いせひでこさんが「生きる」を描いた絵本『たぬき』

2021年秋、画家・絵本作家のいせひでこさんによる絵本『たぬき』(平凡社)が刊行されました。

2011年3月11日の東日本大震災から、いせさんは地震の記録、原発事故の報道を小さなノートに記していました。6月の夜、いせさんの小さな森のような庭にたぬきの一家が現れ、その日から「地震日記」は〈たぬ記〉になり、地震の記録とともに、小さな命の観察日記が始まります。本書は、〈たぬ記〉につづられた日々を絵で再現したものです。

いせさんの庭で生まれたたぬきの兄弟は、両親や庭の草木、庭に訪れる鳥たちに囲まれ成長していきます。初めは見分けの付かなかったたぬきたちに、ふと個性があらわれている様子など、いせさんの体験した時の流れを自然に感じられます。

優しい鉛筆と水彩で描かれる流れるような毛並みや動物たちの生き生きとした動き……小さい命は危ういながらも力強い生命力に満ちています。

大地の揺れが続く緊迫感の中で流れるたぬきとの時間は、まるでまぼろしを見ているかのよう。

この10年間、3月には津波の跡地を歩いてきたといういせさん。2021年3月11日、被災地から帰ると湧き上がった「生きる」を描きたいという思いからこの絵本は生まれました。ぜひ手にとって、あるがままの「生きる」を感じてみませんか?

 

〈プロフィール〉

いせひでこ/画家・絵本作家。1949年、北海道札幌生まれ。東京芸術大学卒業。デビュー作『マキちゃんのえにっき』(講談社)で野間児童文芸新人賞受賞。『1000の風 1000のチェロ』『にいさん』(偕成社)など多くの作品を発表。フランスをはじめ海外で翻訳・出版されている絵本も多数。2011年の東日本大震災後に、子どもたちの未来に祈りをこめて、植物の種の芽吹きにいのちを託した『木のあかちゃんズ』を緊急出版、『わたしの木、こころの木』(共に平凡社)には宮城県亘理吉田浜のクロマツ、庭のたぬ木の物語を描いている。

 


『たぬき』

いせひでこ 著(平凡社)

1,760円(税込)装丁:いせひでこ+寺本敏子(秋耕社)


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