作家の野中柊さんによる新作絵本『おつきさまのスープ』(くもん出版)が刊行された。絵を担当したのは、イラストレーターの木原未沙紀さん。夜になると時々姿を消してしまう、くろねこのクロロの摩訶不思議なバースデーパーティーを緻密に美しく描いている。
今回はその発売を記念し、木原さんにインタビュー。初めて絵本の作画に挑戦した彼女に、絵本と装画の違いや、本作の見どころなどをお聞きする。
──絵本の依頼のきっかけについて、教えて下さい。
大変光栄なことに、著者の野中柊さんから直接ご指名を頂く形で依頼を受けました。これまで野中さんと親交があったわけではなく初めてお会いしたのですが、以前から私の作品を知って下さっていて、野中さんが本作の主人公・くろねこのクロロを思い付かれた際、私の絵のクロロを見たいと思って下さったそうです。
お話を頂いた時は大変うれしく、同時にクロロというキャラクターに姿を与えるという重責に背筋が伸びました。
──初めての絵本制作で苦労したことは何でしょうか? また表紙を描く上で装画との考え方や進め方の違いはありますか?
やはり32ページという枚数と、シーンをどのアングルから描いたら効果的な見え方になるのかが特に苦労しました。ラフを描いている時間の方が長かったのではないかと思います。
作業中は、この絵本の世界の中に自分もいちキャラクターとして存在し、横でみんながどんな顔をして何をしているのかをよく観察して絵に起こすという試みで挑みました。気持ちを完全に世界に没入させていたので、別の仕事のメールや着信が来るたびに意識が離れてしまい、再度入りこむのによく苦労しました(笑)。
装画は1冊の物語をまるごと集約しつつ、書店での見え方を意識して構成を考えるのでかなりデザイン的な作業です。要素を集め、紙面上で再構成する感覚で取り組むことが多いので、シーンを写し取る絵本とはまったく異なる感覚だと思いました。
──本作の見どころや、注目して欲しいところを教えて下さい。
こんなところにも何かいた! と繰り返し何度も楽しんでもらえるように、どのページにもたくさんの生き物たちや小物を全身全力で描きこみましたので是非見てもらいたいです。
また、子どもが読んだ時と大人が読んだ時で物語の受け取り方が変わるような、不思議で魅力的なお話だと思うので、長く親しんでもらえたらうれしいです。
──本作では主人公・くろねこクロロのほかに、彼のたくさんの友だち(生き物)が登場するなど、隅々まで楽しい仕かけが多くありました。物語を絵本として表現する際に、作者の野中柊さんとはどのようなやり取りがありましたか?
野中さんは「絵は木原さんにお任せします」と仰ったので、クロロのビジュアル以外、ほかの友だちたちなどは基本的にすべて私が生み出しました。私が生き物に洋服や装飾的なパーツを付けて描くことが多いことを野中さんが気に入って下さり、クロロは特におしゃれで特別な帽子を被せよう! ということになりました。頭に刺さっている魚は完全に私の遊び心です。最後までこの魚の顔は見えないですし、そもそもなぜ刺さっているのかなど、子供たちが気付いて新たな想像を広げてくれたらうれしいです。
──今後挑戦していきたいことを教えて下さい。
絵本制作はずっと憧れでしたので夢が叶って本当にうれしかったですが、同時に制作の大変さも身に染みました。
それでも自分の絵だけで1冊の本になり、キャラクターたちがこの世に生まれる喜びは何ものにも代えがたいものでした。今回絵本出版を記念した原画展を開催し、多くのイラストレーターの先輩からたくさんのアドバイスを頂きましたので、それらを活かして次は作・絵とも挑戦してみたいです。まだまだやりたいことに溢れています!
<プロフィール>
きはらみさき/主に動植物をモチーフとしたイラストレーション作品を制作。周りを緑に囲まれ、多様な動植物で溢れている山形県にて生活していたことが作風に大きな影響を与えた。
2018年に7年勤めた美大予備校講師を退職し、フリーのイラストレーターに。
仕事は書籍装画、広告、パッケージ、店内装飾など多岐にわたる。TIS会員。
『おつきさまのスープ』(くもん出版)
野中柊 作/木原未沙紀 絵
▼合わせて読みたい