グラフィックデザイン界の巨匠ミルトン・グレイザーが残した、最後のデザイン論集が発売に

「I ♥ NY」のロゴをデザインしたことでも知られるグラフィック・デザイナーのミルトン・グレイザー氏。今年91歳でこの世を去ったグラフィックデザイン界の巨匠が、最後に残したデザイン論集『スケッチ&フィニッシュ ミルトン・グレイザーのデザイン作法』(トゥーヴァージンズ)が12月23日に発売される。

グレイザー氏は、インテリアやプロダクトデザインなど数々の作品を残している。なかでも「I ♥ NY」のロゴと並び称されるのが、ボブ・ディランが1967 年に発表したアルバム『Bob Dylan’s Greatest Hits』に同封されたポスターだ。サイケデリックな色調で描かれたこのポスターは、当時の音楽ファンに強い印象を残し、いまなお彼の代表的な仕事の1つとして知られている。

本書ではボブ・ディランをはじめとしたミュージシャンの作品、出版物の装丁、商品広告や啓発ポスター、オブジェのデザインなど多岐にわたるスケッチと完成作品を紹介している。

『ディラン』コロンビア・レコーズのポスター(1967 年制作)
ポピー・レコーズのポスター(1967 年制作)
『アレサ・フランクリン』ポスター(1968 年制作)

また、世界中の人から認知されている「I ♥ NY」のロゴは、1977年に彼がニューヨークの観光キャンペーンのために制作した作品。代表作とも言えるロゴの誕生秘話を、彼自身が本書のなかで明らかにしている。

「このアイデアは、制作したロゴマークをニューヨーク州に認められた数日後に、タクシーに乗っていたとき思いついた。クライアントとの打ち合わせに向かう途中に、いたずら書きをしていたら、別のアイデアが心に浮かんだのだ。私はどうにかビル・ドイル(ニューヨーク州商務省の幹部)を説得して新たなデザインを検討させ、承認にこぎ着けた。もう少しで世に出なかったかもしれない、この小さな走り書きは、私の制作した中で最もいろいろなところで流用されるデザインとなった」(本文より)。

ニューヨーク州観光局のロゴマーク(1977年制作)

約200点に及ぶ作品を掲載し、グレーザー氏自ら制作過程を説明しながら“芸術的な才能とは何か”を解き明かす本書。世界的なデザイナーが最後に残したグラフィック・デザインの実用書は、デザインを生業にする人はもちろん、さまざまなクリエイターにとって役立つ、もの作りのヒントが詰まっているはずだ。

 

<プロフィール>

ミルトン・グレイザー/アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク、ブロンクス出身。グラフィックデザイン史の中で最も有名なグラフィックデザイナー の一人。1954 年に革命的なプッシュピン・スタジオを共同設立、1968 年にクレイ・フェルカーと「ニューヨーク・マガジン」を創 刊、1974 年にミルトン・グレイザー社を設立、1983 年にはウォルター・バーナードと共同で出版デザイン会社 WBMG を設立した。 2004 年にクーパー・ヒューイット国立デザイン博物館から特別功労賞、2011 年にはフルブライト協会から生涯功労賞に選ばれ、2009 年にはグラフィックデザイナーとして初めて全米芸術勲章を受賞。

 


『スケッチ&フィニッシュ ミルトン・グレイザーのデザイン作法』(トゥーヴァージンズ)


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