日々刊行されるたくさんの書籍のなかから、イラストレーション編集部がおすすめする7冊を紹介します。
遠出の難しいいま、本をとおしてさまざまな世界を冒険してみるのはいかがでしょうか? 絵本や画集などさまざまなジャンルから、お気に入りの1冊を見つけてみて下さい。
『宇野亞喜良画集 Kaleidoscope(カレイドスコープ)』
宇野亞喜良 著 高橋睦郎 文
(グラフィック社)4,500円+税 BD:大島依提亜
宇野亞喜良さんが2020年から2021年までの約2年間に描いた44作品を収録する、7年ぶりの作品集。さまざまな俳人、時に自身の俳句から着想を得た作品群は巻末の詩人・高橋睦郎さんの言葉を借りて言えば「俳句の視覚化」で、蠱惑的な魅力に満ち満ちています。そして、その作品世界は卓越した印刷技術によって、圧倒的な存在感をますます確かにしました。『デザインのひきだし』の編集長・津田淳子さんが特殊印刷設計を、大島依提亜さんがブックデザインを担当し、印刷はもちろん、用紙や綴じ糸までこだわり抜いて、宇野さんの理想を具現化。原画がどう描かれ、印刷物としてどう再現されたかを知ることが出来る巻末インデックスは、作家や制作者の試行錯誤を辿る1つの手がかりになるはずです。
▶︎『宇野亞喜良画集 Kaleidoscope(カレイドスコープ)』
『和田誠 日活名画座ポスター集』
和田誠 著
(888ブックス)4,500円+税 装丁:大島依提亜+勝部浩代
和田誠さんはかつて新宿にあった日活名画座の映画ポスターを22歳から30歳まで無償で制作していました。意外にもこれまでその全貌は明らかではありませんでしたが、本書では和田誠事務所に保管されていた185点のポスターを一挙に見ることが出来ます。時を経てなお洒脱で大胆なポスターの数々に痺れると共に、若かりし和田さんの情熱と探究心が感じられる1冊。当時のポスターの空気を感じられる、シルクスクリーン印刷の表紙にも注目です。
『DISCOVER』
unpis 著
(グラフィック社)2,500円+税 AD+D:熊谷彰博
洗練された気持ちのよい描線と色彩で、生活の中にある物体や現象の思いがけない一瞬を鮮やかに切り取るunpisさんの初作品集。見応えのある作品をたっぷりと収録するだけでなく、ミニポスターやステッカーの特典、小口の仕かけなど、“本”を最大限に楽しむ工夫が随所に施されています。unpisさんの視点をひと度インストールすれば、きっと誰もが、日常のささやかなユーモアや得も言われぬ不可思議さに目を凝らしたくなるはずです。
『えきべん と ふうけい』
マメイケダ 作
(あかね書房)1,400円+税 D:有山達也+中本ちはる(アリヤマデザインストア)
マメイケダさんによる2作目の絵本は、駅弁と車窓からの景色を描いた旅情を掻き立てる1冊。東京から島根へ向かう鉄道旅の道中では、「パッチン!」という割り箸を割る音を合図に、実在する各地の駅弁と日本を象徴する名所が次々と登場します。見開きいっぱいに描かれるご当地の弁当に食欲を刺激されるのはもちろんのこと、代名詞とも呼べる“食べ物”と並行して、マメさんがずっと描いてきた“風景”をたっぷりと楽しめるのも魅力です。
『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』
ポール・オースター 著 柴田元幸 訳 タダジュン 絵
(スイッチ・パブリッシング)1,700円+税 BD:宮古美智代
ポール・オースターが『The New York Times』に寄稿した不朽の短編小説が、約30年を経て絵本になりました。ブルックリンの街角で偶然出会ったオーギーとポールの温かでいささか奇妙なクリスマス・ストーリーは、柴田元幸さんの小気味よくも豊かな翻訳に加え、タダジュンさんの人や動物、ものまでもが息づくような絵によって新たな読み心地を得ています。手に収まる判型と柔らかなカバーの質感も、より深い読書体験への没入を助けてくれます。
『旅する小舟』
ペーター・ヴァン・デン・エンデ 著
(求龍堂)2,800円+税 装丁+D:クラフト・エヴィング商會(吉田浩美・吉田篤弘)
芸術を愛し、デザイン技術と生物学を学んで、ケイマン諸島でネイチャーガイドとして働いたこともある作者の鮮烈なデビュー作は、緻密な黒い線で描かれる小舟の壮大な冒険譚。弱々しくも広大な世界を進み行くその姿は、文字がなくとも、モノクロであっても熱を帯び、読み手の胸を打ちます。また、読後に誰かと話をしたくなったその時。翻訳家・岸本佐知子さんの文章と対話出来ることは日本の読者にとって幸福に違いありません。
▶︎『旅する小舟』
『ダーラナのひ』
nakaban 著
(偕成社)1,400円+税 装丁:漆原悠一(tento)
どこか遠い異国の地を思わせる服をまとった旅人・ダーラナが海に辿り着くと、波や沈む夕日、流れ着いた小枝たちが、ここで休み、たき火をするよう、次々とささやきかけます。真っ暗な夜に明るく暖かな火があることの心強さ、炎を見つめ過ぎ行く静かな時間に去来する昔の記憶ーーnakabanさんが描き出す、世界に受け入れられているような感覚と孤独とが同居するこの物語は、長引くコロナ禍でより一層私たちの心の奥底を照らし出してくれます。
▶︎『ダーラナのひ』
本記事は『イラストレーション』No.233の内容を本Webサイト用に調整・再録したものです。記載している内容は出版当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承下さい。
今回のBOOKS REVIEWも掲載されている『イラストレーション』No.233。アニメーターとしてのキャリアを持ち、現在はイラストレーションの仕事をメインに活躍している米山舞さんを48ページにわたって特集しています。