 アクリル、木製パネル 作家蔵 Photo: Yuichiro Tamura
ふるさかはるか《織り》(部分)2014年 木版 土、紙 作家蔵

また倉科光子さんが描くのは、東日本大震災の津波と復興がもたらす植生の変化を捉えた作品。さまざまな角度から、人と自然の関係を見つめ直す。

倉科光子《37°33’22″N 141°01’31″E》2016-20年 透明水彩、紙 作家蔵

写真、木版画、油彩画、水彩画、インスタレーションなど、5人の現代作家による多彩な作品を見ることが出来る本展。自然に分け入り心動かされ、風土に接し生み出された作品は、人間中心の生活の中では聞こえにくくなっている大地の息づかいを伝えてくれる。かすかな気配も捉えるの鋭敏な感覚をとおして触れる自然と人のあり様は、きっと私たちの「生きる感覚」をも呼び覚ましてくれるに違いない。

 

〈プロフィール〉

榎本裕一(えのもと・ゆういち)/1974年東京都生まれ。2018年より北海道・根室にもアトリエを構える。花の色彩に注目した作品を多く手がけていたが、根室では冬の景色に魅了されたという。近年は、アトリエの近くの景色や自然が偶然に生み出すかたちに着想した作品を制作している。一見すると抽象のような油彩画は、目を凝らすと風景が浮かび上がる。暗い森の静寂と生命の気配を感じさせ、鑑賞者に自らの体験を想起させる余白をもつ。本展のために、雪の湖面を表す新作に取り組んでいる。

川村喜一(かわむら・きいち)/1990年東京生まれ。写真家・美術家。東京藝術大学大学院美術研究科終了後、2017年に「自然と表現、生命と生活」を学び直すため、北海道・知床に移住した。新たに家族となったアイヌ犬・ウパシとの暮らしや、知床の風景や野生動物を新鮮なまなざしで撮影しつづけ、2020年に写真集『UPASKUMA   アイヌ犬・ウパシと知床の暮らし』(玄光社)を出版。狩猟免許を取得してしだいに生活者となるなか、実感を伴った生命の循環をインスタレーションで発表している。

倉科光子(くらしな・みつこ)/1961年青森県生まれ、東京都在住。2001年から植物画を始める。2013年から東日本大震災の被災地に足を運び、浜辺や津波の浸水域に生えた植物を描きつづけている。津波により、内陸の植物が浜に根を下ろしたり、何十年も地中にあった種が芽生えたりした様子に加え、近年では復興事業で変わりゆく植生にも目を向ける。人と植物の時間スケールの違いが意識させられる一方、植物と目を合わせるかのような低い視点から描かれる植物には、被災した人々の営みも重ねられている。

ふるさかはるか/1976年大阪府生まれ。美術家・木版画家。フィンランド、ノルウェーなど北欧での滞在制作を経て、2017年からは青森で自然とともに生きる人々に取材を重ねながら制作に取り組んでいる。自ら採集した土、自ら育てた藍から絵具をつくり、木のかたちや木目を生かして版木をつくるなど、自然と関わる手しごととしての木版画にこだわりをもつ。近年は取材地で出合った漆に注目し、その樹木を版木に、樹液を絵具に取り入れた作品を試みている。2023年、青森での取材をまとめた作品集『ことづての声/ソマの舟』(信陽堂)を出版。

ミロコマチコ/1981年大阪府生まれ。画家・絵本作家。本の装丁や展覧会、ライブペインティングなど幅広い活動を行う。2019年、「生きる」ことに軸を置き、絵を描きたいと奄美大島に移住。自然と生活の密接なつながりを感じながら、いきものの気配や生命の煌めきが濃厚に漂う作品を生み出している。移住後の作品には、身近ないきものに加え、精霊や竜など目に見えない存在が捉えられている。2023年、4年ぶりとなる新作絵本『みえないりゅう』を発表。

 


「大地に耳をすます 気配と手ざわり The Whispering Land: Artists in Correspondence with Nature」

会期:2024年7月20日(土)~10月9日(水)

会場:東京都美術館 ギャラリーA・B・C

休室日:月曜日、9月17日(火)、9月24日(火)
※ただし、8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・休)は開室

開室時間:9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00 *入室は閉室の30分前まで

観覧料:一般 1,100円、大学生・専門学校生 700円、 65歳以上 800円、高校生以下無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料 *いずれも証明できるものをご提示ください
※都内の小学・中学・高校生ならびにこれらに準ずる者とその引率の教員が学校教育活動として観覧するときは無料(事前申請が必要)
※同時期開催の特別展「デ・キリコ展」「田中一村展 奄美の光 魂の絵画」のチケット提示にて各料金より300円引き

展覧会公式サイト:https://www.tobikan.jp/daichinimimi

 


 

『UPASKUMA  アイヌ犬・ウパシと知床の暮らし』(玄光社)

出品作家の1人・川村喜一さんによる写真集。知床の厳しくも豊かな自然、懸命に生きる動物たち、その隣にある人々の暮らし。たくさんの命が等価に存在する世界遺産・知床で、逞しく生きるアイヌ犬・ウパシの成長譚が、鮮やかにそして粛々と記録されています。

 


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