編集部がおすすめする、いま読みたい8冊

 

街に新緑の鮮やかさが際立つ今日この頃。5月も半ばを過ぎ、強くなり始めた日差しに初夏の気配を感じる方も多いのではないでしょうか。

重たいコートの代わりに、本を1冊持って出かけてみるのもいいかもしれません。絵本や作品集を中心に、読む人を物語の世界へ誘う8冊をご紹介します。ぜひお気に入りの1冊を見付けてみてください。

 


『すしねずみ』

はらぺこめがね 作

(ポプラ社)1,400円+税 D:漆原悠一(tento)

 

 

『たべて うんこして ねる』

はらぺこめがね 作・絵

(岩崎書店)1,500円+税 装丁:漆原悠一(tento)

夫婦イラストユニット「はらぺこめがね」による絵本が、2作立て続けに刊行。『すしねずみ』の主人公は、お寿司が大好きなねずみたち。6匹のかわいい悪だくみと、行く手を阻む新鮮な寿司ネタの魚が、画面いっぱいに表現されています。とことんうまくいかないねずみたちの様子は、気の毒なのに愛おしくもあり、その姿に自然と笑みがこぼれてしまいます。

もう一方、『たべて うんこして ねる』には、ある家族の温かい日々の営みが描かれます。毎日は「たべて うんこして ねる」の繰り返し。「食べる」ことが大好きな作者2人が、真摯に見詰めた「生きる」ことの本質は、かくもシンプルです。簡潔な言葉と、ダイナミックな絵で描かれる生活には揺るぎない力強さも感じ、悲喜こもごもの人生を、健やかに生き抜くための気付きを読者に与えてくれます。忙しい日々に追われ、ついついないがしろになってしまうことも多い食事の時間。はらぺこめがねの絵本を読めば、生きる糧となる「食べる」という行いのきらきらとした輝さに、その楽しさとかけがえなさを思い知らされます。

▶︎『すしねずみ』

▶︎『たべて うんこして ねる』

 


『中村一般作品集 忘れたくない風景』

中村一般 著

(玄光社)2,500円+税 D:佐々木俊(AYOND)

イラストレーターとしてのキャリアの最初期から現在までの作品を収録した、中村一般さんの初作品集。独特の筆致で描きこまれた風景描写は、視覚的な情報だけでなく、その中に流れる風や匂いを繊細に写し取り、微かな郷愁を感じさせます。特に、中村さんが大切にしているキリンのぬいぐるみ「マイク」を描いた連作には、個人的でありながら、誰の心にも存在する普遍的な風景が立ち上がっています。寂しさと温かさで心を静かに振動させ、見る者にも“体験”をもたらす1冊。

▶︎『中村一般作品集 忘れたくない風景』

 


『真鍋博 本の本』

五味俊晶 編著

(パイ インターナショナル)3,200円+税 図書設計:村松大輔

均一な線と大肥な色彩、そして独創的な発想で“未来”を描き、多くのSF作品の装画を手がけた真鍋博さん。本書は、星新一や筒井康隆をはじめとした書籍の装画、雑誌の表紙など、真鍋さんが生前手がけた「本」の仕事974点をまとめたアーカイブです。数多くの名作の扉となり、没後20年を経てなお、本好きの心から決して離れることのない真鍋さんの作品群。先行きの見えないいまこそ、必要なのは、未来への想像力を稼働する真鍋ワールドである気がしてなりません。

▶︎『真鍋博 本の本』

 


『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』

磯崎園子 著

(ほるぷ出版)1,600円+税 装画・装丁・本文画:三浦太郎 本文レイアウト:扇麻子(uNdercurrent)

月刊『こどもの本』(日本児童図書出版協会)の人気連載「絵本と年齢をあれこれ考える」が、選書リストや書き下ろし原稿を大幅に加え充実の単行本に。2000万人が利用する「絵本ナビ」の編集長でもある著者磯崎さんは、あくまで「絵本は自由」「読み方は千差万別」だと念押ししつつも、その年齢にしか味わえない「絵本の楽しみ方」もあることを自身の体験を基に惜しみなく教えてくれます。何かの理由で絵本から離れてしまった人も、好奇心をくすぐられ、きっと絵本に手が伸びてしまうはず。

▶︎『はじめての絵本 赤ちゃんから大人まで』

 


『みんなたいぽ』

マヒトゥ・ザ・ピーポー 文 荒井良二 絵

(ミシマ社)2,000円+税 BD:名久井直子

ロックバンドGEZAINのマヒトゥ・ザ・ビーポーさんと荒井良二さんが初コラボレーションした絵本の主人公は、「わるいやつ」を捕まえて「ろうや」に入れるのが仕事だというおまわりさん。パンを盗む、酷い言葉で人を傷付ける、そんな現場に居合わせる度「ろうやで はんせいしなさい!」と彼は職務をまっとうします。でも、「わるいやつ」らの行動の裏には理由があって……。分断が進み、対話が困難な時代において、世界にまっすぐな問いを突き立てるような唯一無二の作品です。

▶︎『みんなたいぽ』

 


『いちじくのはなし』

しおたにまみこ 作

(ブロンズ新社)1,100円+税 装丁:伊藤沙欧里(ガラパゴ)

 

2021年の発刊以来多くの人の心を鷲掴みにし、ブラチスラバ世界絵本原画展では金牌を受賞した『たまごのはなし』待望の続刊です。今回の中心人物はお話会を開催する「いちじく」。ハエ退治の功績に王様から授けられた勲章、大海原で海賊と渡りあって手に入れた魔法の飴…….壮大な冒険譚にキッチンは大盛り上がり。でも、これ本当の話? ひょっとして嘘…….?  大胆不敵ないちじくとキッチンの面々のやりとりが小気味よく、今回もほくそ笑んでしまうこと間違いなしです。

▶︎『いちじくのはなし』

 


『ちきゅうパスポート:えほん作家から地球の子どもたちへ』

24人の絵本作家 絵

(BL出版)1,800円+税 編集:広松由希子 D:タカハシデザイン室

「地球上にはいまも戦下で苦しむ子どもたちがいる」という事実に無力感を抱きながらも、何もしないわけにはいかないと絵本作家をはじめとする有志が集い、制作されました。誰もが手と手を結べるようにとの願いがこめられた蛇腹型の絵本には、作家たちが1見開きずつ「想像の国」を描いており、読者は何物にも脅かされることなくその国々を自由に旅することが出来ます。小さなパスポートを手の中でめくる度、想像する楽しさ、自由と平和の大切さを実感せざるを得ません。

*本の収益の一部は、ウクライナの子どもたちの支援として寄付されます。

▶︎『ちきゅうパスポート:えほん作家から地球の子どもたちへ』

 


本記事は『イラストレーション』No.238の内容を本ウェブサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

『イラストレーション』No.238


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