『illustration FILE 2021』巻頭企画「イラストレーターに聞く“5つの質問”」。そこには、イラストレーターのみなさんの実感を伴った言葉が多数掲載されています。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、混乱が日常となっていった2021年。イラストレーターの方々は何を考え、感じ、どのように絵と向き合っていたのでしょうか?
本記事では、掲載された方々の中から編集部が12名をピックアップし、当時の回答をそのまま紹介します。第3回目に登場するのは、鮮やかな色合いと繊細な作風で装画や広告を中心に活躍するいとうあつきさんです。
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いとうあつき
1990年生まれ。文教大学教育学部卒業。保育士として勤務後、フリーに。2019年東京装画賞入選。広告、装画等を数多く手がける。著書に『26文字のラブレター』(遊泳舎)。
ウェブサイト:itoatsuki.tumblr.com
Q1
“イラストレーション”という言葉が多様化する昨今、今後のイラストレーターとしての方向性やイラストレーションの可能性をどのように考え、活動していますか?
個人的にはイラストレーション以外の表現や職業、社会問題について学び考えることに力を入れています。自分以外の人生にどれだけ興味や関心を持って生きていけるかで、描ける情緒の幅が変わってくると思うからです。人から勧められた作品は自分の興味の有無に関係なく必ず目を通すこと、気になることがあれば専門書を買って歴史や文脈を勉強するように気を付けています。芯となる表現や考え方は大切にしつつ、柔軟に物事を解釈出来るよう知識と経験を増やしていきたいです。
Q2
仕事や自主制作の時に使用する画材や紙、デバイス、ソフトウェアはどういったものですか?
ラフはPhotoshop CCのみ、本書はPhotoshop CCと透明水彩絵具を併用しています。趣味で絵を描いていた頃からどちらの画材も使っていたので水彩の持つ自然な滲みやグラデーションの美しさとデジタル表現の色の強さ、両方のよさを取り入れるためにこのような技法に落ち着きました。
Q3
COVID-19の影響による生活や仕事の変化はどのようなものでしたか?
SNSとは距離を置くようになり、今は軽くチェックする程度にしか見ていません。ずっと自宅にいたので思考が内的になって自分らしさや個性について考える時間が増えました。結果、以前より自分が描きたい表現が出来るようにもなったので、絵を描く上で必要な時間だったのかなとも思います。
Q4
絵を描く時の思考や技術の礎、実作業の時の着想源や資料として利用するものはどんなものですか? また、2020年印象に残ったものは?
芸人さんがお話されている仕事論や漫才論は、自分の考え方の基礎になっていると思います。深夜ラジオのヘビーリスナーなのでいろいろな番組を聞いているのですが、「おぎやはぎのメガネびいき」「有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER」「オードリーのオールナイトニッポン」は特に勉強になります。もともとドキュメンタリーやノンフィクション作品が好きでよく見ていたのですが、2020年は「PRODUCE 101」というオーディション番組にハマったことをキッカケに、K-POPに多大な影響と着想を得ました。特にBLACKPINKはグループとしてのブランディングや、歌詞で明示されている女性像、ダンスの振り付け等、参考にしている部分が多いです。
Q5
仕事上で気を付けていること、知っていてよかったこと、今後身に付けたい技術や知識はありますか?
編集さんやデザイナーさんとチームで仕事に取り組む意識を大切にし、なるべく無駄のない進行や円滑なコミュニケーションが出来るよう心がけています。自己分析をする上で、大学で学んだ心理学の知識が役に立っていると思います。今後は絵本について勉強してみる予定です。
※本記事は『illustration FILE 2021 上巻』の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。