最果タヒさんと及川賢治さんによる絵本『ここは』。想像力が豊かに広がっていく1冊

さまざまなジャンルに活躍の場を広げる詩人・最果タヒさんが言葉を綴り、100%ORANGEの及川賢治さんが絵を添えた絵本が発売された。表紙には「ここは」という3文字のタイトルと、お母さんの膝の上に静かに座っている男の子。

注目の詩人と稀代のイラストレーターが初のタッグを組んで生まれた絵本は、一体どんなものなのだろうか。

「ここは、おかあさんの ひざのうえです。」という言葉から、お話がスタートする。

『ここは』は、男の子がいまいる場所をさまざまに捉え直していく絵本だ。お母さんの膝の上だった“ここ”は、山のふもとであり、大地の上でもあり……。ある時は空を飛ぶ鳥の高さから、またある時はお母さんの胸に包まれながら、男の子は視点を自由に移動させて自分の場所を見つめていく。

いくつもの視点で捉えられた“自分”は、以前よりもずっと立体的な存在だ。そして男の子がしていたように、読者はいつの間にか、自身の居場所についても自然と想像を巡らせてしまう。

 

最果さんのシンプルで奥深い言葉の魅力に、さらなる彩りを加えたのが絵を担当した及川さんだ。街のなかで遊ぶ子どもたち、何かに困った様子の人、部屋に転がるぬいぐるみ。及川さんの手によって、そこには物語の中心にいるお母さんと男の子以外の存在も、活き活きと描き出されている。

茶目っ気たっぷりなドラマがそこかしこに。ページに登場する人物やモチーフが、ほかのページでどんな風に登場するのかを見つけるのも楽しい。

また、ブックデザインにも注目してみたい。通常同じ色が使用されることの多い見返しだが、『ここは』では表見返しと裏見返しに異なる色が用いられている。色が選択された背景など、デザインを深読みをしていくのも面白い体験かもしれない。

上が表見返し、下が裏見返し。青から黒への変化は、物語に流れる時間が表現されているよう。ブックデザインは、有山達也+山本祐衣(アリヤマデザインストア)。

最果さん、及川さん2人の想像力がたくましく広がり、愛おしさのあふれる1冊として結実した『ここは』。

いま自分がいる場所に想いを馳せたり、絵の中に楽しい気付きを見つけたり。ページを繰りながら好奇心やおかしみを味わう体験は、きっとどんな人にとっても特別な時間になるに違いない。

 

<プロフィール>

最果タヒ・文
詩人。2006年現代詩手帖賞を受賞。2007年、第一詩集『グッドモーニング』で中原中也賞、2015年、詩集『死んでしまう系のぼくらに』で現代詩花椿賞を受賞。著書多数。

及川賢治・絵
1996年頃から100%ORANGEとして活動を開始。イラストレーション、絵本、漫画など幅広く活躍中。『よしおくんがぎゅうにゅうをこぼしてしまったおはなし』で日本絵本賞大賞を受賞。

 

『ここは』(河出書房新社)

最果さん、及川さんによる刊行記念エッセイが、河出書房新社のサイト「Web河出」にて公開されている。

 

『イラストレーション』No.212では100%ORANGEの2人のクリエイションを50ページにわたって紹介。
本人による解説付きの仕事紹介に、9000字にわたるロングインタビュー、描き下ろし漫画も収録しています。


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