駆け出しクリエイターのための著作権Q&A(第5回・契約書の見るべきポイント)

あなたの作品は大丈夫…?時間をかけて作ったものを無断盗用されたり、 はたまた知らずに著作権を侵害していたり…。トラブルに巻き込まれないためにも、最低限の知識は身につけておきたいものです。

本記事では、書籍駆け出しクリエイターのための著作権Q&A』(川上大雅著)から、クリエイターのよくあるトラブルの事例と回避策をご紹介。権利や契約、お金の話をやわらかく、少しかみ砕いて解説します。第5回のテーマはトラブルを未然に防ぐ「契約書の見方」についてです。

(連載のまとめはこちらから)

 

契約書の見るべきポイント

 フリーランスの場合、契約書をクライアントが用意してくれることが多いかもしれません。単純にこちらが書式を持っていなかったり、作成できる力が備わっていなかったりする場合がほとんどでしょう。

 「社内的にこれで」と言われたりと、修正を許してくれない場合もあったりするのですが、契約書を用意してくれる場合、善意からだけではないこともあると理解しておくべきです。

 また、契約書にサインする前に、ひととおり確認をして、まずいところがあったら指摘をしておき反映をさせていく必要があります。見るべきポイントの一例としては以下のとおりです。

 

1 代金の支払い時期・納品時期

 第3回でも触れたように、代金の支払い時期を確認しておくことが大事です。

 先払いなのか後払いなのか、納品との前後関係はどうなっているのか。お金は一番大事です。

 ところが、「別途仕様書で」との記載のもと、契約書には具体的なことが書いていない上、ついているはずの仕様書もなく、結局どこにも代金が書いていない契約書になっている場合などがあります。気をつけましょう。

 

2 著作権・著作者人格権の処理

 次に見るべきところとしては、著作権・著作者人格権の規定です。成果物の所有権と著作権は別です。著作権について「利用許諾」する場合と「譲渡」する場合があり、もめてしまったときにいろいろと違いが出てきます。

 「利用許諾」の場合、著作権は制作者に残ります。「譲渡」の場合、著作権は、クライアントに渡してしまいます。

 一般的には、「利用許諾」のほうが制作者に権利が残るので、コントロールを及ぼせる範囲が広くなります。譲渡の場合は、渡し切りになり、そのあとコントロールが全くできないような規定になっていることもあります。料金は、「利用許諾」のほうが低額となり、「譲渡」のほうが高額になる場合が多いと考えられます。ここは必ず確認してください。

 渡された契約書にどっちも書いていない場合やあいまいに別途協議とされている場合もあります。その場合は著作権に関する定めを入れるようにお願いしたほうが望ましいでしょう。

 

3 改変について

 また、改変をどこまでコントロールするのかも大事になります。変に直されてしまって原形をとどめない状態になってしまうこともあります。

 「一切の改変を許さない」とすればクリアではありますが、それだとクライアントにとって不便になることもありますから、このあたりは調整が必要です。

 

4 修正について

 何度も直しが入ってしまうと割に合わない仕事になってしまいます。どこまでお付き合いするのかを考える必要もあります。

 ここの定めを置かなかったばかりに、文字の組み合わせのみの単純なロゴマークの修正を200回させられたという都市伝説のような話を聞いたこともあります。場合によっては修正回数に制限などを加えてもいいかもしれません。

 

5 同種創作の可否、関連創作の可否

 キャラクターなどを制作する場合、また何らかのライター業務を行うとき、同種創作(同一あるいは、明らかに類似する成果物を制作すること)が縛られると実質何もできなくなる場合があります。このあたりが縛られていないかどうか契約書を見ておく必要があります。

 ここまでの情報を加味して、「業務委託契約書」のサンプルを書籍の巻末に掲載しておりますので、こちらも参考にしてみてください。実際の使用においては多少のカスタマイズは必要となりますが、どんなことを決めておくべきかという視点で見てもらうだけでも参考になるかと思います。

 


駆け出しクリエイターのための著作権Q&A』(川上大雅著)
「意外と」と言っていいのか、「全然」と言っていいのか、権利の話は避けて通ってきている人が多いでしょうし、契約やお金の話はさらに苦手で極力避けてきている人が多いのではないでしょうか。

本書は、そんなあなたに、著作権をはじめとする権利を少しやわらかく、契約やお金の話についても毛嫌いしないためのきっかけを与えるものです。巻末には、権利関係でもめないための7つの契約書ひな形を掲載。

<プロフィール>

かわかみたいが/弁護士・弁理士。

1980年、札幌生まれ。2008年に弁護士登録。札幌市内の事務所にて勤務。2010年にギャラリー「salon cojica」を開廊。2014年「札幌北商標法律事務所」開所、同所にギャラリーsalon cojicaを移転し、現在に至る。美術と法律のあいだで、様々な側面からクリエイターを支えている。近年の関わりとして「なえぼのアートスタジオ」「geidaiRAM」などがある。

https://www.satsukita-law.jp/
https://www.salon-cojica.com/

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