税金や確定申告って、必要なことだけど何だか難しそう。一体、どこから手を付けたらいいの……? そう思って、漠然とした不安を抱えている人も多いはず。
本記事では、書籍『令和版 駆け出しクリエイターのためのお金と確定申告Q&A』(桑原清幸著)から、クリエイターのみなさんのお金にまつわるQ&Aを厳選して紹介。基本的な疑問、実践的な質問などを実例で分かりやすく解説します。第3回は、確定申告の疑問を解決。青色申告を選ぶとよい理由をご紹介します。
(全7回・連載のまとめはこちらから)
「青色申告」のメリットを教えて(その1)
今年からきちんと確定申告をしようと思っています。ところで青色申告にすると、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?
青色申告にすると、あなたの事業所得を一定額だけ減らすことができたり、今年の赤字を繰り越して将来の黒字と相殺できたりと、税金を安くするための様々な恩典が用意されているのです。
これまでの説明のとおり、青色申告は、「真面目に帳簿を付けてきちんと申告する人には、 税金を優遇してあげよう」という制度なのですが、具体的にはどんなメリットがあるのでしょうか。青色申告の恩典としてよく使われるものに、次の3つがあります。
①「青色申告特別控除」 その年の税金を安く!
②「純損失の繰越し・繰戻し」 将来の税金を安く!または前年の税金を取り戻す!
③「青色事業専従者給与の必要経費算入」 家族に給料を払って、経費にしてしまおう!
これから、この3つの恩典を順に説明していきます。
まず、その年の税金を直接安くできるのが、①「青色申告特別控除」という制度です。これは、青色申告をしているというだけで、あなたの1年間のもうけである「事業所得」から、最高65万円(e-Taxで提出する場合)まで特別に控除(所得が0円になるまでマイナス)できるという、とてもありがたい制度なのです。ただ、つい勘違いしてしまうのですが、「税金」 が65万円安くなるというわけではなくて、「事業所得」が65万円少なくなるという点です。
所得(もうけ)と税金との間には、以下の式の関係が成り立ちます。
所得(1年間のもうけ)× 税率(5〜45%)= 所得税
所得(もうけ)が増えるにしたがって、税率も上がっていくので、この「青色申告特別控除」で税金がいくら安くなるかはケースバイケースなのですが、例えば、税率が5%だったとして、事業所得から65万円控除することができれば、65万円×5%=3万2500円も所得税が安くなるのです。さらに、所得税だけでなく、住民税も安くなります。住民税の税率は10%となっています。そうすると、65万円×10%=6万5000円も住民税が安くなるのです。所得税と住民税の両方だと15%になりますから、合計10万円弱の節税になるのです。これなら、帳簿を付ける手間を考えても、「青色申告」をしたほうがメリットが大きいですよね。所得(税率)が上がるほど、さらにメリットが大きくなります。
ただし、「複式簿記」と「簡易簿記」で、この青色申告特別控除の金額が違ってきます。最高65万円はあくまで「複式簿記」を選択した場合です。「簡易簿記」を選んだ場合だと、最高10万円までしか控除できません。どうせやるなら、便利な会計ソフトを使って、「複式簿記」の65万円のメリットを得るほうが、断然お得なのです。
「青色申告」のメリットを教えて(その2)
私は夫婦でデザイナーをやっています。単発の仕事が多くて、収入にかなり波があります。「青色申告」にすると、私たちにも何かいいことがあるのでしょうか?
「青色申告」の3つのメリットのうち、収入が不安定なクリエイターの方に役立つ②「純損失の繰越し・繰戻し」と、配偶者や親族にも仕事を手伝ってもらっている方に役立つ③「青色事業専従者給与の必要経費算入」を活用しましょう。
ある年に、仕事があまりもらえずに、赤字になってしまったとします。税務上、赤字のことを「損失」といいます。事業所得から生じた損失は、給与所得や雑所得といった他のプラスの所得と相殺して、その年の税金を安くすることができます。損失と利益をプラスマイナスするので、「損益通算」といいます。ここまでは、白色申告の方も可能です。
しかし、1年間の所得と損失だけで「損益通算」しても、まだ相殺しきれない損失が残ることがあります。これを「純損失」といいます。あなたが、まだ「白色申告」だったとすると、「純損失」の多くは切り捨てられてしまいますが、「青色申告」の申請を出していれば、「純損失」を将来(翌年から3年間)に繰り越すことができます。翌年以降に出る黒字(プラスの所得)と相殺して、将来の税金を安くすることができる のです。3年間に限られますが、収入が不安定で、黒字と赤字の波があるクリエイターの方にとっては、とても助かる恩典なのです。
逆に将来ではなく、過去にさかのぼって税金を安くすることもできます。これが「純損失の繰戻し」です。前年は黒字で税金を払っていた場合に、その前年の税金をさかのぼって取り戻す(「還付」といいます)こともできる のです。ただし、これは「繰越し」の場合と違って、前年の1年分のみ取り戻すことができます。
このように、青色申告にしていれば、赤字を有効に活用できるのです。「食えないときこそ確定申告」と覚えておいてください。
青色申告のメリットの3つ目は、③「青色事業専従者給与の必要経費算入」です。これは、あなたの個人事業を手伝ってくれる配偶者や親族に給料を払ったら、その給料も事業の経費にしてもいいですよ、という恩典です。例えば、仕事を手伝ってくれた奥様に、給料として毎月5万円払ったとしたら、年間60万円も経費にすることができるのです。つまり、この分だけ所得(もうけ)を減らして税金を安くできます。これも、節税メリットが大きい制度です。
ただし、これが認められるためには、いろいろな条件があります。例えば、給料を支払う家族が、事業主と同居している(または別居でも生活費を負担している)ことや、年齢が15歳以上であること、この事業に「専従」(1年のうち6カ月超の期間は従事)していること、給料が一般的な水準に比べて高すぎないこと、さらに、税務署にきちんと届出をしていること、などなど条件がいくつもあるのですが、条件をクリアできれば、とてもメリットが大きいのです。
これ以外にも、青色申告には「少額減価償却資産の特例」という恩典もあります。例えば、高いパソコンや機材を買ったときに、本来は10万円未満までのところ、30万円未満まではその年の経費に入れてもいい(ただし、年間300万円まで)、といった特例もあります。
このように、青色申告にすると、税金が安くなるお得な恩典がいろいろとあるのです。
<プロフィール>
くわばらきよゆき/1972 年群馬県渋川市生まれ。桑原清幸会計事務所代表。税理士・公認会計士。上智大学在学中に公認会計士試験に合格。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。大手会計事務所で 20年間勤務したのち、独立開業。会計事務所とアートを融合したギャラリーKKAG(Kiyoyuki Kuwabara Accounting Gallery)を設立。クリエイター向けの独立開業、会社設立、確定申告等を中心とした税務・経営アドバイザリー業務を行い、会計専門家の立場からアートビジネスの発展を支えている。趣味はライカカメラ収集。写真の暗室作業の他、秘湯スタンプ集め、日本酒立ち飲み屋巡りなど。
ウェブサイト(kkag.jp)
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