編集部がおすすめする、いま読みたい7冊

強くなり始めた日差しに夏の気配を色濃く感じる今日この頃。街中に満ちる花の香りに誘われて歩いて行くと、満開のバラによく出くわします。植物だけでなく、服や雑貨も色鮮やかなものが多く並ぶようになってきました。

今回ご紹介するのは、国内外の絵本を中心に、エッセイや創作に役立つ専門の書籍など7冊です。

ぜひお気に入りの1冊を探してみてください。

 


『ドクロ』

ジョン・クラッセン 著 柴田元幸 訳(スイッチ・パブリッシング)

2,700円+税 日本語版BD:宮古美智代

「ぼうし」シリーズ(*1)や「△□◯」シリーズ(*2)など、日本では絵本作家・長谷川義史さんの大阪弁のとぼけた翻訳との対比が印象的で、スリリングも愛らしく、独特なユーモアに満ちた作風が大人気の絵本作家・イラストレーターのジョン・クラッセンさん。最新作はそんな著者がアラスカの図書館で出会った民話を着想源に描き下ろした100ページ超えの長編絵本で、原書は2023年7月の発表以来『The New York Times』の絵本ベストセラー・リスト第1位を獲得するなど、高く評価されてきました。本書の翻訳者で、ポール・オースターやレベッカ・ブラウンなどのアメリカ現代文学を中心に邦訳を手がけてきた名手・柴田元幸さんも「(前略)クラッセンの作品群の中でも、本書は最高傑作の部類に属すと思う。」と評します。

表紙から読み取れるように、本作は闇に包まれた雪降る森を逃げる子ども”オティラ”と、大きな屋敷で孤独に暮らず“ドクロ”の出会いを端緒に展開していきます。時間の流れや登場人物の心の動きをつぶさに掬い取り、隅々まで冴え渡るイラストレーションとデザインは見れば見るほどに発見が生まれ、これまでの作品にも通底する刺激的でダークな世界観のより深部まで潜っていくような愛を感じるラストは読み手に瑞々しい気持ちをもたらすはずです。著者と翻訳者の制作(翻訳) 背景が垣間見える、示唆的なあとがきも必見。

(*1)『どこいったん』『ちがうねん』『みつけてん』からなるシリーズ(ジョン・クラッセン 作/クレヨンハウス)。

(*2)『サンカクさん』『シカクさん』『マンマルさん』からなるシリーズ(マック・バーネット 文、ジョン・クラッセン 絵/クレヨンハウス)。

▶︎『ドクロ』

 


『デヴィッド・ストーン・マーティンの素晴らしい世界』

村上春樹 著(文藝春秋)

2,300円+税 装丁+本文D:大久保明子

ジャズの黄金時代に数々の名盤のジャケットデザインを手がけた米国のアーティスト、デヴィッド・ストーン・マーティン。本書は、彼がデザインしたレコードを蒐集してきた、村上春樹さんが所有する全188枚をオールカラーで紹介。収録された数々の名プレイヤーの演奏について、村上さんが縦横無尽に綴ったジャズ・エッセイです。音楽に浸る喜びを感じさせてくれると同時に、村上さんが「デザインやイラストレーション」のことを語っているという意味でも興味深く、稀有な1冊と言えます。

▶︎『デヴィッド・ストーン・マーティンの素晴らしい世界』

 


『わたくし大画報』

和田誠 著(ポプラ社)

1,600円+税 装丁+カット:和田誠 DTP:川名潤

1982年に刊行された、和田誠さんの貴重なエッセイが復刊。谷川俊太郎さんや渥美清さん、永六輔さんとのエピソードなど、その華やかな交友関係に改めて目を見張ると共に、イラストレーションや装丁について語られる言の端々からは、和田さんが仕事へ向き合う時のスタンスも臨場感たっぷりに伝わってきます。 “自分自身について滅多に語らなかった”という和田さんですが、本書には、家族や子育てなど私生活についても飾らない言葉で綴られており、「人間・和田誠」の姿を垣間見ることが出来ます。

▶︎『わたくし大画報』

 


『まよなかのかいじゅう』

阿部結 作+絵(徳間書店)

1,800円+税 本文+カバーD:鳴田小夜子(KOGUMA OFFICE)

「ごおー ぷすー」というものすごい音が聞こえて、真夜中に目を覚ましたれいちゃん。隣で寝ていたあやちゃんを起こし、音のする部屋の方へ向かうと、大きな怪獣がベッドで眠っていました。怖いものなしの2人は、怪獣調査を始めて……。暗闇に現れた怪獣は、輝くようなピンク色。恐ろしさをあまり感じさせないその姿は、小さな姉妹の無垢な好奇心を映し出しているかのようです。躍動感たっぷりの大胆な構図からも、2人の無邪気な「わくわく」が手に取るように伝わってきます。

▶︎『まよなかのかいじゅう』

 


『ゆきのゆきちゃん』

きくちちき作(ミシマ社)

2,500円+税 装丁:サイトヲヒデユキ

ある寒い冬の日に散歩に出かけたネコの「ゆきちゃん」は、行く先々で森の動物たちに出会います。降りしきる雪の中で、「ゆきと おなじなまえなの なんでか しってる?」と自身の名前の由来を問いかけると、思い思いの答えが返ってきて……。銀色のインクで表現された、静かで美しい白銀の世界。その中で繰り広げられるゆきちゃんと動物たちの戯れは、命の躍動そのものです。表紙の紙の風合いやタイトルの箔押しなど、細部までこだわりを感じさせる装丁にも注目。

▶︎『ゆきのゆきちゃん』

 


『ポケット特殊印刷図鑑』

デザインのひきだし編集部 編(グラフィック社)

2,400円+税 BD:中西要介+大下琴弓(STUDIO PT.)

印刷・紙・加工など、デザイナーに必須の技術情報を毎号密に紹介する『デザインのひきだし』編集部が、100種類以上の「特殊印刷」について徹底的に紹介・解説した渾身の図鑑。プロの仕事に役立つことはもちろん、初めて印刷物を作りたい人にも基本を押さえつつ、多種多様な特殊加工の名称とその特徴、実際に依頼出来る会社名まで明示してくれています。2023年7月発刊の『ポケット製本図鑑』とセットで揃えることで、さらに心強い味方になることは間違いありません。

▶︎『ポケット特殊印刷図鑑』

 


『ひとつぶのおくりもの』

マーシー・キャンベル 文 フレンチ・サンナ 絵

なかがわちひろ 訳(あかつき教育図書)

1,800円+税 D:中嶋香織

ある草原に暮らす男の子と、彼の大好きなおばあちゃんとが育む温かな関係性からこの物語は始まります。温かな抱っこにパンケーキ、小さなひとつぶの命を上手に育てる知恵、有形無形にかかわらずおばあちゃんから受け取ったものはずっと男の子の心に留まり続け、新たな家族、彼らが育てた森に集う人にも伝播していきます。穏やかながらも著者の人間への確かな信頼が伝わり、フレンチ・サンナさんの色彩溢れる豊かな表現、なかがわちひろさんの柔らかな翻訳も味わい深い絵本です。

▶︎『ひとつぶのおくりもの』

 


※本記事は『イラストレーション』No.242の内容を本ウェブサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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