日々刊行されるたくさんの書籍のなかから、イラストレーション編集部がおすすめする７冊を紹介します。
春が近付き、だんだんとうららかな陽気の日が増えてきました。出会いと別れの入り乱れる賑やかな季節。新年度を迎える前に、新たな本との出会いも探してみてはいかがでしょうか。
『ちいさなトガリネズミ』
みやこしあきこ 作
（偕成社）1,400円＋税 装丁：坂川朱音
規則正しく生活する、働き者のトガリネズミ。一見すると、どこにでもある何気ない日常を過ごしているのですが、ある日にはガレージセールで掘り出し物を見付けたり、またある日には１年振りに会う友だちを家に迎える準備をしたり……その毎日にはささやかな喜びがきらりと光ります。木炭と水彩絵具で描き出されたトガリネズミの姿は、静かながらも雄弁で、生活を豊かにしようとする前向きさや健気さ、何かに胸膨らませる気持ちが手に取るように伝わってくるようです。丸く型抜きされたカバーから覗くトガリネズミは一際愛らしく、私たちの日々をも小さく勇気付けてくれるような１冊です。
『詩画集 目に見えぬ詩集』
谷川俊太郎 詩 沙羅 木版画 美篶堂 編・製本
（Book＆Design）2,600円＋税 装丁：守屋史世
時代を経てなお心や情景を鮮やかに切り取る谷川俊太郎さんの詩と、木版画家・沙羅さんの星のような美しさを放つ作品が本の中で響き合い、新たな読み心地を得ました。以前より谷川さんと多くのプロジェクトを行ってきた製本会社美篶堂が選詩、製本を担当して完成したこだわりの造本はもちろん、デザインや書体などすみずみにまで作り手の思い入れが感じられ、書名にふさわしい佇まい。ひとたび手に取れば、誰もが詩の世界に深く没入してしまうはずです。
『CINEMATIC ILLUSTRATION 心を揺さぶる瞬間を描く新世代のイラストレーター』
グラフィック社編集部 編 塚田優 序文
（グラフィック社）2,000円＋税 カバーill：秋野コゴミ D：名和田耕平デザイン事務所（名和田耕平+小原果穂+山地楓子）
本書では連続した時間軸から瞬間を切り取ったようなストーリーを感じさせる作品を「CINEMATIC ILLUSTRATION」と称し、イラストレーション表現の変化を浮かび上がらせるような試みがなされています。誇張のない表現で描かれたリアリティのある作品は、静かな共感と心の震えを呼び起こします。大島智子さんやくまおり純さんみなはむさんなど24名の作家の作品を紹介するだけでなく、巻末に全員のインタビューを収録することで、個々の作家性や制作背景にも迫る充実の内容。
▶︎『CINEMATIC ILLUSTRATION 心を揺さぶる瞬間を描く新世代のイラストレーター』
『塗り絵ポストカードブック おしごとどうぶつ編』
秦直也 著
（河出書房新社）900円＋税 D：清水肇（prigraphics）
16作品の原画と塗り絵が楽しめる、合計32枚が収録されたポストカードブック。ウサギの小説家、ペリカンの郵便配達員、ラッコの書店員などさまざまな仕事をする動物たちを、秦直也さんが温かなユーモアと想像力で描き出しました。また本書内では、色鉛筆を使った塗り方レッスンも掲載。秦さんの原画を参考に、それぞれの動物たちの息遣いに耳を澄ませて自由な心で着彩したポストカードは、きっと大切な人に贈りたい１枚になるはずです。
『ブラチスラバ世界絵本原画展 2022-23 絵本でひらくアジアの扉』
足利市立美術館+うらわ美術館+千葉市美術館+新潟市新津美術館+東大阪市民美術センター 編著
（青幻舎）2,500円＋税 D：松田行正+杉本聖士
世界最大規模の原画コンクール「ブラチスラバ世界絵本原画展（BIB）」日本巡回展の公式カタログである本書は、BIB 2021受賞作品に加え、近年とりわけ活躍が目覚ましい日本と韓国の作家たちに焦点を当てて紹介しています。さらに出版社や書店など、作家を取り巻く現場からのメッセージも幅広く収録。アジア諸国での盛り上がりとその背景、絵本が生まれ読者に届くまでにこめられた想いなど、世界の絵本の“いま”が分かる貴重な資料です。
▶︎『ブラチスラバ世界絵本原画展 2022-23 絵本でひらくアジアの扉』
『うみべのストーブ 大白小蟹短編集』
大白小蟹 著
（リイド社）800円＋税 装丁：名久井直子
これまでウェブやZINEで作品を発表してきたマンガ家・イラストレーター大白さん初の単行本で、表題作「うみべのストーブ」は連載時の２色刷りを再現した贅沢な１冊です。収録された７篇のマンガは誰もが大なり小なり感じたことがあるであろう喪失や諦念と丁寧に向き合いつつも、最終的にこの人物たちは自分なりの光を見付け、それぞれの生活を営み続けていくのだろうという希望を感じさせてくれます。作品ごとに詠まれた短歌もそこに流れる時間を凝縮したような読み心地です。
『ILLUSTRATION 2023』
（翔泳社）2,800円＋税 カバーill：はなぶし 装丁：有馬トモユキ
現代のイラストレーションシーンで活躍する150名の作家が掲載された『ILLUSTRATION』シリーズ最新刊。高い印刷技術によって鮮やかに再現された各作品もさることながら、特に注目したいのは、人気バンドのMVも手がけるはなぶしさんが担当したカバー作品です。巻末に掲載されたデザイナーの有馬トモユキさんとの対談では、袖部分まで描いたという原画、鉛筆画の下描きを印刷した表紙などについて明かされており、その装丁の趣向にも目を見張ります。
本記事は『イラストレーション』No.237の内容を本ウェブサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
